ブライト500・4連覇の介護事業者に聞く
「健康経営」企業理念を“リアル”に変える組織の作り方

高齢化社会に伴い、2026年には約250万人の職員が必要になる(2022年から25万人増)とされる介護業界。人手不足と離職率の高さに各社が悩まされるなか、経産省が設計する「健康経営優良法人(中小規模法人部門)ブライト500」に4年連続で認定され、高い従業員満足度を維持している事業者が、リカバリータイムズ(神奈川県横浜市)です。

本記事では、代表の石田氏と健康経営担当の石井氏にインタビュー。「職場環境改善はどこから手を付ければいいのか」「どうすれば社員が一丸となるのか」……そんな悩みを持つ中小企業の経営者と現場担当者にとって、組織の土台を再構築するための具体的なヒントを聞きました。

■プロフィール

株式会社リカバリータイムズ
代表取締役 石田輝樹
健康経営担当 石井 宏和 

2013年設立。神奈川県横浜市エリアを中心に、訪問看護やデイサービス、市認可保育園など10施設を運営。80名規模の従業員数の健康維持のための毎朝体操・睡眠障害チェック・コミュニケーション設計などの多種多様な施策を展開。「健康経営優良法人認定制度」(経産省)の中小規模法人部門「ブライト500」に4年連続で認定されている。

社員のために保育園設立 初手は「辞める理由」を消すこと

リカバリータイムズ  石田輝樹 代表

―― まずは、御社・リカバリータイムズが「ブライト500」を4年連続認定されるに至った背景を教えてください。

リカバリータイムズ  石田輝樹 代表 

 きっかけは、私たちが2013年から、退院後もリハビリを続けて自分らしい生活をしてもらえるための「リハビリ型デイサービス」を始めたことです。食事や入浴の介助より、運動やリハビリテーションによる身体機能の維持・向上と生活しやすさに特化した日帰りの介護サービスのことですね。

そこから、例えば脳卒中と呼ばれる症状の方々にはもっと手厚く丁寧な介護が必要になります。デイサービスに来れなくなった方には、ご自宅にお伺いしてケアとリハビリを行う「訪問看護」なども開始していきました。

—— 関連する福祉サービスのバリエーションが広がってきたと。

石田代表 その過程で勤務時間なども幅広く柔軟にしていくなかで、従業員サイドの課題が表面化しました。リカバリータイムズで働きたい想いはあるものの、勤務時間中に子育ての預け先がないから辞めざるを得ない、という訴えが出るようになった。

同時期に、私自身も子どもが保育園に入る年齢になり、保護者が行う準備などの「保活」と経営の両立に苦労しました。家族で力を合わせて働いているのに、家族が足かせになる......何かがおかしいぞ、と。そこで、勢い余って認可外で社員が入れるよう保育園を自社で作ってしまったんです。それが、のちに健康経営に繋がる組織づくりの発端になります。

―― 社員のワークライフバランス支援のために認可外保育園に進出するとは、強力な福利厚生施策です。

石田代表 そもそも当社のような介護事業は人が人を支えるサービスです。ならば従業員とも支え合うべき。企業には世代も性別も様々な従業員が集まっています。そのライフステージに合わせて働く場所や生活の形が変わるのですから、環境も変化しなくてはと。

「健康経営」は後付けでいい すでに取り組んでいる施策でハマる部分が必ずある

リカバリータイムズ  健康経営担当 石井 宏和 さん

―― これまでのお話を聞くと、「健康経営企業」という組織像を目指していたわけではないようにも思えます。

健康経営担当 石井さん  その感覚が正しいと思います。私は2018年入社なのですが、その当時は1on1面談の仕組みはすでにありましたが、「健康経営」というワードは使っていませんでした。

石田代表 3ヶ月に一回、一対一で面談していました。ただし現在のように評価シートもなく、とりあえず「話を聞く」ということだけをやっていましたね。当時は店舗数も少なく、社員数も30数人だったので、一人ひとりとちゃんと話ができる規模だったんです。

―― 認可保育園への進出も含め、ブライト500などの認証取得を意識してはいなかったと。

健康経営担当 石井さん ええ。ゼロから健康経営の組織を目指したというよりは、社員のために考えて実行してきた仕組みを、健康経営というパッケージに当てはめる形で理解していきました。当社の目指す姿と親和性が高いと感じたのを覚えています。

石田代表 同時に足りない部分も明確になった。中小企業だからできることは限られていますが、それでも取り組んでいる証明になる。もちろんブランディングとしてもメリットが大きいと感じました。

コミュニケーションは“深さ”より”頻度”  防ぐべきは社員の「孤独」

―― 健康経営において重要な社員コミュニケーションのあり方については、どう考えますか。

石田代表 職種ごと、役職ごと、あるいは毎週のミーティングやイベントなど、連携する場所を多く作ったほうが組織として強くなると考えています。拠点が分散しても社員同士で共有できる社内SNSも活用してきました。

しかし、はじめからその方針だったわけではありません。先ほども言ったように、1on1でじっくり聞くこと、つまりはコミュニケーションの深さが大事だと考えていました。しかし、どこかで「頻度」のほうが重要ではないか、と切り替わったんです。

―― なぜ頻度に注目を?

