業界女性比率4.6%
物流中小企業が挑むトラックドライバーの人事改革
深刻な人手不足と高齢化に苦しめられている物流業界。その中でも運転技術と体力が要求されるドライバー(輸送・機械運転従事者)は、女性比率わずか4.6%という実態があります。(出典:日本のトラック輸送産業 現状と課題 2025 全日本トラック協会)
そうした業界にあって、組織を抜本的に改革し女性参加を模索し始めた1社が、1945年創業の中小企業・アキタ株式会社(本社:名古屋市)です。
「この業界は古くて特殊だから、女性活躍は難しい」「当社だけが変わっても仕方がない」——。そう諦めかけている中小企業の経営者と人事担当者にぜひお読みいただきたいインタビューです。
■プロフィール
アキタ株式会社
代表取締役社長 原田謙治

1945年 秋田運輸として創業。BtoB輸送を主業としながら、全国26営業所、約700台の車両、5つの物流センターを展開。従業員数は1050名を抱える。女性活躍・シニア活躍・新卒採用・DXに取り組む。
なぜ女性は物流から遠ざけられたのか? 男性中心社会の現実

―― 物流業界全体を見渡すと、女性ドライバーの比率はわずか4.6%という非常に低い数字に留まっています。ここにはどのような問題があるのでしょうか。
アキタ 原田謙治 社長 まず、当社の主業である「幹線輸送(かんせんゆそう)」について理解していただく必要があります。幹線輸送は高速道路を通って名古屋から大阪、あるいは東京といった拠点間を、大型トラックに荷物を満載しては一気に運ぶことでスケールメリットを出すビジネスモデルです。しかし、この仕組み自体が女性が働くことを前提としていないものでした。その理由は大きく二つあります。
一つ目は物理的な課題です。トラックの長距離輸送では、仕事が始まってから終わるまでの時間や、運転できる連続時間、取らなければいけない休憩時間が法令・告示で細かく決められています。たとえば数時間運転したら必ず休憩をはさみ、場合によっては遠方で一泊しなければなりません。小さなお子さんのいるお母さんにとって、何日も家を空けることは非常に重く負担を強いる選択です。
さらに根深いのが肉体労働としての側面です。例えば、荷物の積み下ろし。ここで、男女間の体力差が顕著に表れます。
現在、業界ではパレットという積み台に荷物をまとめて載せてフォークリフトで積み下ろしする効率的な手法を増やそうとしていますが、実態としてはまだ運送業者に「バラ積み」をさせている現場も多いのが実態です。

―― 時間と体力がモノを言う仕事だと。一般的に持たれているトラックドライバーのイメージと重なります。
原田社長 そのほかにもソフト面の課題があります。恥ずかしい話ですが、業界の古い営業所ではトイレが男女兼用なのが当たり前でした。
今、当社で営業所の作り替えを進めていますが、自社の施設だけ直せば済むという単純な話ではないんです。配送先のお客様の物流センターや、問屋さんのセンター、あるいは小売店のバックヤードに行くと、今でも男性用トイレしかない、あるいは女性が使うことを想定していない設備が数多く存在します。
女性ドライバーから「外の施設でトイレが借りられないから、勤務中は水分を控えている」といった切実な声を聞くたびに、本当に申し訳ない気持ちになります。
—— たしかに、自社努力だけでは解決が難しい。
原田社長 さらに言えば、かつての大型トラックはマニュアル車が主流でした。かつてオートマチック車は制御が未熟で、変なギアを選んで動かなくなったり、後ろに下がったりするリスクがあった。そのため重い荷物を載せて坂道を登る際にはマニュアル車を使いこなすしかなかった時代があったのです。こうした運転の難易度の高さも、長らく女性をこの業界から遠ざけてきた理由です。
見えはじめた女性ドライバーの多様な活躍
―― そうした構造的課題があるなかで、どのように女性の能力発揮を促していきますか。
原田社長 例えば、当社の新潟営業所にHさんという女性ドライバーがいます。彼女は3人の娘さんを育てる母親でありながら「泊まり運行もやりたい」と言ってのける凄まじいガッツの持ち主です。マニュアル車を自在に操り、運転技術も完璧。出発前にエンジンオイルの量やタイヤの空気圧、ボルトの緩みなどを目視とハンマーの音で確認する運行前点検もレベルが高い。
Hさんは、自社運転技術大会(運転操作、車両点検・異常発見の力、道路ルールの知識を競う社内イベント)の中型車部門で、ベテランの男性陣を抑え見事に優勝しました。

