従業員エンゲージメントを向上させるには?中小企業が取り組むべき施策・事例を徹底解説

しかし実際には、「従業員満足度とはどう違うの?」「何から取り組めばいいかわからない」と悩む経営者や人事担当者も多いのではないでしょうか。

この記事では、従業員エンゲージメントの基本的な意味や重要性を解説したうえで、中小企業でも取り組みやすい具体施策や成功事例、失敗を防ぐポイントまでをご紹介します。

また、以下の記事では「人が辞めない組織の作り方」についてプロの視点から詳しく解説していますので、中小企業の経営者、人事担当者の方はぜひ参考にしてください。

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そもそも「従業員エンゲージメント」とは何か

従業員エンゲージメントとは、従業員が自社の理念や目標に共感し、自発的に貢献しようとする意欲や関係性の深さを指します。単なる満足度とは異なり、「この会社で働き続けたい」「この仕事を通じて価値を生み出したい」といった主体性や共創意識を含む概念です。

近年では、人的資本経営の文脈においても注目されており、離職率や生産性、顧客満足度といった企業パフォーマンスとの相関も明らかになってきました。

特に中小企業においては、大企業のような高待遇やブランド力ではなく、日々の仕事へのやりがいや信頼関係が「働き続けたい理由」になりやすいといえます。

なぜ今、従業員エンゲージメントの向上が重要なのか

人材の定着や活躍を支えるうえで、従業員エンゲージメントの重要性は年々高まっている状況です。 特に中小企業では、採用競争が激化する中で「辞めない」「活躍してくれる」人材をどう育て、支え続けられるかが経営の生命線となりつつあります。

ここでは、従業員エンゲージメント向上が注目される背景を4つの観点から紹介しましょう。

人材の流動化と「辞めやすい時代」の到来

転職市場の活発化、副業解禁、フリーランスの増加などにより、働く人の選択肢は格段に広がっています。

「条件が合わなければすぐに辞める」ことへの心理的ハードルが下がり、特に若年層ではキャリアを柔軟に選び直す風潮が強まっている状況です。こうした環境下で、企業は従業員にとって「働き続けたいと思える場」であり続ける努力が求められています。

働き方の多様化・リモートワークでの孤立リスク

リモートワークやフレックス制度の導入により、働き方の自由度は高まりました。一方で「組織とのつながりの希薄化」や「孤立感」の問題も顕在化しています。

特に中小企業では、物理的な接点の減少が信頼関係や連帯感の構築を難しくする要因となり、従業員の離職やモチベーション低下につながるケースも少なくありません。

キャリア自律が求められる時代に、組織との「共創関係」が鍵になる

「会社が用意するキャリア」から「自分で選ぶキャリア」へのシフトが進む中で、企業と従業員の関係も変化しています。

単なる上下関係ではなく、キャリア形成や価値創出を「ともに考えるパートナー」としての関係性が求められるようになってきました。エンゲージメントの高い従業員ほど、こうした共創関係の中で力を発揮しやすくなるのが特徴です。

人的資本経営・ISO30414などの流れで「見える化」が必須に

人的資本の情報開示義務やISO30414といった国際基準の普及により、従業員エンゲージメントの可視化が求められる時代になっています。

単に「雰囲気がいい」「やりがいがある」といった主観だけではありません。サーベイや定量指標を用いてエンゲージメントを把握・改善していく姿勢が、企業の信頼性や投資価値の向上にもつながっていくのです。

エンゲージメント向上で得られるメリット

従業員エンゲージメントの向上は、単に「職場の雰囲気が良くなる」といった表面的な変化にとどまりません。企業の人材戦略や経営の根幹にも直結する重要な成果をもたらします。

ここでは、中小企業でも実感しやすい代表的なメリットを紹介しましょう。

参考記事:社員のエンゲージメントを高めるには?言葉の意味・測定方法・向上施策など

離職率が低下し、採用・教育コストが削減できる

エンゲージメントの高い従業員は、職場や業務に対する信頼・帰属意識を持ちやすく、転職や離職のリスクが低下します。

特に中小企業では、1人の退職が与えるインパクトが大きく、「採用→教育→定着」までの一連のコストや手間を何度も繰り返す余裕は多くありません。エンゲージメント向上は、そうした無駄な“出血”を止める最も確実な対策のひとつです。

