中小企業こそ注意!実施すべきコンピューターセキュリティ対策を把握しよう

近年、企業の規模を問わずサイバー攻撃の脅威は増大し続けており、コンピューターセキュリティの重要性はかつてないほど高まっています。
特に、対策が手薄になりがちな中小企業は、攻撃者にとって格好のターゲットとなりかねません。
そこでこの記事では、コンピューターセキュリティの基本から、中小企業が直面しやすいリスク、そして明日から実践できる具体的な対策までをわかりやすく解説します。
会社の未来を守るために、今こそセキュリティ対策を見直してみましょう。
目次
コンピューターセキュリティとは何か
コンピューターセキュリティとは、私たちが日常的に利用するコンピューターやスマートフォン、それらを繋ぐネットワーク、そしてその中に保存されている大切なデータを、さまざまな脅威から守るための技術や対策全般を指します。
守るべき対象は、顧客の個人情報や取引先の機密情報、自社独自の技術情報や財務データなど、事業の根幹をなす「情報資産」のすべてです。
脅威には、ウイルス感染や不正アクセスといった外部からのサイバー攻撃だけでなく、従業員によるデータの持ち出しなどの内部不正、さらには地震や火災といった災害も含まれます。
これらの脅威から、情報資産を守り抜くことこそが、コンピューターセキュリティの目的なのです。
参考記事:情報セキュリティの3要素とは?中小企業が気を付けるべきことも解説
中小企業こそ危ない!サイバー攻撃の的になりやすい理由
「サイバー攻撃のターゲットは大企業」というイメージが根強いかもしれませんが、現実は異なります。
むしろ、セキュリティ対策が手薄になりがちな中小企業こそ、攻撃者にとって魅力的な標的となりやすいのが実情です。
この項目では、なぜ中小企業が狙われやすいのか、その具体的な理由を解説していきます。
「まさか自社が狙われるわけがない」と油断している中小企業が多い
多くの中小企業に潜む最大の落とし穴は、「自社に盗まれるような価値のある情報はない」「攻撃されるのは有名な大企業だけ」といった、当事者意識の欠如です。
この「自分たちは大丈夫」という根拠のない思い込みが、セキュリティ対策への関心を薄れさせ、結果的に攻撃者が侵入しやすい脆弱な環境を生み出す原因となってしまいます。
しかし、攻撃者の目的は多岐にわたります。
セキュリティの甘い中小企業を足がかりにして、取引先である大企業へ侵入する「サプライチェーン攻撃」の踏み台にするようなケースもあるのです。
直接的なターゲットにされるだけでなく、サプライチェーン攻撃のように間接的なターゲットにされることもあるという点をしっかり認識しておきましょう。
セキュリティ対策にコストをかけられず攻撃者に狙われやすくなる
中小企業がサイバー攻撃の標的になりやすい背景には、予算不足の問題も挙げられます。
中小企業の場合、限られた経営資源の中で、サーバーの維持費や人件費、販売促進費などを優先せざるを得ず、どうしてもコンピューターセキュリティ対策への投資は後回しにされがちです。
最新のセキュリティソフトやファイアウォールといった防御システムは高価なものが多く、導入をためらってしまうケースも少なくありません。
また、機器やシステムの購入費だけでなく、それを適切に運用する人件費や、全社員の意識を統一するための教育といった、目に見えにくい「隠れコスト」も大きな負担となっています。
その結果、セキュリティに関するガードが甘くなってしまうのです。
攻撃者は、このような脆弱性を見つけ出すプロです。
彼らにとって、セキュリティ投資を怠っている企業は、いわば「鍵のかかっていない家」のようなもの。
最小限の労力で侵入でき、情報を盗み出したり、システムを破壊したりできる絶好のターゲットと見なされてしまうでしょう。
ITリテラシーの高い人材が少ないためサイバー攻撃に対応できない
多くの中小企業では、情報システム部門がなかったり、専門の知識を持たない従業員が他の業務と兼任でIT関連の業務を見ていたりするケースが珍しくありません。
このような状況では、日々の業務に追われ、最新のサイバー攻撃の手口やセキュリティの脅威に関する情報を収集する時間が確保できないのも当然でしょう。
その結果、従業員全体へのセキュリティに関する周知や教育も不十分になりがちで、「怪しいメールの添付ファイルは開かない」「パスワードは定期的に変更する」といった基本的なルールさえ徹底されていないこともあります。
専門知識を持つ人材が社内にいないという現実は、攻撃者にとって侵入しやすい環境であると同時に、一度侵入してしまえばどんなことでもできてしまう、非常に好都合な状況と言えるのです。
コンピューターセキュリティリスクを放置した場合に起こる問題
もし、コンピューターセキュリティ対策を怠り、リスクを放置し続けてしまったら、企業はどのような事態に直面するのでしょうか。
