ステークホルダーとは何か?ビジネス上の意味や関わり方を簡単にわかりやすく解説

ビジネスの世界で「ステークホルダー」という言葉を耳にする機会は非常に多いでしょう。
企業の会議やプロジェクトの計画、あるいは経営戦略に関するニュースなど、様々な場面で使われる重要なキーワードです。
しかし、その正確な意味や対象範囲を正しく理解していないという人も少なくないはずです。
そこでこの記事では、ステークホルダーとは何かという基本的な定義から、その種類、そして中小企業がステークホルダーとどのように関わっていくべきかまで、簡単にわかりやすく解説します。
目次
ステークホルダーとは何か?簡単にわかりやすく解説
まずは、「ステークホルダー」という言葉の基本的な意味と語源について理解を深めていきましょう。
ビジネスにおけるステークホルダーの意味
ビジネスにおけるステークホルダーとは、企業のあらゆる活動によって直接的または間接的に影響を受ける「利害関係者」の総称です。
ここで言う利害関係者とは、単に金銭的な利益を得たり損をしたりする人たちだけを指すわけではありません。
企業の製品やサービス、雇用、環境への配慮、法令遵守といった様々な活動に関わる、非常に広範な人々や組織が含まれます。
具体的には、製品を買ってくれる顧客、会社で働く従業員、資金を提供する株主や銀行はもちろんのこと、商品を納入してくれる取引先、事業所が立地する地域社会、ルールを定める行政機関などもすべてステークホルダーです。
企業は、自社だけの利益を追求するのではなく、これらの多様なステークホルダーとの関係性を良好に保ちながら事業活動を行うことが、現代の経営では強く求められています。
ステークホルダーの語源
ステークホルダーという言葉の成り立ちを知ると、その意味をより深く理解できます。
「ステークホルダー(stakeholder)」は、英語の「stake(賭け金、出資金、利害)」と「holder(保有者)」という二つの単語を掛け合わせてできた言葉です。
直訳すると「利害を保有する人」となり、まさに企業の活動と何らかの利害関係を持つ人々を指していることがわかります。
この言葉が広く使われるようになった背景には、経営に関する考え方の変化があります。
かつては、企業は株主(stockholder)のものであり、株主の利益を最大化することが最も重要だと考えられていました。
しかし、企業の活動が社会に与える影響が大きくなるにつれ、株主だけでなく、顧客や従業員、社会全体といったより広い範囲の関係者(stakeholder)に配慮した経営を行うべきだ、という考え方が主流になってきたのです。
ステークホルダーの種類は2つ
ステークホルダーは非常に多岐にわたりますが、企業との関係性の深さによって、大きく「直接的ステークホルダー」と「間接的ステークホルダー」の2種類に分類することができます。
それぞれ、詳しく解説していきます。
直接的ステークホルダー
直接的ステークホルダーとは、企業の事業活動に直接的な関わりを持ち、その行動や意思決定から直接的な影響を受ける、あるいは与える存在のことです。
彼らの存在なくして、企業の活動は成り立ちません。
直接的ステークホルダーの代表的な例としては、以下のような人々や組織が挙げられます。
- 株主・投資家
- 経営者・役員
- 従業員・社員
- 顧客・消費者
- 取引先(仕入先、販売代理店など)
仮に企業の業績が悪化すれば、従業員は給与や雇用の不安を感じ、株主は配当金や株価の下落という形で直接的な損失を被ります。
このように、企業の活動と運命を共にする関係にあるのが、直接的ステークホルダーの特徴です。
間接的ステークホルダー
間接的ステークホルダーとは、企業の活動に直接的には関与しないものの、その活動によって間接的な影響を受ける存在を指します。
直接的な取引関係などはありませんが、企業の社会的な存在感が増すにつれて、その重要性は高まっています。
間接的ステークホルダーの代表的な例としては、以下のような人々や組織が挙げられます。
- 従業員の家族
- 地域社会・住民
- 行政機関・政府
- 金融機関
- 競合他社
たとえば、企業が工場を建設すれば、地域の雇用が生まれる一方で、騒音や環境汚染の問題で地域住民に影響を与える可能性があります。
また、企業の活動は国の税収や法規制にも関わってきます。
これらの間接的な関係者も、企業の持続的な成長において無視できない存在なのです。
代表的なステークホルダーの例
ステークホルダーの範囲は広いですが、ここでは特に企業が意識すべき代表的な存在をいくつか取り上げます。
それぞれが企業に何を期待し、どのような関係にあるのかを具体的に見ていきましょう。
株主や投資家
