【残業代計算ツール紹介】正しい残業代の計算方法とは?

「働き方改革」が推進される現代においても、中小企業における残業時間の管理や残業代の計算は、依然として煩雑でミスが起こりやすい業務の一つです。
法令遵守はもちろん、従業員のモチベーション維持、ひいては企業成長のためにも、正確な残業代計算は不可欠です。
しかし、「複雑な計算方法に手間がかかる」「法改正への対応が難しい」といった悩みを抱える経営者や労務担当者の方も少なくないでしょう。
この記事では、そのような課題を解決するために、正しい残業代の計算方法をステップごとにわかりやすく解説します。
さらに、煩雑な計算業務を効率化し、人的ミスを削減する「残業代計算ツール」に焦点を当て、その選び方や代表的なツールをご紹介いたします。
目次
「残業代」とは
「残業代」とは、労働者が所定労働時間を超えて労働した場合に、使用者が支払うべき賃金の割増金のことです。
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、通常の賃金に一定の割増率を上乗せして支払うことが義務づけられています。
残業代は、労働者の権利を守る上で重要な要素であり、適切な計算と支払いが求められます。
残業代計算ツール活用前に知っておきたい残業代の計算方法
残業代は、1時間あたりの賃金額に、時間外・休日・深夜労働時間数と、それぞれの割増率を掛けて算出します。

出典)厚生労働省「割増賃金の計算方法」p.1
最初に、月給制なら月給を所定労働時間で割り、1時間あたりの賃金を計算します。次に、残業の種類(時間外、休日、深夜)に応じた割増率(例:時間外1.25倍~)を適用し、最後に、それぞれの残業時間数を掛けることで、正確な残業代を計算できます。
ただし、月給、日給、時間給と各賃金制度によって残業代の計算式が異なるため、注意が必要です。
残業代を正しく計算するための手順
残業代は、労働者の権利を守る上で非常に重要な要素です。しかし、その計算方法は複雑で、多くの企業や労働者が計算に苦労しています。
ここでは、誤りのない残業代を算出するために、ツールを使わずに計算する手順をわかりやすく解説します。
STEP1:基本給から1時間あたりの賃金を算出する
残業代を計算する上で最も重要な最初のステップは、1時間あたりの賃金を正確に算出することです。この金額が誤っていると、その後の計算もすべて無効になってしまいます。

出典)厚生労働省「モデル就業規則」p.47
なお、固定残業代が設定されている場合は、その金額が差し引かれた基本給を元に計算を行う必要があります。
月給制の場合
月給制の場合、1時間あたりの賃金は以下の計算式で求めます。

出典)厚生労働省「モデル就業規則」p.51
ここで注意すべき点は、「1か月の平均所定労働時間数」です。これは、年間の所定労働日数を12で割り、さらに1日の所定労働時間を掛けることで算出します。
賞与や通勤手当、住宅手当などは、原則として1時間あたりの賃金の計算には含まれません。
日給制の場合
日給制の場合は、まずその日の基本給を1日の所定労働時間で割ります。さらに、月給制と同様に、役付手当、技能・資格手当、精勤手当などの諸手当がある場合は、それらの合計額を「1か月の平均所定労働時間数」で割った金額を合算します。
計算式は以下の通りです。

