事例から学ぶ!中小企業におけるコンプライアンス違反の落とし穴と対策

「知らなかった」では済まされないのが、企業におけるコンプライアンス違反です。とくに中小企業では、大企業に比べて専門部署や担当者の設置が難しく、意図せず法令や社会規範に抵触してしまう「落とし穴」が潜んでいます。
しかし、コンプライアンス違反は企業の信用失墜だけでなく、個人にまで法的責任が及ぶ可能性もあるのです。
この記事では、実際に中小企業で発生したコンプライアンス違反の事例を基に、どのような「落とし穴」があるのかを具体的に解説します。また、限られたリソースの中でも実践できる効果的な対策を、事例と関連付けながらご紹介します。
なお、以下の資料は、実際にコンプライアンス違反をした企業の失敗事例や、コンプライアンス違反が起きた背景と影響などを図表とともに紹介しています。
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そもそもコンプライアンスとは?中小企業にとっての重要性
「コンプライアンス」という言葉は、今やビジネスシーンで当たり前に聞かれるようになりました。ここでは、コンプライアンスの基本的な意味から、なぜ今、中小企業にとってコンプライアンスが経営の重要課題となっているのかをわかりやすく解説します。
「コンプライアンス」の意味をわかりやすく解説
「コンプライアンス(Compliance)」と聞くと、まず「法令遵守」を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、法律や条例といった明文化されたルールを守ることは、コンプライアンスの根幹をなす要素です。
しかし、現代におけるコンプライアンスは、単なる法令遵守以上の広がりを持っています。具体的には、以下のような社会のルールや企業の行動規範を守ることも含まれます。
- 社会規範・倫理の遵守
消費者の信頼を裏切らない、環境に配慮する、人権を尊重するなど、法律には明記されていなくても、社会的に求められる常識や倫理観を守ること - 社内規定の遵守
就業規則、業務マニュアル、情報管理規程など、企業が独自に定めたルールを従業員全員が守ること - 企業理念・行動指針の遵守
企業が掲げる理念や、従業員が行動する上での指針に従って行動すること
一昔前は、コンプライアンスは大企業が取り組むもの、という認識が一般的でした。しかし、SNSの普及により、情報が瞬時に拡散される現代において、中小企業であっても一つの不祥事が企業の存続を揺るがしかねない時代です。
コンプライアンスに取り組むことは、リスクを回避し、企業を守るための重要な手段の一つなのです。
コンプライアンスと企業倫理・CSR・ガバナンスとの違い
コンプライアンスと混同されやすい言葉に、「企業倫理」「CSR(企業の社会的責任)」「ガバナンス」があります。それぞれ密接に関わり合っていますが、果たす役割や範囲には違いがあります。
項目 | コンプライアンス | 企業倫理 | CSR(企業の社会的責任) | ガバナンス |
定義 | 法令、社会規範、社内規定などの遵守 | 企業活動における道徳的判断基準 | 企業が社会の構成員として果たすべき責任全般 | 企業が公正かつ効率的に運営されるための仕組み |
目的 | ・違法行為・不祥事の防止 ・信頼維持 | ・企業行動の健全性の確保 ・社会的評価の向上 | ・企業価値の向上 ・持続可能な社会への貢献 | ・経営の透明性・健全性確保 ・企業価値の最大化 |
具体例 | ・ハラスメント対策 ・情報漏洩対策 ・公正取引の徹底 | ・顧客への誠実な対応 ・従業員の人権尊重 ・地域社会への配慮 | ・環境保護活動 ・地域貢献活動 ・多様な人材の雇用促進 | ・取締役会の設置 ・監査役による監査 ・内部統制システムの構築 |
コンプライアンスが「守るべき規範」であるのに対し、企業倫理は、法令遵守だけではカバーしきれない、より広範な「企業としての正しい行い」に関する道徳的な判断基準を指します。
CSR(企業の社会的責任)は、企業が単に利益を追求するだけでなく、社会の一員として何ができるかという視点から、持続可能な社会の実現に貢献する活動全般を指します。たとえば、環境保護への取り組みや地域社会への貢献などがこれにあたります。
