子の看護休暇は無給で意味がない?従業員側・企業側のメリットや法改正のポイント

共働き世帯が増える現代において、子育てと仕事の両立は多くの家庭が直面する重要な課題となっています。
特に小さな子どもを持つ働く親にとって、子どもの急な発熱や病気に対応するための休暇制度は必要不可欠です。
この記事では、2025年4月に大幅改正された「子の看護等休暇」について、従業員側と企業側の双方の視点から詳しく解説します。
目次
子の看護休暇は2025年4月から「子の看護等休暇」へ変更
2025年4月1日施行の改正育児・介護休業法により、従来の「子の看護休暇」が「子の看護等休暇」に名称変更されました。
この法改正は、少子化が進む日本において、仕事と育児の両立支援を強化する政府の重要な政策の一環として位置づけられています。
共働き世帯は年々増加しており、2023年の共働き世帯数は1,278万世帯にまで増えています。
専業主婦世帯数が517万世帯であることと比較すると、共働き世帯の方が圧倒的に多いことがわかるはずです。

出典)独立行政法人労働政策研究・研修機構「共働き等世帯の状況 ―労働力調査(詳細集計)結果から―」
このような社会背景のもと、働く親が安心して子育てできる環境整備が急務となっており、今回の制度拡充もその解決策の一つとして導入されました。
名称に「等」が追加されたことが示すように、この制度は従来の狭義の「看護」から、より包括的な子育て支援制度へと進化しています。
現代の子育て世代が直面する多様なニーズに対応するため、制度の適用範囲が大幅に見直されており、働く親にとってより実用性の高い制度となったのです。
参考)厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント」
参考記事:育児・介護休業法とは?企業が知るべき内容をわかりやすく解説
法改正による主な変更内容
今回の法改正では、対象年齢の拡大以外にも重要な変更が複数実施されました。
最も注目すべきは取得事由の追加です。
従来は「負傷し、もしくは疾病にかかった子の世話」と「予防接種・健康診断」のみが対象でしたが、新たに2つの事由が追加されています。
また、対象となる子の範囲も拡大されました。
子供の看護休暇に関する主な変更内容については以下の通りです。

出典)厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント」
こういった変更により、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症の流行による学級閉鎖などの際や、子どもの入園式・入学式・卒園式へ参加するといった理由で、子の看護等休暇を取得できるようになりました。
従来は、行事参加のために年次有給休暇を取得していた方も、子の看護等休暇を活用できるようになったのです。
その他、以下のような点についても変更されています。
- 残業免除の対象拡大
- 育児のためのテレワーク導入の努力義務化
- 育児休業取得状況の公表義務が「300人超の企業」に拡大
- 柔軟な働き方を実現するための措置等が事業主に対して義務化
- 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮が事業主に対して義務化
参考記事:子の看護休暇とは?法改正による主な変更点や企業が取り組むべき課題
参考)厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント」
子の看護等休暇は無給では意味がない?
子の看護等休暇を有給にするか無給にするかについては、法律で決められていません。
有給か無給かは、企業の判断に委ねられています。
2021年に厚生労働省が実施した「雇用均等基本調査」によると、子の看護休暇を「無給」としている企業が65.1%、「有給」が27.5%、「一部有給」が7.4%という結果が出ています。

出典)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 - 事業所調査 結果概要」p.30
子の看護等休暇が無給になることに対して「意味がない」という声が一部であるものの、実際にはそうではありません。
確かに経済的な負担は生じますが、法律で保障された休暇であるため、取得したことを理由に不利益な取り扱いを受けることがないのです。
その他にも、無給であろうと子の看護等休暇を取得できるメリットは存在します。
具体的にどのようなメリットがあるのかについては、次の項目で解説します。
子の看護等休暇を無給で取得する従業員側のメリット
無給であっても、子の看護等休暇には年次有給休暇とは異なる独自のメリットがあります。
法的に保障された休暇として、働く親の子育てと仕事の両立を支える重要な役割を果たしているのです。
この項目では、実際にどういったメリットがあるのかについて詳しく解説していきます。