出典)厚生労働省「モデル就業規則」p.52
このように、月給制と日給制では1時間あたりの賃金の算出方法が異なり、注意が必要です。正確な1時間あたりの賃金を把握することが、適正な残業代計算の第一歩となります。
STEP2:固定残業代が設定されていても残業の種類に応じた割増賃金率を適用する
1時間あたりの賃金(基本給から算出)を算出した後、次に重要なのが残業の種類に応じた割増賃金率を適用することです。
労働基準法では、時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれに対して、以下のように通常の賃金に上乗せする割増率が定められています。
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
時間外(時間外手当・残業手当) | 法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えたとき | 25%以上 |
時間外労働が限度時間(1か月45時間、1年360時間等)を超えたとき | 25%以上 | |
時間外労働が1か月60時間を超えたとき | 50%以上 | |
休日(休日手当) | 法定休日(週1日)に勤務させたとき | 35%以上 |
深夜(深夜手当) | 22時から5時までの間に勤務させたとき | 25%以上 |
参考)厚生労働省「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」
法定時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外労働の割増率(2割5分以上)と深夜労働の割増率(2割5分以上)が合算され、5割以上の割増率となります。
また、注意すべき点は、固定残業代が設定されている場合でも、法定の割増賃金率は別途適用されるということです。
STEP3:残業時間数を正確に把握する
割増賃金率を理解し、残業時間数を正確に把握することが不可欠です。曖昧な記録や自己申告に頼るのではなく、客観的な記録に基づいて時間を集計する必要があります。
タイムカード、ICカードによる勤怠管理システム、PCのログオン・オフ記録など、客観的な証拠となる記録を活用できます。
STEP4:残業代を算出する計算式に当てはめて計算する
1時間あたりの賃金、適用すべき割増賃金率、そして正確な残業時間数を把握したら、いよいよ残業代を算出する計算式に当てはめて計算します。
記事冒頭でも紹介したように、基本的な計算式は以下の通りです。
1時間あたりの賃金額 × 残業時間数 × 割増賃金率 |
たとえば、1時間あたりの賃金が2,000円の労働者が、法定時間外労働を5時間行った場合(割増率1.25倍)、残業代は以下のようになります。
2,000円 × 5時間 × 1.25 = 12,500円
計算式に正確な数値を当てはめることで、はじめて適正な残業代を算出できるのです。
参考)厚生労働省「割増賃金の計算方法」p.1
【中小企業はとくに注意】残業代計算ツールを使わないことによるリスク
中小企業においては、リソースや専門知識の不足から、残業代の計算を煩雑に感じ、ついつい手計算や曖昧な管理に頼ってしまうケースが見られます。
しかし、法規制に対する知識や労務管理体制が十分でない中小企業こそ、これらのリスクをしっかりと認識し、適切な対策を講じる必要があるのです。
残業代計算ツールを利用しない企業には、以下のような看過できない重大リスクが生じる可能性も否定できません。
未払いの残業代を請求される
残業代の計算ミスや杜撰な時間管理は、従業員からの未払い請求につながる重大なリスクです。
労働基準法は労働者を保護しており、未払い請求権は長期間有効となり、積み重なれば中小企業の経営を揺るがしかねません。
労働基準監督署からの調査による是正勧告や指導は、従業員からの信頼失墜や今後の労務管理への悪影響も懸念されます。
情報化が進む現代、労働者は容易に情報を得て法的手段に訴える可能性もあることから、残業計算ツールなどを使用した正確な計算と支払いが、訴訟リスク回避の鍵です。
企業のイメージが下がる
未払い残業代問題は金銭的損失に加え、企業イメージを大きく損ねます。従業員の不満や退職増加、企業文化悪化を招き、ネット上の悪評や風評被害にもつながりかねません。
地域社会と密な関係構築が見られる中小企業では、「残業代不払い」「従業員軽視」のイメージが人材確保や取引に悪影響をおよぼします。
