ミッション設計と現場を巻き込む組織づくり
人事が評価され、待遇を高めるには?
人事の仕事は採用をはじめ、評価制度、オンボーディング、従業員対応など多岐にわたります。一方で、成果が見えにくく「やって当然」と受け止められやすい仕事でもあります。では、人事担当者が組織の中で正当に評価され、待遇を高めていくには、どのような考え方や動き方が必要なのでしょうか?
今回は、株式会社ベーシック 経営管理部 人事グループ マネージャーの川前志穂子氏にお話を伺いました。
ミッショングレード制における目標設定、人事業務における成果の決め方、現場を巻き込む採用活動、HRツールの活用、そして人事の成果を評価や待遇につなげるためのビジョン貢献の重要性について紹介します。
■プロフィール
株式会社ベーシック
経営管理部 人事グループ マネージャー 川前志穂子
BtoBマーケティング支援サービス「ferret One」、フォーム起点のDXを支援する「formrun」、AIワークフロー「workrun」などを展開。顧客接点のDX基盤から、AIを活用した業務フロー全体の自動化支援へと事業を広げている。
「人手に頼らない時代」の人事の価値とは? “AIワークフローカンパニー”が登場

―― まず、ベーシックの事業内容をお聞かせください。
ベーシック 経営管理部 人事グループ マネージャー 川前志穂子さん:
フロントオフィス領域のSaaS「ferret One」「formrun」を展開しています。BtoBマーケティングにおいて、顧客からの問い合わせや見込み顧客を獲得する入口を支援するものです。
現在は「AIワークフローカンパニー」というスローガンを掲げています。事業の仕組みをAIで自動化・改善する「workrun」を通して、人手に依存するのではなく、仕組みとテクノロジーで問題を解決することが企業としてのミッションです。これまでは事業成長=増員でしたが、労働人口が減っていく時代には社会全体で生産性を上げていかなくてはならない。そのために、業務をテクノロジーで自動化・支援するプロダクトを開発・提供しています。
―― 企業理念への貢献という意味で、「人事」が担う役割は。
川前さん 当社のビジョンは「創造的で、人らしい仕事に情熱が注げる未来を作る」ということ。149名(2026年5月時点)という組織の中で、人事の大きな役割はもちろん「採用」ですが、採用数だけを追わず、本当にビジョンに賛同してくれる人を採ることが重要です。
そのために大切なのは、ベーシックの社員として、自身がビジョンを体現するということです。AIワークフローカンパニーとして、全員がAIを活用して生産性向上に寄与する。もちろん人事も例外ではありません。
日々ビジョンを実行しているから、求職者に説得力を持って自社の価値を語れるし、共感した人に集まってもらえる。人事は単なる管理業務ではなく、事業成長を支える専門職なのです。
「評価される」人事とは? 組織目標からミッションを導く仕組み

―― そうした組織の中で、人事の仕事をどのように評価し待遇に反映するべきでしょうか。営業のように売上に直結せず、目標設定も難しい領域だと思いますが。
川前さん おっしゃる通り、人事にとって何を「成果」とするかは、とても難しいテーマですね。採用や制度設計のような施策は、その先何年後かに効いてくることもあります。入社直後はあまり活躍していないように見えた人が、配置や育成によって3年後に能力を発揮することもある。短期では成果が見えにくいものです。
では、どう評価するのか。当社の組織全体の人事評価は「ミッショングレード制」で、ミッションに対する達成度を評価軸に設定しています。
今期、ベーシックが何を目指していくのか。コーポレート全体でミッションのツリーを作って、各部署の取り組みを落とし込んでいきます。さらにツリー内の各タスクの担当を誰に割り当てるかという形で、個人のミッションを明確にします。
個人目標は達成度を5段階で設定し、「3」が標準的な目標です。さらに上の「4」の評点を取れる人はほとんどおらず、「3」を達成したこと自体をきちんと評価し待遇に反映していく形です。

