士業ベンチャー 組織を動かす人事の設計力
定着率95%・福利厚生40種を誇る組織のつくり方

中小企業のユニークな人事施策を取材する「直撃!守る人事・動かす人事」。今回は士業で唯一、Great Place To Work(GPTW)(※世界170カ国で「働きがい」を研究・支援する専門機関)に選出、定着率は驚異の95%を誇るアイユーコンサルティンググループが登場。

グループ代表と人事担当者に、大手にはできない尖った人事施策を事業成長に結びつける経営方針と、約40種の福利厚生を生み出し続ける人事のPDCAの現場を聞きました。

■プロフィール

アイユーコンサルティンググループ
グループ代表 岩永 悠
人事部マネージャー 浪方 早紀

2013年創業。資産税(相続税・贈与税・事業承継・組織再編)専門の税理士法人として、累計7,500件以上を手掛ける。2019年には税理士法人アイユーコンサルティングを母体としたグループ化に着手、M&A時のデューデリジェンス案件やIPO支援を主軸とするアイユーミライデザイン、顧問業務特化型の税理士法人IUManagementなど、税務を主軸とした事業多角化を推進中。国内14拠点・海外1拠点(マレーシア)、スタッフ数約190名を抱える。

■定着率95%の職場はなぜ実現した?

アイユーコンサルティンググループ 岩永悠 代表

—— アイユーコンサルティングは、クライアントワーク主体で離職率も高めの税理士業界において定着率95%という実績を誇っています。なぜこのような職場を実現できたのでしょうか?

アイユーコンサルティング 岩永代表 

まず、最初からGreat Place To Work (GPTW)に表彰されるようなスーパーホワイトに近い組織だったわけではありません。経営者なら納得いただけると思いますが、創業当初はスーパーブラックですよ(笑)。

アイユーコンサルティングは私が29歳の時、2013年に創業しました。4期目でスタッフ数20名規模に伸びるまでは、全社員が若さに任せて昼も夜もガムシャラに働きまくるという組織でした。採用はリファラルの一本釣りがメインで、当時のメンバーのほとんどが今の幹部陣になっています。

―― どこで転機が?

岩永代表 6期目、スタッフ数が30名を超えたあたり。拠点も福岡、北九州、埼玉、広島と増えて、もう経営陣だけでは社員を管理できなくなったんです。マネジメントを現場に任せなくてはと思い、同時に企業風土を刷新する準備段階に入りました。

まず私が最初に掲げた指針は、「全員で高め合う風土をつくる」ことでした。前職の大手税理士法人は、個の力が突き抜けたプロが集う、極めて強力な営業集団。そこでの経験は貴重でしたが、一方で「個」の強さだけに依存する組織ではなく、全員で成長拡大できる場所を創りたいという思いがありました。

そのうえで「この職場なら辞めない」と思えるかどうか。ものすごくシンプルですが、同じ組織で、共通の目標があって、いろんな業務ができて、働き方も自由で、報酬も高ければ、当たり前ですけど辞めないだろうと。もっとも……私のような独立心の強い人間はどんな環境であろうと独立してしまうでしょうが、そういう人は一握りです(笑)。

―― 企業風土はどのように浸透しましたか。

岩永代表 いきなり福利厚生や評価制度が充実できるはずもないので、まずは精神論でした。社員が一方向を向くように「日本のミライに豊かさを」というグループビジョンを立てました。そこに幹部陣が同じ熱量で部下と向き合ってくれて、組織が結束しはじめた。税理士法人のなかでは珍しくコンサルティング力が高かったことも定着に貢献したと思います。他社では経験できない高度なコンサルティングノウハウを習得できることは、働く面白さにもつながりますから。そのうえで人材エージェントを利用するようになり、やがて拠点長に採用の最終的な権限を任せました。その過程で、徐々に「組織」になっていったという感覚です。

―― 権限を下ろすことには不安はなかった?