従業員の主体性・モチベーションが向上する

人は「組織から大事にされている」「自分の意見が反映されている」と感じるとき、主体的に行動しようとします。つまりエンゲージメントが高まると、与えられた仕事をただこなすのではなく、自ら考え・提案し・改善する姿勢が育まれるのです。

中小企業のように少数精鋭で多様な業務を担う環境では、個々の主体性がそのまま組織力の強化に直結します。

職場のコミュニケーションが活性化する

エンゲージメントの高い職場では、日々のちょっとした相談・声かけが自然と増え、部門間や上下関係の“壁”が低くなることが魅力です。

特にテレワークや時差出勤など働き方の分散が進む中小企業にとっては、「雑談の代わりになる関係性」が重要な経営資源となります。信頼関係に基づくコミュニケーションは、チームの柔軟性やトラブル時の対応力にもつながる重要な要素です。

顧客満足度・業績向上にもつながる

従業員のエンゲージメントと、顧客対応・サービス品質には強い相関があります。例えば、店舗・受付・営業・カスタマーサポートといった“現場接点”に立つ従業員の表情や応対が、企業の印象を左右するケースは少なくありません。

エンゲージメントが高まると、「もっとお客様に良い体験を届けたい」という意識が自然に生まれ、結果的にリピーターや口コミが増え、業績の安定にも貢献します。

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従業員エンゲージメントを向上させるための代表的な施策

従業員エンゲージメントを高めるための施策は、派手な取り組みでなくても効果的です。重要なのは「継続できる仕組み」にすることです。

一度きりの施策では効果が長続きせず、逆に従業員の期待を裏切るリスクすらあります。以下に紹介する施策は、すべて「社内に定着させる運用の工夫」もあわせて実施することが成功のポイントです。

参考記事:離職率を改善する具体策|平均データ・計算方法から高い会社の特徴まで徹底解説

企業理念・ビジョンを明文化し、全社員に浸透させる

理念やビジョンは、従業員の方向性をそろえる存在です。

ただし、言語化しただけでは意味がありません。日常の会話や評価制度、研修内容に組み込むなどして、“使えるビジョン”として浸透させることが重要です。

経営層やマネージャーが繰り返し言葉にすることで、徐々に社員の中で“自分ごと化”されていきます。

納得性のある人事評価制度を整備する

評価に対する納得感は、エンゲージメントの基盤です。目標設定と評価軸があいまいなままでは、努力と報酬が結びつかず、不満の温床になります。

スモールスタートで評価シートやフィードバックのフォーマットを導入し、毎回振り返りを行うことで、仕組みとして定着しやすくなります。

参考記事:人事評価制度の作り方!不満を解消し「やる気」を引き出す評価シートと書き方

称賛・承認の文化を根づかせる(ピアボーナスなど)

成果だけでなく、プロセスや努力も認め合う文化は、組織の温度を上げます。

例えば「ありがとうを伝えるカード」や「毎週の称賛タイム」など、形式を軽くすることで継続しやすくなります。称賛の習慣化は、制度ではなく“空気”として組織に根づかせるのがポイントです。

1on1や定期面談で上司のフィードバック機会を増やす

対話の場は、従業員が自分の気持ちや課題を言語化するチャンスになります。

特に中小企業では、役員や部長が直属の上司であることも多いため、「雑談でもOK」「3か月に1回でもOK」など、負担にならない頻度とフォーマットで“継続できる1on1”を設計することが大切です。

社内コミュニケーション活性化の仕組みをつくる

部門や世代を超えたコミュニケーションがあると、心理的安全性が生まれやすくなります。

ツールとしてチャットや社内SNSの導入も有効ですが、「誰がどう活用するか」を決めておかないと、すぐに形骸化してしまうので注意しましょう。例えば「朝一投稿を1日1人担当」「月1回の雑談タイムを全社カレンダーに設定」など、続けるためのルール設計が重要です。

