ITガバナンスとは?定義・強化方法・8つの構成要素をわかりやすく解説

昨今、「ITガバナンス」という言葉を耳にする機会が増えた方も多いでしょう。
しかし、ITガバナンスがどういうものであり、何に役立つのか、などについて知らない方も珍しくないはずです。
そこでこの記事は、ITガバナンスの定義をはじめ、ITガバナンスを構成する要素、強化するためのポイントなどについてわかりやすく解説していきます。
企業としてのIT活用に課題を感じている場合は、是非最後までご覧ください。
ITガバナンスとは?
まずは、ITガバナンスがどういったものなのかについてや、ITガバナンスが求められるようになった背景、コーポレートガバナンスとの違いといった点について解説していきます。
ITガバナンスの概要
ITガバナンスについて、経済産業省は以下のように定義しています。
ITガバナンスとは、組織体のガバナンスの構成要素で、取締役会等がステークホルダーのニーズに基づき、組織体の価値及び組織体への信頼を向上させるために、組織体におけるITシステムの利活用のあるべき姿を示すIT戦略と方針の策定及びその実現のための活動である。 そのためには、データの利活用を含む IT システムの利活用により組織体の価値を向上させるサービスや製品、プロセスを生み出し、改善する組織体の能力(デジタル活用能力)が必要となる。 |
つまりITガバナンスとは、企業のガバナンスの一つであり、企業として経営を行うためにITを活用し、株主や社員などのステークホルダー(利害関係者)のために企業価値を高める取り組みとなります。
そして、成果につながるITガバナンスを構築するためには、上記引用にある通り「デジタル活用能力」を持った人材も必要となります。
優れたITシステムがあればそれでよい、というわけではない点に注意が必要です。
ITガバナンスが求められるようになった背景
ITガバナンスが求められるようになったきっかけは、2002年4月に発生した「みずほ銀行」のシステムトラブルだとされています。
第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行という3つの銀行が合併し、みずほ銀行としてスタートしたのですが、営業初日から「ATMが使用不能」「二重引き落とし」といったトラブルが発生してしまったのです。
その原因は、ITシステムの十分なテストが行われないままサービスをリリースしてしまったことにあります。
この出来事をきっかけに、「ITシステムを利用する際はITガバナンスが重要になる」という意識を持つ企業が増えていきました。
ITガバナンスとコーポレートガバナンスの違い
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、経営に関する管理や監視を行うための仕組みのことです。
コーポレートガバナンスは、1980年代にアメリカで始まった仕組みであり、日本では1990年代から徐々に浸透していきました。
この頃の日本では、企業の経営悪化や不祥事が取り沙汰されることが増えていたことから、世界のリーダーであるアメリカ式の考え方に注目が集まったのです。
ITガバナンスとコーポレートガバナンスの大きな違いは、「管理する対象範囲」です。
コーポレートガバナンスの対象は「企業全体」ですが、ITガバナンスの対象は「ITの利活用」に限られます。
したがって、ITガバナンスは「コーポレートガバナンスの一部」だと言えるでしょう。
ITガバナンスとITマネジメントの違い
ITガバナンスとITマネジメントは混同されやすいのですが、似て非なる言葉です。
ITガバナンスは、経営層が中心となってIT戦略や方針を策定することを指します。
一方でITマネジメントは、ITガバナンスに基づいてITを管理・運用し、経営目標達成に向けて業務を行うことを指します。
企業価値を高めるには、ITガバナンスとITマネジメントを適切に連携させることが必要です。
ITガバナンスに重要な8つの構成要素
ITガバナンスには、以下の8つの構成要素が必要です。
- IT戦略とシステム導入の整合性
- 組織体制の確認と改善
- 業務内容の把握・理解
- コストや費用対効果の算出
- 運用モデルの設計・構築
- ガイドラインやルールの設定
- リスク管理
