SDGsウォッシュによって企業が受けるダメージは甚大【事例付き】

企業経営には様々な前提条件がありますが、中でも「誠実であること」は特に重要です。
しかし残念ながら、短期間での利益拡大やブランドイメージ向上を優先するあまり、「誠実さを欠いた経営」に走ってしまうケースも存在します。
その一つが、SDGsウォッシュです。
SDGsウォッシュによって一時的に企業の評価が上がろうとも、決して長くは続きません。
いつかボロが出てしまい、大きなダメージとして跳ね返ってくるのです。
この記事では、安易にSDGsウォッシュに傾倒することでどのような不利益が発生するのか、実際の事例はどのようなものがあるか、SDGsウォッシュを回避するための方法は何かについて詳しく解説していきます。
目次
そもそもSDGsウォッシュとは?
SDGs(エスディージーズ)とは、世界が抱える多くの課題を解決するための施策・目標のことです。
たとえば、「環境保護」「ジェンダー平等」「住み続けられるまちづくり」などが挙げられます。
企業として、これらの取り組みを実施していることを公表すれば評価は上がります。
しかし中には、以下に挙げるような「実態のない形だけの取り組み」を行っている企業もあるのです。
- 何もやっていないのに、SDGsに取り組んでいるように見せかける
- 多少は取り組んでいるものの、実態以上のことをやっているようにアピールする
- SDGsの取り組みに関する不都合な事実は公表せず、自社にとって都合の良い情報のみを公表している
こうした行為は、「SDGsウォッシュ」と見なされます。
SDGsの取り組みは、適切に進めることができれば企業価値の向上など多くのメリットがあるものの、進め方を間違えると逆に企業イメージを損ないかねません。
SDGsの取り組みを始める際は、実態に即した運営をする必要があるのです。
SDGsウォッシュによって企業が被る不利益
世間から「SDGsウォッシュだ」と判断されてしまえば、企業として様々な不利益を被ることになります。
具体的には、以下のような不利益です。
ステークホルダーからの信頼喪失
SDGsウォッシュだと思われるような施策を行うと、株主や投資家といったステークホルダーからの信頼を失う可能性が高くなります。
企業を成長させるには、企業へ投資してくれる人たちの存在が不可欠です。
しかし、SDGsウォッシュのような誠実さを欠く経営を行っているようでは、「この企業にならお金を投じてもいい」とは到底思ってもらえなくなるかもしれません。
最近では、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資)が注目を集めていることもあり、「SDGsに取り組んでいる」という理由で投資先を判断する投資家も増えています。
こういった層からの支持を失うのは、経営的に大きなダメージとなります。
従業員のモチベーション低下
形だけのSDGsに取り組むことで、企業にとっての財産である「従業員のやる気」を奪ってしまうこともあります。
従業員の中には、環境やジェンダーの問題などに対して高い意識を持った人も少なくありません。
そうした従業員が、「自社がそういう取り組みを始めたのだ」と認識し、より一層業務に対して誇りを持てたのに、「蓋を開けてみればSDGsウォッシュだった」と知ったらどうなるでしょうか?
当然、業務へのモチベーションは下がるはずです。
従業員が業務に対して情熱を持てなくなれば、「業務効率の低下」や「優秀な人材の離職」といったことが相次ぎ、業績への悪影響は避けられなくなります。
消費者からのイメージ悪化
B to Cでビジネスを展開している企業の場合、SDGsウォッシュを行っていたことが広く認知されてしまうと、一部の消費者から不買運動が起こる可能性も否定できません。
特に現代では、SNSが普及したことにより、SDGsウォッシュのようなネガティブな情報は一気に拡散しやすい状況です。
仮にそのようなことが起これば、企業として致命的なダメージとなってしまうでしょう。
長年かけて築き上げてきたブランドイメージが一瞬で失われてしまうというリスクもあるため、SDGsウォッシュに該当するような企業活動は絶対に回避すべきです。
SDGsウォッシュを避けるために企業が意識すべきこと
SDGsウォッシュは、「意図的に行われるケース」と「知識や配慮が不足していたことで結果的にSDGsウォッシュとなっていたケース」があります。
前者は論外ですが、後者のように、「真面目に取り組んでいたつもりでも批判を受けてしまう」ということもあり得るのです。
そういった事態を招かないよう、以下の項目で解説することを強く意識し、企業としての守備力を高めてください。
SDGsについての正しい知識を学ぶ
SDGsに取り組む際の大前提として、経営者や担当者は、SDGsに関する理解を徹底的に深める必要があります。
SDGsは多種多様な分野に広がっており、「17の目標」と「169のターゲット」から構成されているため、通り一遍の調査では全体像を把握できません。