岩永代表 私が「この求職者が良い」と言っても、実際にともに働くのは拠点長ですから。トップダウンで決めるのではなく、社員全員が採用・定着に向けて一丸とならなくてはならない。離職防止という意味では、社員が結婚や転勤で引越す際「だったら、転居先にアイユーコンサルティングの事務所を出す。そこで働いてほしい」と進出を決めたエリアもあります。

もっとも、人材エージェントとのやりとりは100名規模になる10期まで私が担当していましたから、採用活動から離れてラクになれたわけではありません(笑)。やっと人事の仕事を渡せたのが11期、当社に人事担当の浪方さんが入ってきてからですね。

■サーベイを軸にした福利厚生PDCA

アイユーコンサルティンググループ 人事部マネージャー 浪方 早紀 さん

―― 人事担当としての具体的な取り組みを教えてください。

アイユーコンサルティング人事部マネージャー・浪方さん

定着率の観点で言えば、年に2回の社員サーベイの実施と分析がもっとも大事です。50問ほどの質問と、最後に自由記述で「新しいアイデアがあれば記入してください」という形のアンケートを通して社員のニーズや不満を把握し、それを解決できる人事制度や福利厚生を検討します。

―― 経営や人事部が考えるだけでなく、現場主体の制度設計ということですね。実際には、どのような施策を打ったのでしょうか。

人事・浪方さん サーベイのアイデアの中から生まれた一例をあげると、「スタサポ」という資格取得支援制度です。就業時間後に事務所の会議室を自習スペースとして開放するというもの。「家だと勉強に集中できない」という税理士受験生のスタッフの声を受けたもので、退勤後すぐに勉強に着手できて助かる、といったメンバーの声も多数あります。

スタッフが自由に実務の基礎・応用などのスキルを学べる研修制度「アイユーアカデミー」では、リーダーシップや経営視点も養うこともできるという。(写真の研修では代表岩永自ら講師となり登壇)

人事・浪方さん こうした施策も功を奏して、現在37名の税理士有資格者がいます。保有者数では全国30位以内に入るほど比率が高くなっています。

―― コストはかかりますが、事業成長に直結する施策ですね。

アイユーコンサルティングの福利厚生・制度の一部

人事・浪方さん スタッフの健康づくりのサポートに力を入れた制度もあります。「アイユーワークライフフィットネス」という、ジムやヨガの月会費を半額補助する制度です。これは「健やかに元気に働いてほしい」という想いから生まれたもの。代表の岩永がベンチプレスを140kg挙げるほど鍛えているのも、少なからず関係しているかもしれません(笑)。

ただ、この制度だけでは不平等感があることが、社内サーベイを通じて分かってきました。「子育て中でジムに通う時間が取れない」という声が集まったのです。そこで、どのようなライフスタイルでも健康を支えられるよう、健康診断のオプションを5万円まで追加できる「アイユーヘルスケア」という制度も新たに開始しました。

他にも、チームごとに月に一度、ざっくばらんに話し合えるランチ会を開催しており、その費用を会社が負担しています。お菓子代の補助なども含めると、こうした支援は現在40種ほどまで充実しています。

■守る、動かす、稼ぐ人事

2024年から、Great Place to Work®InstituteJapan(GPTWジャパン)が発表する「働きがいのある会社」ランキングで、士業で唯一ベスト100に選出された

―― 施策の数や内容もさることながら、スタッフと組織のコミュニケーションの結果が福利厚生に反映されている点が理想的だと思います。人事施策をやる・やらないの判断基準やKPIはありますか。

人事・浪方さん 開始の権限は岩永が持ち、ルールは拠点長が集まる幹部会で決定します。しかし、基本はKPIを定めずにまずやってみるというカルチャーですね。当社の行動指針のひとつに「トライ&エラー」があり、まずは行動することが組織として重視されているんです。

そのうえで、さすがに40種は多すぎるかもと思っています(笑)。現在はサーベイで利用率のランキングをとり、使われていない制度は統廃合するなど検討しながらPDCAを回しているところです。ただ福利厚生を増やせばいいというものでもありませんから。

岩永代表 そうだね。勘違いしてほしくないのは、単なる「ぬるま湯」にするつもりはないということです。拠点長にもよく話していますが、業績が良くなればなるほど、スタッフの期待や要望も多岐にわたっていきます。それは自然なことではありますが、一方で、組織とスタッフは「お互いの役割を全うすることで成り立つ関係」だということも忘れてはいけません。

私自身も経営者としての役割を担い、理念の実現に向けて動いています。決して好き勝手に振る舞っているわけではない。グループが掲げる理念のもと、それぞれのレイヤーが求められた役割を果たし、成果を出す。その頑張りがあるからこそ、組織は制度や報酬という形で還元できると考えています。

―― 経営者としては、浪方さんが入社して特に良かった点は何ですか?