―― そんなにすごい女性ドライバーさんがいるとは。
原田社長 もちろん女性だからといって、全員がHさんのようなドライバーにならなければいけないわけではない。それぞれの活躍があります。
京都営業所のSさんは、SNSなどを通じて当社を代表して発信してくれている女性ドライバーです。経理スタッフとの対談動画などを通じて、物流業界で働く女性のリアルを話してくれています。彼女たちの存在は全社員のお手本であり、刺激になっています。
社員を尊重する、安全で安心な環境さえ整えれば、女性は自らポテンシャルを発揮して活躍してくれる。それが私の基本的な考えなんです。
―― 典型的な男性優位の職場では、女性が参加できる場を設けることで一気に変わる可能性があると。
原田社長 そのために大きなコストをかけてでもやり切るのが経営者の役割です。当社では、ドライバーが決められた運転時間や法定速度を超えそうになると自動でアラームが鳴り休憩を促す機器を全車両に導入しました。運転中の疲れやスピード超過は事故につながるため、誰でも無理なくルールを守れる仕組みが欠かせません。さらに、GPSによる動態管理で車の現在地や走行状況をリアルタイムに把握し、到着予測やトラブル対応をスムーズに。配車管理システムでは荷物の積み込み順や配送先、配車計画を社内で一元管理し、無駄な走行を削減しています。こうした安全・効率の両立策がしっかり機能していることから、「安全対策が徹底されている」「安心して長く働けそう」と高く評価され、応募者も増えています。
―― そうした環境整備は女性だけでなく男性にもメリットが大きそうです。
原田社長 その通りです。前述の女性ドライバー・Hさんから、以前「駐車場の裏手が夜になると暗くて怖いので、照明をつけてほしい」という要望をもらいました。私は所属の営業所長に「彼女が不安を感じる場所は、防犯上も問題があるはず。照明を増やすなり、動線や駐車場所を検討し直すなり、責任をもって検討してくれ」と指示しました。こうした女性の視点からくる現場改善は、男性ドライバーを含む全社員にとっても職場環境向上に直結します。
全社DXで女性事務職が「稼ぐ社員」にジョブチェンジ
―― 稼ぎ頭のドライバー職種以外の女性活躍についてはいかがでしょうか。
原田社長 当社をはじめ、物流業界で女性が起用されてきたのはバックオフィス、いわゆる事務職の領域です。その仕事の価値も変わりはじめています。
そのカギがDXだと考えています。各営業所の事務員さんは、売上集計から給与計算、トラックの運行管理の補助まで、多岐にわたる業務を引き受けてくれています。しかし、これまでは非常に原始的なシステムで、アナログな台帳からPCへの二度打ち・三度打ちするような無駄な作業も多かったのです。
そこで近年、当社では最新の配車システムといった各種のツールを導入し、事務作業の工数を大幅に削減しました。結果として1日につき3時間以上の空き時間が生まれました。すると彼女たちから「私の仕事、無くなっちゃうんでしょうか?」と不安な声が上がってきた。私は、これからはもっとクリエイティブで高付加価値な仕事にチャレンジしてほしいと伝えました。
―― DX後の人員の再配置というテーマですね。どのようなジョブチェンジでしょうか。
原田社長 具体的には、二つの道を提示しています。一つは本社業務のリモート代行。名古屋の本社で行っている総務や経理、人事といったコーポレート部門のルーチンワークを、地方の営業所にいながらクラウドを通じて受けてもらう。本社機能が向上し、全社員へのサービスも手厚くなります。
もう一つは「営業管理」のセクションです。これはアキタのトラックではなく、協力会社さんのトラックにお客様の荷物を載せて運んでいただく、いわば物流の仲介業務。これが、驚くほどの効果をあげています。元・事務職の女性社員が一生懸命に交渉してくれて、協力会社さんの配車担当者も「なんとか一台工面して助けてあげよう」と動いていただいています。
―― 事務職経験者であれば、現場の仕組みもよく知っていて交渉にも向いていると。
原田社長 パートタイマーの事務員からスタートして、今やこの利用運送だけで月間1,000万円以上の成約を出す女性も現れました。
彼女たちの活躍を見て、私は幹部たちに何度も言っています。「外から人を採用することばかり考えず、今目の前にいる優秀な女性たちを見ろ。彼女たちの才能を活かしきれていないのは、我々管理職の想像力の欠如ではないか」と。
2025年10月に当社は創業80周年を迎えました。抜本的に変わるなら、今だと覚悟しています。そのスタートを切ったところです。
創業80年 業界の未来のために“守備力”を培う

—— 2年後、3年後にまたぜひ取材したいと思えるお話でした。女性活躍以外にも多くの課題があるかと思いますが、物流業界の中小企業の一員として展望をお聞かせください。
原田社長 業界は恐ろしいスピードで高齢化しています。大型ドライバーの平均年齢は50歳を超えようとしている。このままでは、あと10年もすればこの国で荷物は届かなくなるかもしれません。
だからこそ当社は創業80年目にして初めて、本格的な新卒採用に舵を切りました。あえて新卒を入れ、彼らを迎えるための育成プログラムや、公正な評価制度を作らざるを得ない状況に自分たちを追い込む。
—— たしかに会社の若返りを図る意味でも、環境整備は重要です。
原田社長 それだけではありません。10年後、高速道路の幹線輸送は自動運転が当たり前の風景になっているでしょう。運行管理も配車も、すべてデータで最適化されていく。私は、10年後には20代が全員営業所長をやっている時代が来ると本気で思っています。つまりビジネスそのものが変わるということです。
デジタルツールを自在に使いこなし、緻密なデータ分析と人間味のある調整能力に長けた社員たちが、組織の司令塔となって心臓部を担う。ベテランの男性ドライバーは、自動運転が難しい市街地の複雑なルートを短時間で走る。
今、私たちが進めている人事戦略は、すべてその未来に繋がっています。この過渡期を楽しみながら、社員が男女や世代の差別なく当たり前に能力を発揮する――それがアキタが目指す姿です。
| 取材協力:アキタ株式会社 https://akita-inc.co.jp |
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