コンプライアンス意識が問われる現代、法令遵守の低さがブランドイメージを傷つける要因となるため、信頼を維持するには正確な残業代の支払いが不可欠です。
刑事罰が科される可能性
悪質な残業代の不払いは、労働基準法第119条により、懲役や罰金が科される可能性もあります。
実際に刑事罰となるケースは稀ですが、監督署の指導や是正勧告を無視したり、意図的な不払いがあったりすれば、送検・起訴されるリスクは否定できません。経営者や担当者の逮捕・起訴は企業の存続を脅かし、社会的信用を失墜させます。
中小企業の経営者は、残業代計算の重要性を認識し、計算ツールの導入など適切な対策を講じることが重要です。
参考)e-Gov 法令検索「労働基準法」
残業代計算ツールを選ぶ際のポイント
残業代の計算にエクセルを導入しているという中小企業も多いですが、エクセルでの計算は、手入力によるミスや法改正への対応漏れのリスクがあり、不十分と言わざるを得ません。
残業代計算ツールを選ぶ際は、自社の状況に応じ、以下のポイントを確認する必要があります。
- 自社の給与体系や就業規則への対応
- 複雑な割増率や手当、変形労働時間制などへの対応
- 勤怠管理システムとの連携機能
- 法改正や制度変更への自動アップデート機能
- 充実したサポート体制
残業代計算ツールの無料版やトライアル期間を利用し、操作性や必要な機能が備わっているかを事前に確認することも、導入後の安心につながるポイントです。
代表的な残業代計算ツール
残業代計算を効率化し、ミスを防ぐためには専用ツールの活用が有効です。ここでは以下の3つの代表的な残業代計算ツールを紹介します。
高機能な残業代計算ツール「Keisan」
「Keisan」は詳細な設定が可能で、複雑な計算に対応した残業代計算ツールです。
特徴:
- 時間外労働、休日労働、深夜労働の割増率を細かく設定でき、複雑な勤務体系にも対応可能
- 月給制、日給制、時給制など多様な給与体系をサポートし、詳細な計算結果を表示
- シンプルなインターフェースで、基本的な操作が直感的に行える
注意点:
- 無料版では機能に制限がある
- 詳細な設定が可能である反面、入力項目が多く、はじめは操作に戸惑う可能性
- 法改正への対応状況は定期的に確認が必要
参考)CASIO「残業代の計算 - 高精度計算サイト - Keisan -」
手軽に使える残業代計算ツール「月想定-残業計算機-」
「月想定-残業計算機-」は月給から概算を簡単に算出できる残業代計算ツールです。
特徴:
- 月給、所定労働時間、平均残業時間を入力するだけで、概算の残業代を算出できる
- 複雑な設定は不要で、手軽に利用できる
注意点:
- 詳細な割増率や深夜労働時間などを考慮した正確な計算には不向き
- 給与体系が複雑な場合や、正確な残業代を把握したい場合は、より詳細な計算ツールとの併用を推奨
参考)ファンジョブ「残業代がいくらになるかパパッと計算【月想定-残業計算機-】」
クラウド型の残業代計算ツール「アルビノツール」
「アルビノツール」は上限規制に対応したクラウド型残業代計算ツールです。
特徴:
- シンプルな操作性と、時間外労働の上限規制に対応した計算機能
- 時間単位有給休暇の取得状況も考慮できる
- クラウド型で、複数デバイスからのアクセスやデータ共有が容易
注意点:
- 無料プランは機能が限定されているため、利用人数やデータ容量によっては有料プランへの移行が必要
- インターネット環境が必須
参考)アルビノツール「残業代の計算ツール!月給(基本給)から固定残業代もわかる」
ここで紹介した以外にも残業代計算ツールは数多くあります。自社の勤怠管理方法や従業員数に合わせて、適切なツールやプランを選択することで、正確な残業代の計算が可能となります。
まとめ
この記事では、正しい残業代の計算方法と、その効率化に役立つ残業代計算ツールについて解説してきました。
複雑な計算方法を理解し、法改正に適切に対応することは、未払い残業代のリスクを回避し、従業員との信頼関係を構築する上で極めて重要です。
手計算やエクセルでの管理には限界があり、ミスや時間的なコストが発生しやすい現状があります。
ツールの選定にあたっては、自社の給与体系や就業規則、必要な機能などを十分に検討し、最適なものを選ぶようにしましょう。
残業代計算ツールの導入は、法令遵守、従業員満足度向上、そして企業成長への確実な一歩となるはずです。
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