プロセス革新(プロセスイノベーション)とは?効果や事例をわかりやすく解説

プロセス革新(プロセスイノベーション)とは「業務プロセスや運用フローを見直し、効率化や成果向上を図るための新しい手法や仕組みを導入すること」です。
特に、近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展により、企業にとって重要な競争力強化の手段として注目されています。

しかし「どこから手をつければいいのか」「自社に適したプロセス改善の方法は何か」といった悩みを抱える企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、プロセス革新の基本的な考え方や具体例、導入のメリット、そして成功させるためのステップについて詳しく解説します。

プロセスイノベーションとは

プロセスイノベーションは、既存の業務プロセスや製造工程を改善し、効率性や成果を向上させる取り組みを指します。製品・サービスの品質向上、コスト削減、生産性の向上を目的とし、企業が市場での競争力を高めるための重要な手段です。

たとえば、従来の手作業中心の工程について自動化技術やAIを導入して最適化することで、時間と労力を大幅に削減できます。

プロダクトイノベーションとの違い

以下の内閣府の資料ではイノベーションの代表的な類型化の例として「プロセス・イノベーション」と「プロダクト・イノベーション」が挙げられています。

出典)内閣府「2 事例調査1 」p.4

プロセスイノベーションは「作り方・実行方法の改善」に焦点を当てているのが特徴です。対して、プロダクトイノベーションは新しい製品やサービスそのものを創出することを指します。

たとえば、画期的なスマートフォンの開発はプロダクトイノベーションです。
一方、スマートフォンを生産する工場での自動化システムの導入は、プロセスイノベーションに該当します。

両者は目的やアプローチが異なるものの、相互に関連し、企業全体の競争力を高めるために組み合わせて活用されることが多いです。

プロセスイノベーションが必要な背景

プロセスイノベーションが必要な背景は、主に以下のとおりです。
これらの項目に対応しなければ、企業としての効率化が達成されず、競争力を失うリスクがあります。

項目詳細
技術進歩に追いつけないAI、IoT、ロボティクスなどを取り入れられず、競争力を失ってしまう
顧客ニーズに対応できないオンラインでの購買、商品のカスタマイズなど柔軟な対応に応えられない
労働力不足に対応できない業務効率化によって少子高齢化による労働力不足を補えず、競争力を失う
コストの無駄が続く不要な業務プロセスに気づけず、リソースの最適化ができない
環境負荷に対応できない新たな環境規制に応えられず、既存のプロセスを再現できなくなってしまう

イノベーションのジレンマとは

プロセスイノベーションの重要性を理解するにあたって「イノベーションのジレンマ」をおさえておきましょう。内閣府のイノベーションに関する資料でも触れられています。

出典)内閣府「2 事例調査1 」p.5 - 6

「イノベーションのジレンマ」は、著名な経営学者クレイトン・クリステンセンが提唱した概念です。企業が成功モデルに固執するあまり、新たな技術や市場の変化に対応できなくなる状況を指します。

かつてイノベーションに成功した大手企業は、既存顧客向けの改良に注力しがちです。しかし、新興企業が革新的な技術を活用して市場を席巻するケースは多々あります。

持続的イノベーションと破壊的イノベーションとは

イノベーションのジレンマのうち、既存顧客の価値を高めることを「持続的イノベーション」といいます。
一方、新市場の開拓など新規の取り組みは「破壊的イノベーション」といいます。。

特に大手企業は、プロセスイノベーションに関しても守りに入るだけでなく、積極的に破壊的イノベーションを行うことが必要です。これにより新興企業対策として、競争優位性を築くことが求められます。

プロセスイノベーションの効果

プロセスイノベーションの実施によって生じる効果について解説します。

  1. 生産性・効率性の向上
  2. コスト削減
  3. 販路拡大
  4. 顧客体験の向上

1.生産性・効率性の向上

プロセスイノベーションによって業務プロセスが効率化され、労働時間やリソースの無駄を削減することが可能です。人が手作業で行っていた繰り返し業務を自動化でき、従業員はより付加価値の高い業務に集中できます。

主な効果は以下のとおりです。

  • 時間短縮によるリードタイムの短縮
  • ワークフローのスムーズ化
  • 生産量の増加と品質の安定化

2.コスト削減

プロセスの効率化は、コスト削減にも直結します。特に、製造業や物流業では、生産工程の最適化により原材料やエネルギー消費を削減することが可能です。

さらに、不要なプロセスの排除により管理コストも抑えられます。

主な効果は以下のとおりです。

  • 労働力削減による人件費の低減
  • 材料やエネルギー消費の削減
  • 在庫管理の効率化による保管コストの減少

3.販路拡大

プロセスイノベーションによって製品供給を高速化することで、顧客の幅・提供エリアが広がることが魅力です。また実店舗からECへの転換などを行うと、時間と場所の制約から解放されます。