石田代表 私と一人ひとりの縦の繋がりも大事ですが、組織には横の繋がりが必要です。例えば、会社が大事にしたい理念で繋がり合い、大切にしたい縦軸を共有しあうこと。これはじっくりと縦に掘り下げていきます。でもそれだけでは足りません。「では実際、どうするのか?」については、現場での繋がり合い、仕事の実例とコミュニケーションの頻度で作っていくわけです。

健康経営担当 石井さん 大事なのは、一人にならない流れを作ることです。毎日の仕事の中で「私一人だけがこんなに辛いの?」という気持ちになるかもしれない。そのときに物理的な部分だけでなく感情的なところで繋がる人がたくさんいる状態を作るべきです。

石田代表 私が苦手でも、健康経営担当の石井さんとなら話せる、ということが絶対にあるし、もちろんその逆もあります。結果として、それが健康経営だよね、という話になっていったんです。

「16時退勤」は実現できるか? 地道&大胆な施策の積み重ね 

―― 石井さんが担当として、具体的に進めている施策についても教えてください。

健康経営担当 石井さん まずは半年に一回の社員アンケート調査を始めました。物理的・精神的な負担や不安を集めるためです。その結果として介護現場も入力作業が多く、深刻な肩こりや目の疲れがあることがわかりました。そこで朝のストレッチを導入するなどの施策を作りました。そのほかにも最近は、「16時退勤をテレワークで実現できないだろうか?」なんて話しているんです。

―― かなりインパクトがある施策ですが、実現できるのですか?

石田代表 最初は「また代表が無茶なことを言ってる」という空気ですよ(笑)。ですのでまずは「なぜ、そう考えたのか?」を説明することからです。残業時間が月に80時間以上を超えると、上司は余裕がなくなって無意識にハラスメントをする、というデータがある。だから会社のためにも、どうしたら協力しあって勤務時間を短くできるかを話し合う場を持ちます。

健康経営担当 石井さん そのうえで組織のほうからアップデートしていきます。介護記録を手入力から自動音声入力に切り替えるシステムの導入や、拠点間の情報共有を社内SNSで一元化し、会議時間を短縮するといったDXによる業務効率化がセットになります。

新しい職場環境は、すぐには浸透しません。「このシステムで、記録業務に20分かかっていたのが1分で終わる」と事実を示し、少しずつ「確かに良いほうに変わっている」という理解者を増やしていくことです。2割が味方になってくれたあたりで、組織は大きく動いていくなと感じています。

中小企業にとっては「人」こそ資源 企業理念を浸透させる方法

―― 最後に、健康経営を目指す中小企業の経営者と担当者にメッセージを。

石田代表 経営者の方には、「人こそ自社の資源であり、そして社会資源である」という前提があると考えています。まずはそこから。

そして何より、経営理念と行動指針を、具体例を通じて浸透させること。中小企業が社員に活躍してもらうためには本当に長く時間がかかり、忍耐も必要だと思っています。

当社の経営理念は「わたしたちはあなたへ」「価値・喜び・安心を」提供しますというものです。最初はピンとこなかった社員も、働くなかでよくわかるようになったという声も聞きます。

―― 時間をかけて取り組んでいかなくてはなりませんね。

石田代表 「健康経営」そのものを理由に入職する人は少ないかもしれません。しかし、この枠組みのなかに「人が辞めてしまう」理由が入っているかもよ? と問いかけたいですね。そのチェックの土台として「健康経営」があるかもしれません。

健康経営担当 石井さん 自分たちが働き続けたいと思える場を作ることが、企業の責任だと思います。ただし担当者の方は、いつでも完璧である必要はありません。ただ、打ち手を止めず、社員の話を聞きたいというスタンスを持ち続けることが大事です。

ふと気付いたときに「あれ、なんか良くなってる」と感じるような、そんな実感を積み重ねていってください。

■取材協力
株式会社リカバリータイムズ
https://recoverytimez.com

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