したがって、学習に費やすリソースを十分に確保し、中途半端な取り組みにならないよう、十分な学習体制を整えるようにしてください。
取り組むべき優先課題を決める
前述の通り、SDGsの取り組みには「17の目標」があります。
その中から、「自社にマッチした目標」を吟味することも重要です。
例えば、SDGsの目標「6」は、「安全な水とトイレを世界中に」というものです。
しかし、水道やトイレなどに関連した事業を行っていない場合は、こちらの目標にコミットするのは難しいでしょう。
支援できたとしても、資金提供程度になるはずです。
そうではなく、17の目標の中から「自社が得意とする分野」を取捨選択し、課題として取り組むことで、SDGsウォッシュとなることなく社会貢献に繋がる可能性が高くなります。
パートナー企業との連携を強化する
SDGsの達成には、パートナー企業との連携が不可欠と言えます。
企業単体でSDGsに関する情報を収集しても不十分なことがあり、結果的に「SDGsウォッシュではないか」という疑念を持たれるような事業活動になる可能性があるからです。
こういったリスクを回避するためにも、利害関係のある企業とパートナーシップを結び、情報共有を徹底しながら共同してSDGsを進めていくことが重要となります。
SDGsウォッシュに走ったことで失敗した事例
ここでは、過去に「SDGsウォッシュだ」という批判を受けた、国内外の事例を紹介していきます。
日本企業での事例
SDGsウォッシュに関する日本企業の代表的な例として、大手アパレル企業の事例が挙げられます。
ファストファッションのリーディングカンパニーでしたが、2020年に中国の新疆ウイグル自治区において「住民に強制労働をさせている」という指摘がなされました。
この大手アパレル企業だけでなく、他にも12の日本企業がこの地区の工場を下請けとして使っていたのですが、その中に大手アパレル企業も含まれていたため、疑惑を持たれてしまったのです。
特にこの大手アパレル企業は、人権や労働環境について配慮すべきという発信を積極的に行っていたため、「実態とのズレがあるのではないか」というネガティブな印象を世間に与えることなってしまいました。
海外企業での事例
日本でも認知度の高いコーヒーブランドやチョコレート菓子などを手掛ける、スイスに本社を置く世界的な食品会社も、「SDGsウォッシュに該当する」という批判を受けています。
2010年に「森林伐採によって環境破壊を促進してしまうパーム油業者との取引をやめる」と宣言したものの、2018年になってもパーム油業者をサプライチェーンの中に組み込んでいました。
「資源の持続可能性」を考慮すると、パーム油の使用は減少させるべきなので、宣言通りに実行されていればSDGsの理念に則っていたのですが、形だけの宣言だったと判断されてしまったのです。
経営において「守ること」の重要性
経営は、「常に攻めの姿勢でいなければ立ち行かない」と考えている経営者の方もいるかもしれません。
しかし、変化の激しい今の時代はそうではなく、「守り」の方が重要なのです。
それは、SDGsにおいても同様です。
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)とは,2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標です。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。 |
出典)外務省「SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform」
変に近道を探すのではなく、上記のようなSDGsの理念の本質を理解し、それに沿って忠実に実行すべきだということを忘れてはいけません。
経営は、急成長を目指して危うい攻め方をするのではなく、堅実に成長していくための正しい守り方を強く意識する時代に突入しています。
SDGsの取り組みは、企業として成果を得るまでには時間がかかります。
だからといって「SDGsウォッシュである」と批判されかねない間違えた攻め方をするのは愚行であると理解すべきです。
まとめ
SDGsへの取り組みは企業価値向上に繋がりますが、「自社の業種や状況を考慮すると取り組みが難しい」ということもあり得るでしょう。
そういった場合に無理に手を出すと、結果的にSDGsウォッシュとなってしまう可能性があります。
であれば、「あえて見送る」という選択も企業経営にとって有効な一手です。
繰り返しになりますが、経営は「攻めればいい」というわけではありません。
「守りの重要性」を理解し、押し引きの判断をすべきです。
もちろん、SDGsにおける17個の目標のうち、自社が取り組めそうなものがあれば、慎重な検討を重ねた上で是非積極的な取り組みを実施してください。
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