働き方改革・ワークライフバランスを支援する

リモートワークやフレックス制度などの柔軟な働き方の導入は、従業員の満足度を高めます。

ただし制度を入れるだけでは不十分です。「制度を使いやすくする雰囲気づくり」や「活用事例の社内共有」が、利用の広がりを左右します。

キャリア形成・スキルアップ支援制度を整備する

外部研修や資格取得支援なども効果的ですが、「本人がどんなキャリアを描きたいか」を上司が理解していないと、支援が的外れになりがちです。

1on1と連動させて「この半年で伸ばしたいスキルを決める」「毎月進捗を確認する」など、継続支援のサイクルをつくることが効果を高めます。

適材適所の人材配置を見直す

エンゲージメントは「仕事のやりがい」と深く関係しています。

「誰が何にやりがいを感じるか」は意外と見落とされがちなポイントです。異動希望を定期的に聞いたり、キャリア面談で希望を引き出したりするなど、対話をベースにした配置見直しを習慣化することが重要になります。

社内イベント・社内報など「つながり」を可視化する

業務外でのつながりは、職場への愛着形成に有効です。ただしイベントの内容や頻度が重すぎると逆効果になることもあります。

月1回のゆるいランチ会や、社員インタビューを載せた社内報など、「小さく・続けやすい仕組み」にすることで定着します。

エンゲージメント委員会など“全社プロジェクト化”する

エンゲージメント施策は人事部だけの仕事ではありません。部署横断の委員会やプロジェクトとして全社で取り組むことで、他人事にならずに全員で改善意識を持てるようになります。

最初は有志メンバーからスタートし、少しずつ担当を広げていくことが現実的な進め方です。

施策実行の前に!現状把握のためのエンゲージメントサーベイとは

従業員エンゲージメントを高める施策を始める前に、現在の組織の状態を可視化することが必要といえます。

そのための基本ツールが「エンゲージメントサーベイ(従業員意識調査)」です。経営者やマネージャーの肌感覚だけに頼らず、定量・定性的なデータで現状を把握し、改善の方向性を見極めることができます。

エンゲージメントサーベイの目的と効果

エンゲージメント向上施策を行う前提として、まず必要なのは現状の見える化です。

従業員がどのような思いで働いているのか、何に満足し、何に不満を感じているのかを、定量・定性的に把握できるのがエンゲージメントサーベイの最大の目的といえます。

具体的な効果は以下の通りです。

効果カテゴリ内容
現場の本音が浮き彫りになる上司に直接言いにくいことや、日々の会話では拾いきれない課題も、匿名性のあるサーベイなら把握しやすくなります。
施策の優先順位が見える化される例えば「上司との関係性が不満」「人事評価への納得感が低い」など、全社で改善すべき領域が定量的に見えてきます。
PDCAの起点となる年に1〜2回の実施を継続することで、施策の効果検証が可能になり、「やりっぱなし」を防ぐ基盤となります。
“声が届いている”という実感を生むサーベイ結果を共有し、実際の改善につなげることで、従業員の信頼感や参加意識も高まります。

ポイントは、やり方だけで終わらせず、どう継続するかまで含めて設計することです。単発で終わらせず、年次の組織開発サイクルの一部として根付かせていくことが、真のエンゲージメント向上につながります。

サーベイ設計のポイントと項目例

効果的なサーベイを実施するには、設計時点で“活用される前提”を持つことが重要です。アンケートを回収すること自体が目的になってしまうと、次回以降の回答率低下や形骸化につながります。

設計時の主なポイントは以下です。

設計観点内容
項目のバランス会社・上司・職場環境・業務内容など、エンゲージメント要因を広くカバーする
5分以内で完了できる量項目数が多すぎると離脱や適当回答が増えるため、設問は20問前後に絞る
匿名性の担保氏名・部署が特定されないように設計し、安心して本音を書けるようにする
フリーコメントの設置数値だけでは分からない背景や具体的な提案を拾うために自由記述欄を設ける
定点観測しやすい形式設問の構成・尺度(5段階評価など)を毎回同じにすることで、比較しやすくする