岩永代表 やはりサーベイを導入してくれたことが大きかった。ほかにも浪方さんは全スタッフの入社後3ヶ月面談を「上司ではない目線」でやってくれています。これは非常にありがたいですね。上司の評価だけではどうしても色眼鏡がありますが、人事部が客観的に教えてくれることで拠点同士で比較したり、世代の横串が刺せるようになった。また、採用面でも活発に動いてくれています。

人事・浪方さん リクルーティングでもやれることはたくさんありますから。
たとえば毎年8月の税理士試験直後には、受験生を対象とした「食事会」を開催しています。これは、長期間にわたる過酷な試験を終えた皆さんの努力を「まずはお疲れ様!」と心から労いたい、という想いから始まったものです。受験生は無料で招待し、代表・幹部陣や若手社員たちとざっくばらんに交流できる場にしています。SNSや公式LINEを通じて集客しており、ここでの出会いが実際の採用に繋がるケースもあります。

現在の採用数は年間40名ほどですが、最近ではリファラル採用も活発で、昨年は7名が社員の紹介で入社してくれました。また、一度外の世界を経験してから戻ってきてくれる「アルムナイ採用(出戻り採用)」も年に1名ほどいます。一度離れても「またここで働きたい」と思ってもらえることは、私たちの組織のあり方を肯定してもらえたようで、本当に嬉しいことです。

―― なぜそこまで熱意をもって人事に取り組めるのか、モチベーションを教えてください。

人事・浪方さん 一番は会社がチャンスをくれることです。やりたいと言えば支援してくれますし、主体的であるほど評価が上がる、この循環が大切ではないでしょうか。

また、人事はコスト部署とも言われますが、稼ぐこともできると教えてくれました。代表が「年収いくら目指したい?」と聞いてくれて、そこで「売上も作れる人事」を目指そうと思いました。クライアントから「なぜアイユーさんは順調に採用できるの?」と聞かれることがあり、私が人事コンサルとして入らせていただくという事業化もできています。グループミッションにもある「中小企業に高付加価値サービスを提供する」という社会的意義に、微力ながら私も貢献できることが嬉しいですね。

■離職を防ぐためのメッセージ

自社の理念は2022年に新たに策定した。ハンドブック「COMPASS」は全社員が携帯している

―― 最後に、離職に悩む中小企業の経営者と人事担当者へメッセージをお願いします。

岩永代表 経営者向けには、やはり「ビジョン経営」の大切さです。

経営と運営はまったく別物ですから、現場を信じて適切な権限を渡すべき。そこは性善説でいい。

われわれ中小企業の待遇は、大手に上位互換されてしまう現実があります。だからこそ自社の方向性を持ち、中小ならではの尖った強みやスピードで戦っていく——そのために明確なビジョンを打ち出し、実行し、組織を成長させ続けることこそが離職を防ぐ。経営者の仕事はそれだけだと思います。だから、私自身も引き続き経営者として走り続けなければなりません。

人事担当者の方には、ぜひ経営者とコミュニケーションを密に取ることを大切にしてほしい。ものすごく難しい仕事ですが、経営者の方向性を見ながら「この人が、この会社という船に合致するか、一緒に漕いでくれるか」を見極めることがミスマッチを防ぐ要因です。

人事・浪方さん 私は代表のSNSを見て、必要な人材の傾向を知ることもありますよ(笑)。経営層が5年後・10年後、会社がどうなっていたいかをキャッチできるようになりたいですね。

そして、企業理念は「つくる」だけではなく「運用する」という意識を持つことです。社内に浸透するまで、時間を取って社員たちと読み合わせを続ける粘り強さが、運用の肝だと思います。

ブランディング戦略の一環として、著書発刊のほか、企業の理念やカルチャーを伝える広報物、ルールブックも制作

■取材協力
アイユーコンサルティンググループ
https://bs.taxlawyer328.jp/

関連記事

TOP