―― 実際にはどのような評価基準が置かれているのでしょうか?
川前さん たとえば、今期コーポレート部門で掲げたのが「10名で月間100時間を削減する」という目標です。1人当たり月10時間の削減と考えると、かなり大変ですよね。
この全体目標をもとに、各部署ごとに削減目標を設定しています。人事では、月間50時間削減を達成するためのリーダーを据えました。リーダーが削減対象の業務を洗い出し、取り組んだ結果を検証しています。
その結果、月間60時間以上の削減を実現し、目標を上回る成果が出ています。
さらに、採用数や離職率といった指標からも成果を定量化しています。数年単位で効果が現れる人事施策については、進捗や納期の達成度も評価対象となります。約束したステップを期日通りに実行できているかも含めて評価されることで、「求められる人事担当者像」が組織の方向性とともに明確になっていきます。

川前さん 人事評価で大切なのは、自分の仕事がどのように企業の未来につながっているのか、どの期待役割に応えたものなのかを客観的に説明できることです。そこに評価をする人・評価を受ける人が双方で「納得」できる状態を目指していきます。
その納得度を従業員満足度のサーベイで測っています。各メンバーの評価が終わった後に必ずサーベイを取り、評価に対する満足度や納得度、意見、自由な感想を回答してもらいます。そこも定量・定性で見えるところです。
また、人事の成果が見えにくい理由の一つは、成果が出た時に「現場が頑張ったから」「会社の魅力があったから」と分散して見えやすいことにあると思います。
だからこそ、人事は採用や評価のプロセスを仕組み化し、現場を巻き込みながらも、自分たちの制度設計がどんな成果を生んだのかを説明できる状態にしておく必要があります。
採用に現場を巻き込む「研修」の効果

―― 人事部署として、経営層や事業部とはどのような関係性を目指していくべきでしょうか。
川前さん まず前提として、当社には「採用は全社一丸となって取り組むもの」という深い理解と協力体制があります。事業部から「こういう人材を採ってよ」「まだ採れていないの?」と言われることもありません。会社全体で採用活動にあたっているからです。
採用は人事だけで抱え込まないことが大切です。現場を巻き込み、採用や評価のプロセスを関係者に共有することで、人事の働きや、どこで価値を出しているのかも見えやすくなります。
―― 現場の巻き込みは、人事担当者の悩みのひとつです。採用に現場が協力する体制づくりのポイントは?
川前さん 採用を開始する際は、必ずその募集部署のメンバーを対象とした「目線合わせのワークショップ(研修)」を実施しています。実は、この事前のプロセスが採用成功の大きな鍵を握っています。
研修では、人材エージェントの求人票の土台になる「オーダーシート」を事業部に記載してもらいます。なぜ今新しいメンバーが必要なのか。業務内容は何か。それは外注では担えないのか......。そこからターゲットを絞っていきます。人事がなんとなく「こういう人材がいいのではないか」と考えるより、やはり現場から直接吸い上げたいですね。人事にとっては、この仕事の魅力は何かをキャッチアップする時間でもあります。
さらに研修では自分の会社をどう魅力的に語るか、自分がなぜこの会社にいるのか、なぜこの会社を選んだのかという原点に立ち返ってもらいます。その想いが、面接での熱意につながってきますから。さきほどの「ビジョンを体現する」という姿勢にも表れますが、採用サイトや人材エージェントの募集要項に書いてあることと、面接する社員が言っていることが一致しなかったら求職者も違和感を持ちますよね。現場の社員にも、自分の目で納得した人を採るべきなのです。
人事の仕事は、まず社内の協力体制の構築です。「自分が作った仕組みによって組織がどう動いたか」を語れることが、評価アップのカギではないでしょうか。
人事組織に役立つ「HRテック活用」の目的意識

