第三者委員会を正しく設置・運用するには?押さえるべきポイントを解説

第三者委員会とは、不祥事やトラブルの発生時に、外部の専門家が中立の立場で調査・報告を行う外部組織を指します。
社内の利害関係から切り離された調査を行うことで、企業の透明性や信頼性を確保できるのが大きな特徴です。
とはいえ、経営者や管理部門の方のなかには、「どんなときに第三者委員会を設置すべき?」「社内調査ではなぜ不十分なの?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、第三者委員会の基本的な役割や設置の判断基準、委員の選定ポイント、調査の流れ、公開対応の考え方まで、中小企業が押さえておきたい実務のポイントを網羅的に解説します。
企業にとっては第三者委員会を立ち上げなくていいように、普段から社内のコンプライアンス対策を進めるべきです。以下の資料ではコンプライアンス対応について解説していますのでダウンロードしてご覧ください。
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目次
第三者委員会とは?役割と内部調査との違いを押さえよう
第三者委員会とは、社内の不正やハラスメント、情報漏洩などの問題が発生した際に設置される外部の専門家による独立した調査機関です。
弁護士や学識経験者など、企業と利害関係のない第三者が調査・検証・報告を行うことで、調査の中立性と信頼性を確保することができます。
特に中小企業においては、「社内だけでの対応は難しい」「ステークホルダーに説明責任を果たしたい」といったケースでの活用が増加していることが実状です。社内調査では十分に信頼を得られない場合、第三者委員会の設置が“企業を守る”有効な手段となります。
内部調査委員会との違いとは?信頼性に差が出る理由
第三者委員会と混同されがちなものが「内部調査委員会」です。内部調査委員会は、自社の役員や従業員などが中心となって行う調査機関となります。
どちらも不正やトラブルに対する調査を行う組織です。しかし調査メンバーの構成や調査の客観性に大きな違いがあります。
以下の表で、主な違いを整理しておきましょう。
項目 | 内部調査委員会 | 第三者委員会 |
調査メンバー | 社内の役員・社員など | 弁護士・学識経験者など社外の専門家 |
中立性・客観性 | 利害関係がある場合が多く、偏りの懸念がある | 利害関係がない第三者が担当し、高い中立性と客観性を持つ |
社会的信頼性 | 「身内による調査」と見られ、信頼性に課題が残る場合もある | 公正な立場からの調査として、対外的な信頼を得やすい |
スピード・コスト | 比較的短期間・低コストで対応可能 | 時間と費用はかかるが、調査の精度や信頼性は高い |
向いているケース | 軽微な事案や社内で収集可能なトラブル | 社会的影響が大きい場合や、外部説明が求められる事案などに適している |
このように、どちらが適しているかは事案の性質と目的次第です。
中小企業であっても、社内調査では説明責任が果たせないと判断される場合には、第三者委員会の設置が求められる場面があることを意識しておきましょう。
「意味ない」と思われがちな誤解と現実
第三者委員会に対しては、「どうせ企業が都合よく使っているだけ」「本当に中立なの?」といった懐疑的な声も少なくありません。
たしかに、形式だけの委員会や、事実の隠蔽につながるような運用が過去にあったのも事実です。しかし近年では、日弁連が設置や運営に関するガイドラインを公表し、透明性や中立性を担保する仕組みが整備されつつあります。
正しく設置し、適切な人材を選び、手続きに則って運営すれば、企業の信頼回復や再発防止の要として高い効果を発揮するのは事実です。誤解を避けるためにも、形だけでなく中身のある委員会とする工夫を講じましょう。
日弁連ガイドラインの要点を押さえて設置に備えよう
羅針盤となるのが、日本弁護士連合会(日弁連)が策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」です。このガイドラインは、第三者委員会が企業等から独立した立場で、客観的かつ実効性のある調査を行うための「ベストプラクティス」を示したものになります。
ここでは、ガイドラインの第1部「基本原則」と、より具体的な進め方を示した第2部「指針」の要点を表形式で分かりやすく解説します。
第1部「基本原則の要点」は以下です。第三者委員会の基本的な役割と立場を定めたもので、活動の根幹となる部分となります。
章 | 主な内容 |
第1.第三者委員会の活動 | ・不祥事の事実関係の調査、認定、評価、原因分析を行います。 ・調査対象は、不祥事そのものだけでなく、背景にある企業風土やガバナンス上の問題点にも及びます。 ・全てのステークホルダーに対する説明責任を果たすことを目的とします。 ・調査結果に基づき、具体的な再発防止策等を提言します。 |
第2.第三者委員会の独立性、中立性 | ・第三者委員会は、企業等から独立した立場で、中立・公正で客観的な調査を行います。 |
第3.企業等の協力 | ・委員会の任務遂行には、企業等による全面的な協力が不可欠です。 |