- システム導入方法の策定
以下で、各要素について詳しく解説します。
IT戦略とシステム導入の整合性
ITシステムを導入する際は、策定したIT戦略との整合性を取れているかどうか確認しましょう。
例えば、「業務効率化のために導入したITシステムのはずが、システムの複雑さから逆に社員たちの手間が増えた」という事態を招いてしまっては意味がありません。
また、いくら高性能なシステムであっても、高度なスキルが求められるとなると教育コストが膨らんでしまう可能性があります。
このような理由から、導入するITシステムを選定する際は、「本当に自社のIT戦略に沿ったものなのか」「経営に対してプラスに働くのか」といった点を精査するようにしてください。
組織体制の確認と改善
まず、「ITに関する意思決定は誰が行うのか」という点は明確にしておきましょう。
誰が責任者で、どの程度の権限があるのかがはっきりしていないと、組織として上手く機能しなくなってしまう恐れがあります。
ITシステムの選定や構築、IT戦略の立案などは、ITに関する深い知見が必要となりますので、適切な人材が実行すべきです。
また、現状の組織体制に問題があるようならば、できるだけ早く改善に取り組みましょう。
具体的な組織体制の改善方法としては、以下のようなものが挙げられます。
- IT専門の部署を設立する
- ITに強い人材を育成する
- 内部監査を実施して問題点を洗い出す
- リスクマネジメント強化のためにセキュリティやコンプライアンスに詳しい人材を担当者としてつける
ITガバナンスを適切に機能させるには、組織体制の整備が欠かせません。
業務内容の把握・理解
ITガバナンスを策定する際には、現場の業務内容を具体的に把握し、理解しておくことも重要です。
どのような業務が行われているのかわからなければ、業務を効率化させるためのITシステムを選定することが難しくなってしまいます。
「ITシステムを導入した結果、逆に生産性が落ちてしまった」ということにならないよう、業務内容はできる限り正確に把握しておきましょう。
また、ITシステムは導入して終わりではありません。
効果測定を行い、本当に業務効率化に役立っているのかを検証し、必要があれば改善すべきです。
なお、数字だけで判断するのではなく、実際にITシステムを利用している社員たちの声を参考にすることも忘れないでください。
コストや費用対効果の算出
ITシステムの導入には、当然コストがかかります。
初期費用だけでなく、ランニングコストも考慮した上で、「ITシステム導入に対する費用対効果」についても検証するようにしてください。
仮に、ITシステムによって業務効率が向上したとしても、費やしたコスト以上の成果がなければ無意味です。
費用対効果が悪いようならば、別のITシステムに入れ替えるという選択肢も視野に入れましょう。
運用モデルの設計・構築
導入したITシステムを長期的に運用するには、システムの質にこだわるだけでなく、トラブルが発生しにくい運用モデルを設計・構築する必要もあります。
したがって、安定的なシステム運用に適したIT人材を教育・採用し、運用担当にするとよいでしょう。
例えば、企業の情報セキュリティを統括する「最高情報セキュリティ責任者(CISO)」や、企業の情報戦略面を統括する「最高情報責任者(CIO)」を設置する、といった方法です。
なお、運用モデルに関しても、定期的に問題がないかチェックを行い、問題や課題があれば改善するようにしてください。
ガイドラインやルールの設定
ITを活用するにあたっては、リスクマネジメントを徹底するためにも、ガイドラインやルールの見直しを実施することも欠かせません。
従来のガイドラインやルールに問題があれば、システム障害や機密情報の漏えいといったリスクに対応できない可能性があります。
また、新たなガイドラインやルールを策定した後は、社員たちに周知することも重要です。
リスク管理
ITシステムの導入には、前述のような障害発生や情報漏えいといったシステム的なリスク以外にも、以下のようなリスクが存在します。
- 運用リスク
- 法務リスク
- 財務リスク
- セキュリティリスク
例えば、ITシステムは常にインターネットに繋がっている状態であることも多いため、悪意のある第三者から攻撃されてしまうというセキュリティリスクがあります。