主な効果は以下のとおりです。

  • 新規顧客層へのアクセス
  • 地域や国を超えた市場開拓
  • マーケティング戦略の強化による売上向上

4.顧客体験の向上

プロセスイノベーションは、顧客体験の向上にも寄与することが特徴です。たとえば、顧客対応業務のデジタル化やパーソナライズされたサービスの提供により、顧客満足度が高まります。

顧客ロイヤリティが高まり、長期的なビジネスの成長につながることが魅力です。

主な効果は以下のとおりです。

  • 顧客対応のスピードアップ
  • パーソナライズされた製品・サービスの提供
  • 顧客とのエンゲージメント強化

プロセスイノベーションにはデータ収集・分析が必要

プロセスイノベーションを成功させるためには、データ収集と分析が欠かせません。効果的な改善策を見出すために、適切なデータを基に現状を把握することは必須です。
感覚的な意思決定ではなく、論理的な判断を行うことが成功要因のひとつになります。

以下の業務フローや生産工程、顧客行動など、プロセスに関わる多様なデータを収集しましょう。

主なデータ項目データ内容
業務プロセスデータ作業時間、工程の進捗、エラー率
生産データ生産量、原材料使用量、不良品率
顧客データ購入履歴、顧客フィードバック、問い合わせ内容
財務データコスト構造、収益パターン、利益率

これらのデータを分析したうえで業務プロセスの改善点を見出します。ただし分析手法に関しては、目的やデータの内容によって柔軟に使い分けてください。

プロセスイノベーションを導入する具体的なステップ

実際に企業としてプロセスイノベーションを行う上でのステップを5つに分けて紹介します。

  1. 現状プロセスの可視化と課題抽出
  2. 改善プロジェクトのゴールと目標の設定
  3. デジタル技術の活用による業務改善
  4. 実行計画の作成と段階的な実施
  5. 継続的改善と組織文化の醸成

【ステップ1】 現状プロセスの可視化と課題抽出

プロセスイノベーションの第一歩は、現在の業務プロセスを正確に把握し、ボトルネックや非効率な部分を特定することです。

「既存の業務フロー図の作成」「データを収集・分析」などで、改善すべき具体的な課題を明確にしましょう。

【ステップ2】改善プロジェクトのゴールと目標の設定

プロセスイノベーションを成功させるためには、改善プロジェクトの具体的なゴールと目標を明確にすることが重要です。

組織全体の戦略に沿った目標を設定し、プロジェクトチームで共有することで、方向性を統一します。

【ステップ3】デジタル技術の活用による業務改善

目標を達成するために、デジタル技術を活用する必要があります。目的に応じてAI、IoT、RPAなどを導入し、業務の効率化、自動化を図りましょう。

この際、担当者は市場調査が必須です。「市場にどのような商品があるのか」を把握したうえで機能、性能、価格などで各製品を比較したうえで慎重に選ぶ必要があります。

【ステップ4】実行計画の作成と段階的な実施

デジタル技術や改善方法が決まったら、実行計画を詳細に策定します。この際、無理のない段階的な導入計画を立てることが重要です。
試験運用を行いながら、必要に応じて改善を加えましょう。

また、従業員のケアも必要です。既存の業務が変わることに嫌悪感を示す方もいます。
業務プロセスが変わることで、従業員側のメリットが生まれることを丁寧に説明しましょう。

【ステップ5】継続的改善と組織文化の醸成

プロセスイノベーションは、一度導入して終わりではありません。継続的にプロセスを見直し、改善サイクルを回すことが必要です。

たとえば「定期的なKPIのレビューと改善」「継続的な社員への教育」などが挙げられます。KPIを達成したとしても、さらなる効率化、生産性向上を目指して改善しましょう。

プロセスイノベーションを成功させるポイント

プロセスイノベーションを実現するには、具体的な目標だけでなく、実行のための適切な環境や体制を整えることが重要です。

以下に、成功させるための4つのポイントを解説します。

  1. データベース経営の環境を構築する
  2. 顧客ニーズを把握する
  3. 社内の理解・協力体制を構築する
  4. 継続的に観察・改善する

1.データベース経営の環境を構築する

プロセスイノベーションを行うためには、データに基づいた意思決定をする必要があります。そのためにデータの収集・管理・活用を円滑に行えるデータベース経営環境を構築することが不可欠です。

顧客データを収集・分析できるCDP(カスタマーデータプラットフォーム)や、企業内のデータを蓄積・整理できるDWH(データウェアハウス)を導入し、データを収集・分析できる環境を構築しましょう。

2.顧客ニーズを把握する

プロセスイノベーションの本質は、売り上げの増加です。そのため、顧客ニーズを的確に把握し、改善活動に反映させることが重要です。

これは購買プロセスに限りません。たとえば物流プロセスを効率化したために、事故やミスが増えてしまうと、顧客満足度が下がります。
人件費はカットできますが、顧客単価が下がってしまう可能性もあるのです。