第2部「指針の要点」は以下です。基本原則を実践するための、より具体的で詳細なルールを定めています。
章 | 主な内容 |
第1.活動についての指針 | ・調査の範囲(スコープ)や手法は、企業等と協議の上、第三者委員会が決定します。 ・調査報告書は、原則として遅滞なくステークホルダーに開示することが求められます。 ・再発防止の提言は、企業が実行可能な具体的な施策の骨格となる「基本的な考え方」を示します。 |
第2.独立性、中立性についての指針 | ・調査報告書の起案権は第三者委員会に専属します。 ・経営陣に不利な事実であっても、調査で判明した事実は全て報告書に記載します。 ・報告書は、企業等への提出前にその内容を開示しません。 ・企業の顧問弁護士など、利害関係を有する者は委員に就任できません。 |
第3.企業等の協力についての指針 | ・委員会は、企業が保有する全ての資料や情報へのアクセス、従業員へのヒアリング協力の命令などを企業に要求します。 ・企業からの協力が不十分な場合や妨害があった場合、その事実を調査報告書に記載できます。 |
第4.公的機関とのコミュニケーションに関する指針 | ・調査の過程で必要に応じて、捜査機関や監督官庁などの公的機関と適切なコミュニケーションをとることができます。 |
第5.委員等についての指針 | ・委員の数は原則3名以上とします。 ・委員には、事案に応じて弁護士だけでなく、学識経験者、公認会計士などの専門家が加わることが望ましいとされています。 ・デジタル調査の専門家なども選任できます。 |
第6.その他 | ・調査手法として、ヒアリング、書証検証、証拠保全、デジタル調査などを駆使します。 ・委員の報酬は、客観性を保つため時間制を原則とします。 ・任務の遂行が困難になった場合、委員は辞任することができます。 |
このガイドラインは、第三者委員会の独立性と調査の実効性を確保するための重要な道しるべです。不祥事発生の際には、このガイドラインに準拠した委員会を設置・運営することが、信頼回復へと繋がる第一歩となります。
中小企業はどんなときに第三者委員会を設置すべき?
中小企業であっても、企業の信頼性を損なうリスクがある場合には、外部の視点を取り入れた透明性のある対応が必要です。
特に利害関係のない第三者による調査体制の整備が重要になるケースを紹介します。
いじめ・不正・情報漏洩など社会的影響がある場合
ハラスメントや不正経理、内部告発、顧客情報の漏洩など、企業の社会的評価に大きな影響を与える問題が発生した際には、迅速かつ公正な対応が必要です。
設置が検討されるケース例は以下になります。
- 元従業員によるパワハラ告発がSNSで拡散された
- 役員による横領の疑いが報道された
- 顧客データの流出が明るみに出た
被害者や社会からの信頼を回復するには、利害関係を排除した独立した調査委員会の存在が重要です。
なお、情報漏洩に関しては以下の記事で詳しく解説しています。こちらも参考にしてみてください。
参考記事:情報漏洩とは?企業の信頼を守るために知っておきたい基礎知識と対策
内部での対応が難しいと判断されたとき
経営層や人事部門が当事者に含まれる、あるいは利害関係を有している場合には、内部調査だけでは中立性や信頼性に疑問を持たれる可能性があります。
設置が検討されるケース例は以下です。
- 経営陣に調査対象者が含まれる
- 内部調査チームの構成が偏っている
- 外部からの客観性確保を求められている
第三者委員会を設置することで、客観的な立場からの調査・評価が可能になります。
ステークホルダーへの説明責任を果たす必要があるとき
取引先、株主、従業員などステークホルダーに対して、問題への誠実な対応姿勢を示すことが必要な場面では、調査の透明性と結果の信頼性が求められます。
説明責任を果たすべき場面の例は以下です。
- 取引先から調査体制の開示を求められた
- 社員・労働組合からの強い要望があった
- 株主や金融機関との関係維持が懸念される
第三者委員会の設置は、企業としての真摯な姿勢の表明にもつながります。
第三者委員会設置はコンプライアンス対応の一環です。ステークホルダーへの説明責任や信頼回復に直結します。
コンプライアンスに関しては以下の記事で解説していますので、こちらも参考にしてみてください。
参考記事:コンプライアンスとは?中小企業がリスクから守るために知っておくべきこと
報告書は公開するべき?法的義務と対応方針を確認
第三者委員会による調査の結果がまとまった後、その報告書を社外に公開するかどうかは、企業にとって大きな判断です。
公開の是非は法的義務だけでなく、企業の信頼性やレピュテーションにも直結します。公開義務の有無や判断時の留意点を整理しましょう。
公開義務はある?法律上の位置づけ
第三者委員会の報告書について、法律上の一律の公開義務は存在しません。公開するかどうかは基本的に企業の自主判断に委ねられています。
ただし、上場企業などはコーポレート・ガバナンスの観点から、開示が事実上求められる場合がある点に注意が必要です。また、社会的関心が高い事案に関しては、非上場企業であっても開示しないことで不信を招くリスクもあります。