株主や投資家は、企業に対して資金を提供することで事業活動を支える、非常に重要なステークホルダーです。
非上場の中小企業の場合、出資者や銀行、あるいは事業を支える主要な取引先などが、実質的な『株主・投資家』の役割を担うこともあります。
彼らは出資の見返りとして、企業が上げた利益の一部を配当金として受け取ることや、企業の成長による株価の上昇を期待しています。
そのため、企業の経営状況や将来性に対して常に強い関心を持っており、経営の透明性や健全性を厳しく監視する立場にあります。
企業の経営者は、株主総会などを通じて、株主や投資家に対して経営状況を報告する責任を負っており、株主や投資家の意向は経営の重要な意思決定に大きな影響を与えるのです。
従業員
従業員は、日々の業務を通じて企業の製品やサービスを生み出し、事業活動を最前線で支える存在です。
彼らが企業に期待するのは、安定した雇用と公正な給与だけではありません。
働きがいのある仕事内容、キャリアアップの機会、安全で健康的な労働環境、そして適切なワークライフバランスなども重要な要素となります。
従業員の満足度が高ければ、生産性の向上や離職率の低下に繋がり、ひいては企業全体の成長に貢献します。
逆に、従業員を軽視するような経営は、優秀な人材の流出を招き、企業の競争力を著しく損なう結果を招くでしょう。
消費者
消費者(顧客)は、企業が提供する製品やサービスを実際に購入し、利用する人々です。
企業の売上は、消費者の支持なくして成り立ちません。
消費者が企業に求めるのは、単に安価であることだけではなく、品質の高さ、安全性、優れた機能性、そして購入後のアフターサービスといった総合的な価値です。
近年では、企業の環境保護への取り組みや社会貢献活動といった、倫理的な側面を重視する消費者も増えています。
消費者の信頼を裏切るような行為は、不買運動やブランドイメージの失墜に直結するため、企業は常に真摯な姿勢で向き合う必要があります。
取引先
取引先には、製品を作るための原材料や部品を供給してくれるサプライヤーや、完成した製品を販売してくれる販売代理店などが含まれます。
これらのパートナー企業との良好な関係は、安定的かつ効率的な事業運営に不可欠です。
取引先が企業に期待するのは、公正な価格での取引、安定した発注、そして契約通りの期日での支払いなどです。
どちらか一方が不当に利益を得るような関係ではなく、お互いがパートナーとして共に成長していく「共存共栄」の精神が求められます。
サプライチェーン全体で信頼関係を築くことが、企業の競争力を支える基盤となるのです。
金融機関
銀行などの金融機関は、企業が設備投資や新規事業を始める際に必要となる資金を融資する役割を担います。
特に、自己資金が限られる中小企業にとって、金融機関は事業の成長を支える上で欠かせないパートナーと言えます。
金融機関が企業に求めるのは、事業計画の妥当性と、貸し付けた資金が利息と共に確実に返済されることです。
そのために、金融機関は企業の財務状況や経営状態を厳しく審査します。
日頃から良好な関係を築き、経営の透明性を確保しておくことが、いざという時のスムーズな資金調達に繋がります。
ステークホルダーと中小企業が良い関係を築くために知っておくべきこと
企業の持続的な成長には、多様なステークホルダーとの良好な関係構築が不可欠です。
そのために役立つ経営の考え方として、「ステークホルダーマネジメント」と「ステークホルダーエンゲージメント」があります。
ここでは、それぞれの意味と中小企業における活用法を解説します。
ステークホルダーマネジメント
ステークホルダーマネジメントとは、企業やプロジェクトの「利害関係者」を管理することです。
プロジェクトや経営活動に関わる様々なステークホルダーを特定し、それぞれの要求や期待、影響力を分析した上で、良好な関係を築きながら目標達成に向けて計画的に働きかけていきます。
このマネジメントは、一般的に以下のステップで進められます。
- プロジェクトや自社の活動に関わる利害関係者をすべて洗い出して特定する。
- 特定したステークホルダーが持つ関心事、期待、影響力の大きさを分析・評価し、優先順位をつける。
- 分析結果に基づき、各ステークホルダーとどのようにコミュニケーションを取り、関係を構築していくかの具体的な計画を立てる。
- 計画に沿ってコミュニケーションなどを実行し、その反応や関係性の変化を継続的に監視・管理する。
このプロセスを通じて、ステークホルダーからの協力や支持を得やすくなり、逆に反対や抵抗といったリスクを最小限に抑えることが可能になります。
ステークホルダーエンゲージメント
環境省では、ステークホルダーエンゲージメントについて以下のように説明しています。