ガバナンスは、企業の不正行為や経営層の独走を防ぎ、企業が公正かつ効率的に運営されるための仕組みそのものを指します。具体的には、取締役会の設置や監査体制の構築などが挙げられます。
これら4つの概念はそれぞれ異なる役割を持ちながらも密接に連携し、企業の信頼性向上と持続的な成長を支える重要な要素と言えるでしょう。
コンプライアンスと企業理念のつながり
企業にとってコンプライアンスの徹底は、単なる義務ではなく、企業理念を実現するための重要な手段でもあります。
企業理念とは、企業の存在意義や提供価値を示す、根本的な考え方や行動指針です。
この企業理念が、まさにコンプライアンス経営の根幹をなすのです。
- 企業理念がコンプライアンスの方向性を示す
- コンプライアンスが企業理念の実現を支える
- 従業員の意識向上と一体感の醸成
中小企業においても、経営者が明確な企業理念を掲げ、コンプライアンスの実践と結びつけて従業員に浸透させることで、自律的なコンプライアンス経営を実現できるのです。
【事例から学ぶ】コンプライアンス違反の深刻な影響と対策
ここでは、中小企業で起こりがちなコンプライアンス違反の3つの事例を取り上げ、深刻な影響と、経営者が今すぐ取り組むべき対策を解説します。
コンプライアンス違反の事例①パワハラ
「指導の一環」という認識が、大きな代償につながる可能性があります。
上司による部下への暴言や暴行に対し、裁判所が企業に対して「安全配慮義務違反」を認め、損害賠償を命じた事例です。パワハラが、個人の問題ではなく、職場環境の整備責任を怠った企業の、組織的な問題と判断されたことを意味します。
- 深刻な影響
- 損害賠償という直接的な金銭負担
- 優秀な人材の流出
- 社内の雰囲気悪化による生産性の低下
- 「ブラック企業」という評判による信用の失墜など
- 今すぐできる対策
- 「パワハラを一切許さない」という明確な方針を全従業員に示す
- 従業員が安心して相談でき、不利益を被らないような相談窓口の設置
- 管理職へ「指導」と「パワハラ」の境界線を正しく理解させる研修
参考)厚生労働省「【第56回】上司が送ったメールの内容が侮辱的言辞として、損害賠償請求が認められた事案」
コンプライアンス違反の事例②残業代未払い
労務管理の曖昧さが、ある日突然、高額な請求となって返ってくるリスクがあります。
給与に固定残業代が含まれる説明を十分にしていなかったり、権限のない従業員を管理監督者として扱ったりする、いわゆる「名ばかり管理職」によって、残業代が未払いとなっている事例です。
- 深刻な影響
- 労働基準監督署の是正勧告を受ける
- 退職者から過去に遡って未払い分を一括請求される可能性
- 今すぐできる対策
- 客観的な記録により、1分単位での労働時間管理を徹底する
- 固定残業代に含まれる時間や超過分は別途支払うことを雇用契約書や給与明細に明記し、従業員に周知
コンプライアンス違反の事例③不正受給
「少しぐらいならバレない」という安易な考えが、会社の信用を失墜させます。
雇用調整助成金などで、実際には勤務しているにもかかわらず「休業した」と偽って申請するなど、虚偽の申請による不正受給が発覚した事例です。
- 深刻な影響
- 助成金に対する高額な違約金・延滞金
- 事業主名の公表により、金融機関や取引先からの信用を失い、事業継続が極めて困難になる
- 今すぐできる対策
- 経営者一人で判断せず、複数人で申請内容に誤りや虚偽がないかを確認する体制整備
- 社会保険労務士などの専門家に相談し、正しく手続きする
参考)厚生労働省「雇用調整助成金及び緊急雇用安定助成金を不正に受給した事業主の公表について」
参考記事:【2025年最新】コンプライアンス違反の事例6選!リスクを学んで企業の対策を
中小企業が取り組むべきコンプライアンス強化策
中小企業にとってコンプライアンス強化は、企業の信頼性向上や持続的な成長のために不可欠です。限られたリソースの中で効果的にコンプライアンスを推進する、具体的な強化策を以下に示します。
コンプライアンス意識の醸成と浸透
重要なのは、経営層から従業員まで、全員がコンプライアンスの重要性を理解し、意識を高く持つことです。
- 経営層による強いコミットメントの表明
経営トップが率先してコンプライアンスの重要性を発信し、全社的な取り組みであることを明確に示す - 定期的なコンプライアンス研修・教育の実施