以下はよくある設問のカテゴリと例です。

カテゴリ設問例
経営への信頼感「会社の方向性に納得している」
上司との関係性「上司は私の意見に耳を傾けてくれる」
仕事のやりがい「自分の仕事が会社や顧客の役に立っていると感じる」
成長・学び「スキルを高める機会があると感じる」
働きやすさ「業務量・働き方に無理がないと感じる」
人間関係・心理的安全性「チーム内で自由に意見を言える雰囲気がある」
評価制度「成果や努力が正しく評価されていると思う」
帰属意識「この会社で長く働きたいと思う」

なお、記述式の回答を設けることも重要です。これにより従業員一人ひとりの率直な声や職場への期待を把握できれば、次の施策の質や納得感をより高めることができます。

よくあるエンゲージメント向上施策の失敗例と対策ポイント

エンゲージメント向上の取り組みは、多くの企業で関心が高まっていますが、形だけの導入で終わってしまい、逆効果になっているケースも少なくありません。

ここでは、よくある失敗例とその対策を紹介します。単なる「やり方」ではなく、「継続的に取り組める仕組みづくり」に目を向けることがポイントです。

トップダウンで決めただけの施策は現場に響かない

経営層主導で制度や施策を導入しても、現場の実情に合っていなければ社員の心には届きません。「とりあえず福利厚生を充実させた」「理念を掲げただけ」では、社員の関与も限定的になります。

対策のポイントは、事前に現場の声をヒアリングし、小さく試しながら改善していくボトムアップ型のアプローチを取り入れることです。例えば、現場メンバーも含めたワーキンググループを立ち上げることで、現実的かつ納得感のある施策に繋がります。

サーベイを取って満足して終わるパターン

エンゲージメントサーベイを導入しただけで満足してしまい、肝心の改善アクションにつながっていない企業も多く見られるのが現状です。社員から見れば「どうせ改善されない」と受け取られ、逆に信頼を損なうリスクもあります。

このような事態を避けるには、結果の共有とアクションへの展開を必ずセットで行うことが重要です。「全社傾向」だけでなく「部署別の傾向」も分析し、改善テーマを明示しましょう。

その上で、次回のサーベイ時に振り返れるような体制を整えると、継続的な改善サイクルが回ります。

「働きやすさ」ばかりに偏り、「やりがい」を見失う

フレックスやリモート制度、福利厚生の拡充など、“働きやすさ”の施策が充実しても、それだけでは従業員のエンゲージメントは高まりません。特に若手・中堅層にとっては、「成長実感」や「挑戦できる環境」がやりがいの源泉になることも多く、制度設計のバランスが問われます。

対策としては、「働きやすさ」と「働きがい」の両立を意識することが必要です。例えば、社内公募制度、キャリア面談、スキルアップ支援など、成長や貢献を実感できる仕組みも並行して整備していくべきでしょう。

継続できる仕組み化と巻き込み方が成功のカギ

最初は話題になった取り組みも、数ヶ月後には運用が形骸化し、自然消滅してしまうことがあります。その原因は、担当者の属人化や経営層の優先度低下、組織としての定着の弱さなどです。

成功のためには、担当者任せにせず、現場の巻き込みと仕組み化の両面を意識することが不可欠です。

例えば、エンゲージメント委員会を設置して定期的に振り返る仕組みをつくったり、部門ごとのアクションプランを策定したりしましょう。これにより、施策が「点」ではなく「線」として続いていきます。

まとめ

エンゲージメント向上は、単なる制度の導入や一時的な施策では成果につながりません。現場の声を取り入れた設計、サーベイ結果の活用、働きがいと働きやすさのバランス、そして継続的な運用体制が揃ってこそ、組織に根づく取り組みになります。

「エンゲージメントは一朝一夕で高まるものではない」ことを前提にしましょう。そのうえで現場との対話を続けながら小さな改善を積み重ねることが、着実な成果につながります。

【チェックリスト付き】労務・定着・エンゲージメントの 3本柱でつくる 人が辞めない組織


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