その影響は、単なるパソコンの故障といったレベルでは済みません。
会社の存続そのものを揺るがしかねない、深刻な問題へと発展する可能性があります。
機密情報の漏洩
コンピューターセキュリティリスクの中で最も深刻な問題の一つが、機密情報の漏洩です。
機密情報には、顧客の氏名・住所・クレジットカード情報といった個人情報、取引先との契約内容や価格情報、そして自社が独自に開発した技術の設計図やノウハウなどが含まれます。
これらの情報が一度外部に流出してしまえば、その影響は計り知れません。
まず、被害を受けた顧客や取引先への損害賠償責任が発生します。
漏洩した情報の規模や内容によっては、経営が立ち行かなくなる金額の賠償額になってしまうケースも決して珍しくありません。
しかし、金銭的な損失以上に深刻なのが、「企業の信用の失墜」です。
情報を適切に管理できない会社というレッテルを貼られてしまえば、顧客は離れていき、新たな取引も停止され、築き上げてきたブランドイメージは一瞬で崩れ去ります。
一度失った信用を回復するのは、並大抵のことではありません。
情報漏洩は、事業の継続を困難にするほどの破壊力を持っていることを、経営者は肝に銘じておく必要があります。
参考記事:情報漏洩とは?企業の信頼を守るために知っておきたい基礎知識と対策
コンピューターのウイルス感染
コンピューターのウイルス感染も、事業に壊滅的な打撃を与える可能性があります。
中でも近年、特に猛威を振るっているのが「ランサムウェア」と呼ばれる身代金要求型ウイルスです。
このウイルスに感染すると、パソコンやサーバーに保存されているファイルがすべて暗号化され、全く使えない状態に陥ってしまいます。
そうなれば、見積書の作成も、メールの送受信も、会計処理もできなくなり、業務は完全に停止するでしょう。
攻撃者は、ファイルを元に戻すことと引き換えに、高額な「身代金」を要求してきます。
しかし、要求に応じて身代金を支払ったとしても、データが元通りになる保証はどこにもありません。
むしろ、支払いに応じることで「この会社は金を払う」と認識され、さらなる攻撃のターゲットにされるリスクが高まることさえあります。
ランサムウェアによる被害は、業務停止による売上の逸失だけでなく、システムの復旧にかかる莫大なコスト、そして顧客への納期遅延など、二次的、三次的な被害へと連鎖していく極めて悪質な攻撃なのです。
参考記事:ランサムウェア被害を防ぐにはどうする?中小企業のための最新対策ガイド
データの持ち出し等の不正利用
サイバー攻撃の脅威は、必ずしも会社の外部からのみもたらされるわけではありません。
従業員や元従業員といった、内部の人間による不正行為も、企業にとって非常に大きなリスクとなります。
たとえば、退職を決めた社員が、転職先で利用するために顧客リストや極秘資料をUSBメモリなどにコピーして持ち出すケースが考えられます。
また、会社に不満を持つ従業員が、腹いせに重要なデータを消去したり、情報を競合他社に売却したりする可能性もゼロではありません。
内部の人間は、システムのどこに重要な情報があるかを知っており、アクセス権限も持っているため、外部からの攻撃者よりも容易に不正を働きやすい側面があります。
こうした内部不正は、外部からの攻撃と比べて発覚が遅れやすいという特徴もあり、気づいた時にはすでに深刻な被害が出ていることも少なくありません。
日頃から従業員のアクセス権限を適切に管理し、重要なデータへのアクセスログを監視するなどの対策を講じておくことが重要です。
中小企業もすぐに実践できる!簡単にコンピューターセキュリティを高める方法
本格的なセキュリティシステムの導入にはコストがかかりますが、費用をかけずに、今すぐ始められる対策もたくさんあります。
まずは従業員一人ひとりの意識を高め、日々の業務の中にセキュリティ対策を組み込んでいくことが大切です。
ここでは、どの企業でも簡単に実践できる基本的な方法を4つ紹介します。
パスワードの使いまわしをやめさせる
複数のシステムやアカウントで同じパスワードを使いまわすことは、非常に危険な行為です。
もし、セキュリティの甘い、どこか一つのサービスからIDとパスワードの組み合わせが漏洩してしまった場合、その情報を使って他の重要なシステムにも次々と不正ログインされてしまう「パスワードリスト攻撃」の被害に遭う可能性があります。
これを防ぐためには、サービスごとに異なる、複雑なパスワードを設定することが基本です。
従業員任せにするのではなく、会社として明確なパスワードポリシーを定め、全員に遵守させましょう。
OSは常に最新の状態にアップデートしておく
パソコンのOS(WindowsやmacOSなど)や、利用しているソフトウェア(Webブラウザ、Office製品など)の提供元は、セキュリティ上の脆弱性が発見されるたびに、それを修正するための更新プログラムを配布しています。