こうした事態に備え、対処法や損害の予測、対応すべきリスクに対する優先度などを事前に検討しておきましょう。
システム導入方法の策定
導入するITシステムの規模によっては、一度の導入作業で完結するとは限りません。
そういったケースも加味し、以下のような点を意識してシステム導入方法の策定を行ってください。
- ITシステムの調達先
- 導入コストの効率
- 具体的な調達方法
- 導入に関する契約関連
例えば、調達先の選択を誤れば、質の低いITシステムを導入してしまったり、無駄な運用コストがかかってしまったり、といったリスクが発生します。
このような理由から、システム導入方法の策定も、ITガバナンスの構成要素として非常に重要です。
ITガバナンスを強化するポイント
ITガバナンスを強化させるには、以下の3つのポイントを意識するようにしてください。
- 情報セキュリティの強化
- コストの最適化
- 適切なツール・サービス選定
どのような点に気を付けるべきか、以下で解説します。
情報セキュリティの強化
ITガバナンスを強化する場合には、情報セキュリティの強化が必須です。
情報セキュリティ対策が疎かになることで、マルウェアに感染したりサイバー攻撃を受けたりするリスクが高くなってしまいます。
マルウェアに感染してしまえば、システム障害が起こって業務を停止せざるを得なくなることもあります。
また、サイバー攻撃によって機密情報が漏えいすれば、重要なデータが流出してしまうだけでなく、企業としての社会的信用も著しく低下してしまうでしょう。
特に最近のサイバー攻撃は手口が巧妙化しているため、サイバーリスクは上昇しています。
このようなリスクを回避するためにも、「全社的に情報セキュリティに対するリテラシーを高める」などの対策が必要となってきます。
コストの最適化
IT戦略などを含むITガバナンスは、企業価値の向上に大いに役立つものではありますが、いくらでもコストをかけていいというわけではありません。
「ITガバナンスを強化するためだから仕方がない」と考え、本来不必要なコストまでかけているようならば、経営が圧迫されてしまいます。
その結果、ITガバナンスに投じる資金が枯渇してしまう、というようなケースが起こってしまうかもしれません。
したがって、「導入を考えているITシステムは、本当に必要なものなのか」「導入によってどれだけのベネフィットが生まれるのか」といった点を熟慮することは必須です。
その他、一度導入したITシステムに対しても、コスト削減に繋がる方法がないかを模索し続けることも重要です。
例えば、運用を担当する人員が多すぎる場合は、人員を減らすことでコスト削減になります。
また、無駄なIT資産の維持費にコストがかかっているようなケースもあるので、こういった点にも注視すべきでしょう。
ITガバナンスの強化にコストがかかることは避けられないものの、常にコストの最適化について意識しておくことを忘れないでください。
適切なツール・サービス選定
ITガバナンスを強化するためには、自社に適したツールやサービスを選定することも重要です。
- 搭載されている機能
- セキュリティ
- 利便性
- コスト
上記のようなあらゆる面で様々なルール・サービスを比較し、適切なものを選ぶようにすべきです。
選定に失敗すると、セキュリティリスクが高まったり、余計なコストがかかったりといったデメリットが発生する恐れがあります。
これではITガバナンスを強化するどころか、マイナスに働いてしまうケースもあるでしょう。
特に外部のクラウドサービスを利用する場合には、自社でコントロールできない部分が増えますので、データ管理の安全性やプライバシー保護に問題のないサービスを選ぶようにしてください。
まとめ
以上、ITガバナンスの定義や8つの構成要素、ITガバナンスを強化するためのポイントなどについて詳しく解説してきました。
加速度的にDX化が進む今、まだITシステムを導入していない企業にとっては、ITガバナンスは大きな課題だと言えるでしょう。
企業価値を高めるためにも、本記事を参考に適切な形でITガバナンスを構築してください。
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