有給休暇がなくなっても休みを取れる
子の看護等休暇の最大のメリットは、年次有給休暇の残日数に関係なく休暇を取得できることです。
子ども1人につき年間5日まで(2人以上の場合は10日まで)の休暇が法的に保障されているため、年次有給休暇をすべて使い切った状況でも、突発的な子どもの体調不良の際に安心して休むことができます。
特に小学校低学年の子どもは病気にかかりやすく、感染症による学級閉鎖も頻繁に発生します。
このような状況で年次有給休暇だけに頼っていると、すぐに休暇日数が底をついてしまうでしょう。
しかし子の看護等休暇があることで、計画的な休暇と緊急時の休暇を分けて管理でき、安定した働き方が実現できるのです。
また、子の看護等休暇は法律で定められた権利であるため、会社側も取得を拒否することができません。
この法的保障により、従業員は心理的な負担を軽減して休暇を取得できます。
1日単位ではなく時間単位で休める
2021年の法改正により、子の看護等休暇は時間単位での取得が可能となりました。1時間単位であれば、従業員の希望する時間数で柔軟に取得できるため、子どもの状況に応じた細やかな対応が可能です。
たとえば、子どもの病院受診に2時間だけ必要な場合、従来であれば半日や1日の休暇を取得する必要がありました。
しかし現在では、必要な時間分だけ休暇を取得できます。
午前中に病院へ連れて行き、午後から出社するといった働き方も可能なのです。
フレキシブルに休暇が取れるという点も、子の看護等休暇の大きなメリットだと言えるでしょう。
ライフイベントを大事にできる
子どもの入園式・入学式・卒園式への参加が、子の看護等休暇の取得事由に加わったことも親としては嬉しいはずです。
子供に関する式典は、一生に一度の重要なライフイベントであるため、参加したいと考えている親は多いでしょう。
従来、こうした行事参加のためには、年次有給休暇を使用する必要がありました。
しかし、子の看護等休暇を活用して子供の行事に参加することで、年次有給休暇を家族旅行や自分のリフレッシュなど、他の目的に使えるようになります。
これにより、子どもの成長過程における重要な場面を見守り、家族の絆を深めつつ、自分の時間を確保することもできるのです。
子の看護等休暇を充実させることによる企業側のメリット
企業が子の看護等休暇制度を法定基準以上に充実させることで、従業員満足度の向上だけでなく、経営面でも多くの利益を得ることができます。
制度への投資が長期的な企業価値向上につながるのです。
どういうことなのか、以下の項目で具体的に解説していきます。
離職率が下がる
企業が子の看護等休暇制度を充実させることで、子育て世代の従業員の離職率低下が期待できます。
特に、制度を有給化したり、法定日数を上回る日数を設定したりすることで、従業員の満足度向上と定着率アップに大きく貢献します。
子育て中の従業員にとって、子どもの急な病気や学校行事への対応は避けて通れません。
これらに柔軟に対応できる職場環境があることで、従業員は安心して長期的に働き続けることが可能です。
離職率の低下は、企業にとって「採用コストの削減」「業務継続性の確保」「ノウハウの蓄積」など多面的なメリットをもたらします。
新たな人材を確保しやすくなる
充実した子の看護等休暇制度は、企業の採用活動において大きなアピールポイントとなります。
ワークライフバランスを重視している人材も多いので、子育て世代の優秀な人材を獲得する際に大いに役立つはずです。
求職者は、給与水準だけでなく、「働きやすさ」や「将来の子育てとの両立可能性」を重要視する傾向が高まっています。
- 子の看護等休暇が有給である
- 法定を上回る日数が設定されている
- 時間単位取得が柔軟に運用されている
こういった環境が整備されていれば、企業選択の重要な決定要因となり得ます。
助成金が受けられる
企業が、子の看護等休暇制度を法定基準を上回って充実させた場合、国から助成金を受給できる可能性があります。
両立支援等助成金として用意されているのは、以下の6つです。
- 出生時両立支援コース
- 介護離職防止支援コース
- 育児休業等支援コース
- 育休中等業務代替支援コース
- 柔軟な働き方選択制度等支援コース
- 不妊治療及び女性の健康課題対応両立支援コース
法定基準を上回った場合の例として、仮に子の看護休暇制度の対象年齢を、法定の「小学校3年生修了まで」を上回る「中学校卒業まで」に引き上げたとします。
この場合、事業主には、「柔軟な働き方選択制度等支援コース」の支給額に20万円が加算されます。
これらの助成金を活用することで、制度導入・拡充にかかるコストの一部を補てんできるでしょう。
助成金の受給要件や申請手続きは複雑な場合が多いため、企業の担当者はリテラシーを高める必要があります。
参考)厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」
企業が「子の看護等休暇はない」と言うことはできる?