ステークホルダーエンゲージメントとは、事業者がステークホルダーのことをよく理解し、ステークホルダーとその関心事を、事業活動と意思決定プロセスに組み込む組織的な試みであり、事業者が単独で実施する場合やステークホルダーと協働して実施する場合など、非常に多様な行動体系を意味しています。 |
企業が一方的に情報を発信するだけでなく、意見交換会やアンケート、共同プロジェクトなどを通じて、ステークホルダーに意思決定のプロセスに参加してもらうことがエンゲージメントの鍵です。
これにより、企業は社会のニーズや期待の変化をいち早く察知できるほか、ステークホルダーからの信頼や共感を獲得し、企業の活動に対する強力なサポーターになってもらうことが期待できます。
CSR(企業の社会的責任)活動やサステナビリティ経営において、特に重要視される考え方です。
それぞれの違いや中小企業における具体的な活用例
ステークホルダーマネジメントとエンゲージメントは密接に関連していますが、その焦点には違いがあります。
端的に言えば、マネジメントは「目標達成のためのリスク管理と関係調整」、エンゲージメントは「信頼構築と価値共創のための対話と協働」となります。
ステークホルダーマネジメント | ステークホルダーエンゲージメント | |
目的 | プロジェクトや経営目標の達成 | 相互理解と信頼関係の構築、価値共創 |
方向性 | 企業からステークホルダーへの働きかけ | 企業とステークホルダーの対話 |
特徴 | 一方向的側面が強い | 双方向的 |
中小企業がこれらを活用する際の具体例を考えてみましょう。
たとえば、新製品の開発プロジェクトにおいて、主要な取引先や顧客を「ステークホルダーマネジメント」の対象として特定し、彼らの納期や品質に対する要求を正確に把握して開発計画を調整します。
一方で、事業所のある地域社会に対しては「ステークホルダーエンゲージメント」の考え方に基づき、地域の清掃活動やお祭りに積極的に参加し、住民との対話の機会を設けます。
これらの活動により、企業の評判を高め、地域に愛される存在を目指すことができるでしょう。
中小企業はステークホルダーとどのように関わっていくべきか
中小企業におけるステークホルダーとの関わり方は、大企業のそれとは本質的に異なります。
専門の部署を設置し、潤沢な予算を投じて大規模なCSR活動を展開する大企業と同じアプローチを取ることは現実的ではありません。
リソースが限られているからこそ、中小企業は自社の最大の強みである「経営者との距離の近さ」を最大限に活かすべきなのです。
その鍵を握るのは、経営者自身が広告塔となり、前面に立ってステークホルダーとの身近な関係性を築いていく姿勢です。
たとえば、従業員に対しては、経営者が定期的に以下のような直接対話の場を設け、一人ひとりの声に真摯に耳を傾けることが重要となります。
- 定期的に従業員とのランチ会を開く
- 1on1ミーティングを実施する
- 年に一度、顧客を招いて意見交換会を開く
これにより、風通しの良い、働きがいのある職場環境が生まれ、従業員のエンゲージメント向上に直結するでしょう。
この姿勢は、製品やサービスを購入してくださるお客様や、事業を支えるパートナー企業に対しても同様に重要です。
- 経営者が自らお客様のもとへ足を運び、直接その声に耳を傾ける
- 仕入先や協業先といったパートナー企業の経営者とビジョンを共有すること
このような活動を行うことで、マニュアル通りの対応では決して築けない強固な信頼関係を構築できます。
中小企業にとって、ステークホルダーとの関わりとは、プログラム化された活動ではなく、経営者の顔が見える血の通ったコミュニケーションそのものです。
まずは身近なステークホルダーから、トップ自らが誠実に向き合っていくことが、持続的な成長の礎を築く最も確実な方法だと言えます。
参考記事:企業の社会貢献にはどのようなメリットがある? 事例を知って社会的評価を高めよう
まとめ
以上、「ステークホルダー」という言葉の基本的な意味から、その種類、そして企業がステークホルダーと良好な関係を築くための具体的な考え方までを解説しました。
ステークホルダーとは、株主や顧客、従業員だけでなく、地域社会や行政機関までを含む、企業の活動によって影響を受けるすべての利害関係者を指します。
現代の企業経営では、これら多様なステークホルダーの声に耳を傾け、その期待に応えながら事業活動を行うことが、企業の持続的な成長と社会的な信頼を獲得する上で欠かせません。
特に中小企業においては、限られたリソースの中で優先順位をつけ、従業員や顧客といった身近な存在との信頼関係を地道に築いていくことが重要です。
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