そのため、準備段階で顧客調査を実施して、顧客視点での改善を進めましょう。

3.社内の理解・協力体制を構築する

プロセスイノベーションを実現するためには、現場から経営層までの全社的な理解と協力が不可欠です。
特に新しいデジタルツールを導入した際、従業員の抵抗が生じる可能性があります。適切な説明と教育が重要です。

また、導入後は企業文化を変革しなければいけないこともあります。アナログ業務の文化が残っている場合は、デジタル導入によるメリットを伝えましょう。
これにより、プロセスイノベーションが成功しやすくなります。

4.継続的に観察・改善する

プロセスイノベーションは一度実施して終わりではなく、継続的にモニタリングし、改善を重ねていくことが必要です。PDCAサイクルを導入し、状況の変化や新たな課題に柔軟に対応する体制を整えましょう。

一度、プロセス革新を行って安心してはいけません。継続的にプロジェクトを組成し、KPIを追いかけ続けることが必要です。

プロセスイノベーションの成功事例

最後に実際にプロセスイノベーションに成功した企業の事例を紹介します。

  1. フォード生産方式
  2. トヨタ生産方式(TPS)の革新
  3. ZOZOSUITによる技術活用
  4. ユニクロのSPAモデル
  5. 楽天ECのポイント付与施策

【事例1】フォード生産方式

自動車メーカー・フォード・モーターの事例です。

従来、自動車は熟練工による手作業で組み立てられていました。この方法では、生産に時間がかかってしまいます。当然コストも高くつきました。

フォード・モーターはこうしたプロセスを革新します。以下の取り組みによって、大量生産とコスト削減を実現しました。

  • 生産機種の絞り込み
  • 組み立てラインの導入
  • 製造プロセスを定型化・効率化

フォード・モーターは、プロセスイノベーションの導入によって、自動車の価格を抑え顧客ターゲットの拡大にも成功したのです。

【事例2】トヨタ生産方式(TPS)の革新

次は、自動車メーカー・トヨタの事例です。

従来、大量生産方式が普及し、多くの製造業では過剰生産が問題となっていました。問題は生産過剰・在庫増加が、コストの無駄を生んでいたことです。

そんな中、トヨタは「ジャスト・イン・タイム(JIT)」と「異常感知の自働化」を柱とした「トヨタ生産方式」を確立します。
これらの取り組みにより、トヨタは「必要なものを必要な時に必要な量だけ生産すること」に成功しました。在庫を最小限に抑えるとともに、品質管理・効率を両立した事例です。

【事例3】ZOZOSUITによる技術活用

ファッションECのZOZOによる「ZOZOSUIT」も、プロセスイノベーションの成功事例です。

従来のファッションECでは、顧客が商品を試着できないため、サイズ選びが課題でした。

そんな中、ZOZOは、顧客の体型を3Dで計測できる「ZOZOSUIT」を開発します。この技術により、顧客は自分に合ったサイズの商品を選べるようになり、フィット感への不満が解消されました。

【事例4】ユニクロのSPAモデル

ファッションブランドのユニクロの事例です。

アパレル業界では、従来、製品企画、製造、流通、販売が別々の企業によって行われていました。
しかし、この方法は、納期やコスト管理が複雑になってしまいます。結果的に、消費者の需要に迅速に対応するのが難しい状況でした。

一方でユニクロは、SPAモデル(Specialty store retailer of Private label Apparel)を採用し、企画から販売までを一貫して管理しました。SPAモデルによって、デザイン・生産量を需要に応じて調整できる体制を構築しています。

【事例5】楽天ECのポイント付与施策

ECサイト・楽天市場などを運営している楽天は、プロセスイノベーションによって顧客体験を向上させました。

従来のECサイトでは、顧客ロイヤルティを高める仕組みが乏しかったといえます。そのため価格競争、コモディティ化が進みやすい状況でした。

一方で楽天は、ポイント制度を導入し、顧客が購入金額に応じてポイントを貯められる仕組みを構築しました。これにより、顧客にロイヤリティを付与することに成功しています。
他のサービスとも連携できる仕組みを構築し、ポイントを使いまわせる「楽天経済圏」を構築したのです。

まとめ

プロセスイノベーションは、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現するための重要な取り組みです。
従来の業務プロセスに潜む非効率や課題を解決することで、生産性の向上、コスト削減、顧客満足度の向上などのメリットを受けられます。

しかし、成功させるためにはデータに基づく現状分析、明確な目標設定、社内の協力体制、継続的な改善などが欠かせません。

バックオフィス担当者やプロジェクトリーダーとしては、社内外のリソースを効果的に活用し、データを基にした意思決定を徹底することが成功への鍵です。

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