- 法令、社内規定、倫理規範に関する基礎知識を習得させる
- 具体的な事例を交え、日常業務におけるコンプライアンスの重要性を理解させる
- ハラスメント、情報セキュリティ、個人情報保護など、とくに中小企業でリスクが高い分野に特化した研修をおこなう
- コンプライアンスに関する行動規範や倫理規定の策定・周知
- 従業員が日々の業務で迷った際に立ち返る具体的なコンプライアンスの指針を明文化し、周知徹底する
- 平易な言葉で記述し、誰もが理解しやすい内容にする
- コンプライアンスに関する情報発信
社内報、掲示板、社内ポータルなどを活用し、定期的にコンプライアンスに関する情報を発信する
内部管理体制の構築と強化
コンプライアンスを実践するための具体的な仕組みを構築することが必要です。
- 責任体制の明確化
- コンプライアンス担当者(責任者)を明確に定め、役割と権限を明確にする
- 必要であれば、複数の部署が連携してコンプライアンス推進にあたる体制を構築する
- 社内ルールの整備と定期的な見直し
- 業務マニュアル
- 稟議規程
- 情報管理規程
- 個人情報保護規程など
- リスクアセスメントの実施
- 自社の事業内容や規模に応じたコンプライアンスリスクを特定し、評価する
- リスクの高い分野から優先的に対策を講じる
- 内部監査の実施
- 整備されたルールが適切に運用されているか、定期的にチェックする体制を構築する
- 内部監査の結果に基づき、改善策を講じる
- 相談窓口・内部通報制度の設置
- 従業員が法令違反や社内規定違反、ハラスメントなどコンプライアンス違反の問題について、安心して相談・通報できる窓口を設置する
- 匿名性を確保し、通報者への不利益な取り扱いを禁止する
- 社内だけでなく、弁護士などの外部機関を窓口とすることも有効
情報セキュリティ対策の徹底
情報漏洩は中小企業にとって致命的なダメージとなりうるため、とくに注意が必要です。
- 情報セキュリティポリシーの策定と周知
情報資産の管理方法、アクセス権限、パスワード設定ルールなどを明確にする - システムセキュリティの強化
ファイアウォール、ウイルス対策ソフトの導入・更新、OSやソフトウェアの定期的なアップデートをおこなう - 従業員のセキュリティ意識向上
不審なメールの開封、不正サイトへのアクセス、私物のUSBメモリ使用などに関する注意喚起と教育 - 物理的セキュリティ確保の徹底
- オフィスの入退室管理
- 書類の施錠保管など
労働法規の遵守
労働基準法をはじめとする労働関連法規の違反は、従業員のモチベーション低下だけでなく、行政指導や訴訟に発展するリスクがあります。
- 就業規則の整備と周知
法令に基づいた就業規則を作成し、従業員に周知する - 労働時間の適正管理
- サービス残業の撲滅
- 適切な休憩時間の付与など
- 賃金の適正な支払い
- 最低賃金の遵守
- 残業代の適切な計算と支払いをおこなう
- ハラスメント対策
- ハラスメント防止のための規定を設ける
- 相談窓口の設置や研修を実施する
反社会的勢力との関係遮断
反社会的勢力との関係を持つことは、企業の信用を失墜させ、事業活動に大きな影響を与えるため、徹底的な排除が必要です。
- 反社会的勢力排除に関する基本方針の表明
契約書に反社会的勢力排除条項を盛り込むなど、明確な方針を示す - 従業員への教育・注意喚起
不審な接触があった場合の対応方法などを教育する
外部専門家との連携
中小企業では、法務やコンプライアンスに関する専門知識を持つ人材不足があります。
- 弁護士、社会保険労務士などとの顧問契約
専門家と連携し、法的な助言や情報提供を受ける
- コンプライアンス関連セミナーへの参加
最新の法改正情報や他社の取り組み事例を学ぶ
参考記事:コンプライアンス遵守のための取り組みとは?意味・重要性・具体例までわかりやすく解説
まとめ
中小企業がコンプライアンスを強化するためには、経営層の強いリーダーシップのもと、全従業員が意識を共有し、具体的な仕組みを構築・運用していくことが不可欠です。
一度にすべてを完璧にするのは難しいかもしれませんが、できることから着実に、継続的に取り組むことが、企業の持続的な成長につながります。
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