子の看護等休暇は、育児・介護休業法に基づく法定休暇であるため、企業が「制度はない」と言って取得を拒否することはできません。
この制度が法的に義務化された背景には、共働き世帯の急増と子育て支援の社会的要請があります。
働く親が、子供の急な病気や学校行事に対応しながら、安心して働き続けることができる環境を整備することで、離職の防止や少子化対策の推進を図ることが主な目的です。
ただし、企業は労使協定を締結することで、一定の従業員を制度の対象から除外することが認められています。
とはいえ、除外可能なのは、週の所定労働日数が2日以下の従業員のみです。
2025年4月の法改正により、従来除外可能であった「雇用期間が6か月未満の従業員」については除外できなくなりました。
この改正は、入社間もない従業員であっても子育てと仕事の両立支援を受けられるよう、制度の適用範囲をより拡大する目的で実施されたものです。
企業が制度の導入を怠った場合や、正当な理由なく取得を拒否した場合は、労働基準監督署による行政指導の対象となる可能性があります。
参考)厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント」
まとめ
2025年4月に施行された改正育児・介護休業法により、子の看護休暇は「子の看護等休暇」として大幅に拡充されました。
これは、従業員側にとっても企業側にとってもメリットのあることです。
従業員側としては、より自由な休暇の取得が可能になりますし、企業側としては、この制度を活用して従業員の定着率向上や新規採用につなげることが可能になります。
改正された制度の内容を詳しく把握し、双方にとってメリットのある形を構築していきましょう。
関連記事
-
残業規制は中小企業にも適用!上限や割増賃金率を把握してリスクを回避
働き方改革関連法の施行により、時間外労働(残業)の上限規制は、大企業のみならず中小企業にも適用されています。残業時間の上限超過は、罰則だけでなく企業イメージの低下にも繋がりかねません。この記事では、中小企業が把握すべき残業時間の上限、割増賃金率、そして企業が取るべき対策を解説し、残業リスク回避につながる情報を紹介します。
-
職場でのモラルハラスメントとは?事例、企業としての対策、法的措置など
人事、総務などのバックオフィス担当者としては、モラルハラスメント防止に努める必要があります。しかし「どう対策すべきか分からない」という方もいるでしょう。
この記事では、モラルハラスメントについて定義、事例、リスク、対策するメリット、対策方法などを網羅的に解説します。 -
残業が60時間を超えたら要注意!割増率と代替休暇について理解すべきこと
「残業が月60時間を超える」──。このラインを超えると、労働者の健康リスクは著しく高まり、法律も企業への規制を強めます。
この記事では、残業が60時間を超えた場合に適用される割増賃金率の変化と、残業代の代わりに代替休暇を付与する制度について、わかりやすく解説します。
残業時間が増えてきた際の注意点や割増賃金に関する疑問をお持ちの中小企業経営者、担当者の方は必見です。
60時間超え残業に関する重要ポイントを理解し、適切な労務管理、働き方へとつなげましょう。
-
メンタルヘルス対策の新常識とは?中小企業が直面する課題と解決法
近年、ビジネスの現場でメンタルヘルスケアの重要性が高まっています。しかし、具体的に何から始めればよいのか、どんな対策が効果的なのか、悩んでいる経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。本記事では、企業におけるメンタルヘルス対策の基礎知識から実践的な取り組み事例まで、分かりやすく解説していきます。
-
103万円の壁が廃止され控除額引き上げへ!中小企業が知っておくべきこと
2024年12月20日、与党は「2025年度税制改正大綱」を決定しました。その中には、国民民主党がこだわっている「103万円の壁の見直し」についても盛り込まれており、所得税の控除額を現行の103万円から123万円まで引き上げる旨が記されています。本記事では、この制度変更の背景や影響、そして中小企業が注意すべきことなどについて、実務的な観点からわかりやすく解説します。