非公開リスクと信頼性低下の関係
報告書を非公開にすると「何かを隠しているのでは」といった疑念を招きやすく、ステークホルダーからの信頼を損なう可能性があるのは事実です。
特に不正やハラスメントといった社会的に注目される問題では、透明性が企業の評価を大きく左右します。信頼回復や説明責任の一環として、報告書の全文または要約の開示が有効です。
情報公開で気をつけるべきポイント
報告書を公開する際には、被害者や関係者のプライバシー保護に十分配慮する必要があります。また、誤解を招かないよう、事実と評価・意見を明確に区別し、表現には注意を払いましょう。
さらに、内容に誤記がないか法務部門と連携して確認し、報告書の公開後に記者会見や説明資料を用意しておくことも検討すべきです。
第三者委員の選定基準とは?中小企業が信頼される条件を知る
第三者委員会の信頼性は、選任される委員の資質に大きく左右されます。
調査の公平性や客観性を担保し、社内外から信頼を得るためには、選定時に複数の観点を丁寧に確認しましょう。
ここでは中小企業が意識すべき3つの基準を解説します。
利害関係がないかを徹底チェック
まず最も重要なのは、対象企業と委員との間に利害関係がないかどうかです。たとえば、取引先・顧問・元役員・友人などに該当する場合は、中立性が疑われる可能性があります。
特に中小企業では人脈が限られる分、無意識のうちに関係者を選んでしまうこともあるため、経歴や関係性をリストアップして確認する作業が欠かせません。
調査対象に精通した専門家を選ぶ
委員は、調査対象となる問題に関する専門知識や経験を持っている必要があります。
たとえば、パワハラ問題なら労務や人事の専門家、財務不正なら会計士や弁護士など、事案に応じた専門性が信頼性を高めます。
社外の専門家を活用することで、説得力のある報告書が作成でき、社内の利害からも距離を置けるためうってつけです。
ガイドライン上求められる中立性と社会的信頼
日弁連のガイドラインでは、委員には「社会的に信頼される人選」が求められています。
具体的には、客観性を持って意見を述べることができる人物であり、調査の過程や結果に対して疑念を生まないような存在であることが重要です。中小企業でも、第三者性を客観的に説明できるように、選定理由を明文化しておきましょう。
設置から報告までの流れ|中小企業が取るべき具体的なステップ
第三者委員会は「設置すれば終わり」ではありません。調査の信頼性や説明責任を果たすために、設置から報告までの一連の流れを丁寧に進める必要があります。
ここでは、中小企業が実践できる現実的なステップを3段階に分けて解説しますので参考にしてみてください。
設置の必要性を社内でどう判断するか
まずは社内で「第三者委員会の設置が本当に必要かどうか」を判断します。以下のような状況に当てはまる場合は、設置を検討するサインです。
判断の基準 | 具体例 |
社会的影響が大きい | 情報漏洩、いじめ、不正会計などがメディア報道された |
客観性が求められる | 社内調査では関係者の公平性に懸念がある |
ステークホルダーが懸念 | 取引先・株主からの説明責任が求められている |
社内での初期調査や経営会議などで、利害関係のない立場による調査が必要と判断されれば、第三者委員会の設置に進みます。
メンバーの選定と依頼の実務
設置が決まったら、委員の選定と依頼です。人選にあたっては、以下のポイントを押さえましょう。
- 利害関係のない外部の専門家を中心に構成する
- 調査対象となる分野に精通した人材を優先する
- 委員への依頼文や契約書は明文化する(守秘義務や中立性の確認)
中小企業では人脈に頼りがちですが、地元の弁護士会や士業団体に相談することで、適任者を紹介してもらえるケースもあります。
こうした緊急時の対応もコーポレートガバナンスを整備しておくことでスムーズに対処可能です。コーポレートガバナンスについては以下の記事で解説していますので、参考にしてみてください。
参考記事:コーポレートガバナンスとは?設定する目的、コードの内容、事例などを解説
ヒアリング・調査実施〜報告書作成までの流れ
委員会が立ち上がったら、以下のステップで調査を進めましょう。
項目 | 内容 |
調査範囲の明確化 | 委員会で調査対象・手法・スケジュールを決定 |
ヒアリング・証拠収集 | 関係者への事情聴取、資料確認、現地調査など |
報告書の作成 | 事実関係、認定根拠、再発防止策の提言をまとめる |
報告書の扱いについては、公開の有無も含めて経営陣と連携して判断する必要があります。内容に誤りや偏りがないよう、ファクトチェックや複数の委員による合議を重視することが重要です。
まとめ
第三者委員会は、企業の不正やトラブルに対し客観的かつ中立的に対応するための重要な仕組みです。特に中小企業においては、内部だけでの対応が難しいケースや、外部への説明責任が求められる場面で、その有効性が発揮されます。
「うちは中小企業だから…」と設置をためらうのではなく、あらゆる状況に応じて備えておくことが、ガバナンス強化の第一歩です。
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