「アップデートしてください」という通知を後回しにしている人もいるかもしれませんが、これは非常に危険です。
攻撃者は、この放置された脆弱性を狙って侵入を試みます。
アップデート作業は、最新の機能を追加するためだけではなく、セキュリティホールを塞ぎ、コンピューターを安全な状態に保つための最も基本的かつ重要な対策なのです。
多くのOSやソフトウェアには、更新プログラムを自動で適用する機能が備わっています。
特別な理由がない限り、この「自動アップデート」を有効にしておき、常にシステムが最新の状態に保たれるように設定しておきましょう。
外出先などで無料Wi-Fiを安易に使わない
カフェや駅、ホテルなどで提供されている無料Wi-Fiは非常に便利ですが、その利用には注意が必要です。
特に、暗号化されていない、あるいはセキュリティレベルの低いWPAなどの方式で保護されているWi-Fiに接続すると、通信内容を第三者に盗み見される危険性があります。
もし、そのようなWi-Fiを使ってIDやパスワードを入力したり、重要なファイルを送受信したりすれば、その情報が丸ごと攻撃者の手に渡ってしまうかもしれません。
さらに悪質なケースとして、攻撃者が正規のWi-Fiサービスになりすまして偽のアクセスポイントを設置する「悪魔の双子」と呼ばれる攻撃もあります。
利用者は気づかずに偽のアクセスポイントに接続してしまい、入力した情報をすべて盗まれてしまうのです。
外出先でインターネットに接続する必要がある場合は、スマートフォンのテザリング機能や、信頼できるモバイルルーターを利用するのが最も安全です。
フィッシングサイトに対する注意喚起を行う
フィッシングとは、銀行やクレジットカード会社、大手通販サイトなどを装った偽のメールやSMSを送りつけ、本物そっくりの偽サイトに誘導し、IDやパスワード、個人情報などを盗み取る詐欺の手口です。
最近の手口は非常に巧妙化しており、一見しただけでは偽物と見分けるのが難しいものが増えています。
しかし、以下のような点を意識して注意深く確認すれば、不審な点を見つけられるはずです。
- 送信元のメールアドレスが、公式のものと違う
- 「緊急」「アカウントがロックされました」など、利用者の不安を煽る件名になっている
- 本文の日本語に、不自然な言い回しや誤字がある
- メール内のリンクにカーソルを合わせると、表示されているURLとは異なる無関係なアドレスが表示される
これらの見分け方のポイントを社内で共有し、「少しでも怪しいと感じたメールのリンクや添付ファイルは、安易にクリックしない」というルールを徹底させることが重要です。
本格的なコンピューターセキュリティ対策も必要
前項で紹介したものは、あくまで「コストをかけずにすぐに実施できる対策法」です。
しかし、サイバー攻撃の手口は日々巧妙化・高度化しており、先程紹介したような対策だけでは防ぎきれない脅威も存在します。
特に、IDとパスワードのみに依存した認証方法は、情報が一度漏洩すれば容易に突破されてしまう危険性を常にはらんでいます。
そこで重要となるのが、認証を強化する「多要素認証」や「二段階認証」の導入です。
多要素認証とは、「知識情報(パスワードやPINコード)」「所持情報(スマートフォンやセキュリティキー)」「生体情報(指紋や顔認証)」という3種類のうち、2つ以上を組み合わせて本人確認を行う仕組みを指します。
二段階認証とは、通常のパスワード入力に加えて、もう一段階の認証手順を追加するセキュリティ手法です。
まずユーザーIDとパスワードを入力し、次にSMSで送られてくるコードや認証アプリで生成されるコード、メールでの確認などを行います。
このような「多要素認証」や「二段階認証」に加え、ファイアウォールや不正侵入防御といった複数の機能を一台に集約した「UTM(統合脅威管理)」の設置や、外部の専門家による「脆弱性診断」の定期的な実施も有効でしょう。
また、万が一の被害に備え、復旧費用や損害賠償金が補償される「サイバー保険」への加入も、リスク管理の選択肢となります。
セキュリティ対策は「これをやれば完璧」というゴールがあるわけではありません。
常に最新の脅威に対応できるよう、継続的に対策を見直し、強化していく姿勢が求められます。
まとめ
以上、コンピューターセキュリティの基本から、中小企業が直面する特有のリスク、そして実践的な対策方法などについて解説しました。
サイバー攻撃は、もはや中小企業にとっても対岸の火事ではありません。
「自社は大丈夫」という油断が、事業の継続を脅かす深刻な事態を招きかねないことを理解しましょう。
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