―― 体制構築に絡めて、人事部署としてのテクノロジー活用について伺います。HRツールなども多く展開されていますが、チーム内ではどのように使っていますか。
川前さん さきほど話した人事評価では、さまざまなツールを導入し試してきました。「カオナビ」、「タレントパレット」、現在は「SmartHR」をメインで使っています。タレントパレットは分析能力が強みでしたし、SmartHRは人事情報を一元化できるマスタ管理機能が便利ですね。従業員満足度をはかるサーベイにもSmartHRを使っています。
そのサーベイの回答を100%にするために、リマインド目的で使っているのは自社の「workrun」です。こうしたツールを組み合わせることで、回答状況の確認やリマインドにかかる手間が減り、業務時間削減というバックオフィスの部署目標にも貢献し、結果として評価も上がるわけです。今後もAIワークフローと絡めて、最適な使い方を検討していきたいと思います。
―― HRツールの活用は、人事としての評価向上にも有効でしょうか。
川前さん 私が人事として社内評価が上がったと実感したエピソードで言えば、結局は「従業員との対話」なんですよね。大事なのは、ツールで得られた情報をもとに、マネージャーや人事がちゃんと人と向き合えること。
たとえば、サーベイの反応が少し思わしくない人にはクイックに面談を入れ、雑談しながら悩みに向き合ってみる。オンボーディングでも、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月のタイミングで面談をしています。
退職が増えた時期にも丁寧にひとりひとり面談しました。気になるところは経営層にエスカレーションし、部署の環境が合わないのであれば異動も提案し、離職を防いできました。
組織の中で「成長を感じられない」「人間関係で苦戦している」など 苦しい想いをしたらサイレントに転職活動していなくなってしまうケースもあるでしょう。でも、対話すれば社内に別の道が見つかることもあります。メンタルでの不調を抱えて休職した人が戻ってこられるようにフォローしたり、新たな活躍の場を模索することも人事の役割です。
そのためには、相談しやすい仕組み作りが大切だと思います。ツールによる効率化の目的は「話す時間」を増やすこと。マネージャーも同様で、話すことでひとりひとりの能力を伸ばしたり、キャリアプランを考えられますよね。
私はこのベーシックでもう20年ほど勤めています。そんなベテランだからこそ、メンバーにしっかり向き合う会社であるという姿勢を見せたいと思います。
キャリアアップと評価に悩む人事担当者へ

―― 最後に、自身のキャリアと評価アップに悩んでいる人事担当者にメッセージをお願いします。
川前さん 人事は、会社の人に関することのすべてが仕事です。時には現場のコミュニケーションにも介入しながら、仕組みで悩みを解決し、事業や人が成長する組織に育てていく。そうした役割なんだなと、この5、6年でやっと腑に落ちるようになりました。
すぐに成果が見えにくい人事の仕事では、組織目標に対して自分がどの役割を担い、どんな成果を出し、どのように現場を巻き込んだのかを明確に言葉にしておくことが大事です。
人事担当者の皆さんがキャリアアップや評価に悩む時は、どこかに言語化・定量化できていない部分があるのではないでしょうか? 想いや役割を言葉にすることは簡単ではありませんが、まず自身を見つめ直してみてはいかがでしょうか。私も言語化は得意ではありませんが、AIに壁打ち相手になってもらって思考を整理しています。
人事は組織成長を支える大切な仕事です。組織を守り・動かす人事として、評価と待遇を高めていってほしいと思います。
| ■取材協力 株式会社ベーシック https://basicinc.jp |
| ■本記事で紹介したHRツール SmartHR(株式会社SmartHR) 労務管理・タレントマネジメントシステム。 主な機能:雇用契約や入社手続きのペーパーレス化、年末調整・給与明細の電子化、従業員データベースの構築、評価管理・配置シミュレーションなど。 公式サイト:https://smarthr.jp/ workrun(株式会社ベーシック) AIワークフローツール。 主な機能:SaaSやチャット・CRMなど既存ツール間のデータ連携、AIによる判断・処理・記録の自律実行、複数ツールにまたがる定型・半定型業務の自動化など。 公式サイト:https://b-work.run/home タレントパレット(株式会社プラスアルファ・コンサルティング) タレントマネジメントシステム。 主な機能:社員のスキル・経歴の可視化、あらゆる人事データの分析、人事評価、適性検査、離職予兆の検知、採用管理など。 公式サイト:https://www.pa-consul.co.jp/talentpalette カオナビ(株式会社カオナビ) タレントマネジメントシステム。 主な機能:従業員のスキル・評価・顔写真などのデータベース化、人事評価運用、アンケート調査、分析・シミュレーションなど。 公式サイト:https://www.kaonavi.jp/ |
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