学生アルバイトを雇用している企業必見!103万円の壁撤廃で学生の扱いはどう変わる?

103万円の壁が撤廃されることで、アルバイトをしている学生の状況も大きく変わります。
もちろん企業側も、「何がどう変わったのか」について把握しておかなければなりません。
しかし、103万円の壁が撤廃されることは知っていても、具体的な影響や取るべき対策についてよくわからないという方もいるでしょう。
そこでこの記事では、学生アルバイトを多く雇用している企業が悩みがちな点や解決策について詳しく解説していきます。
目次
学生アルバイトに立ちはだかる年収の壁
年収の壁はいくつも存在します。
その中でアルバイトをしている学生が影響を受ける壁は、基本的に以下の4種類です。
- 100万円の壁
- 103万円の壁
- 106万円の壁
- 130万円の壁
それぞれ、詳しく解説していきます。
100万円の壁
100万円の壁とは、住民税の支払いが発生する年収のことです。
自治体によっては、課税ラインが「93万円超」「97万円超」となっていることもあります。
住民税を払うことになっても、親の扶養からは外れないことから、世帯の年収にはほとんど影響を及ぼしません。
100万円を多少超える程度の年収ならば、住民税の支払い額も年間1万円弱であるため、100万円の壁についてはあまり意識しないという学生も多いでしょう。
参考)厚生労働省「年収の壁について知ろう」
103万円の壁
103万円の壁とは、所得税の支払いが発生するうえ、親の扶養からも外れる年収のことです。
後述する「勤労学生控除」を受けている学生は、年収103万円を超えても所得税がかからないものの、扶養控除の対象外となってしまうことから、世帯の収入に影響が出てしまいます。
しかし103万円の壁については、2024年12月に閣議決定した「改正税制大綱」により、123万円まで引き上げられることになっています。
参考)厚生労働省「年収の壁について知ろう」
106万円の壁
106万円の壁とは、特定の条件を満たした場合に社会保険への加入義務が発生する年収のことです。
基本的に、学生は106万円の壁の対象とはなりません。
しかし、休学中の学生や、夜間の大学に通っている学生など、一部の条件に該当する学生は106万円の壁の対象となり、社会保険に加入する必要があります。
なお、106万円の壁は2026年10月を目途に撤廃される予定です。
参考)厚生労働省「年収の壁について知ろう」
130万円の壁
130万円の壁とは、社会保険への加入が義務付けられる年収のことです。
学生の場合は、年収130万円を超えた時点で親の社会保険の扶養に入れなくなるため、社会保険料を自分で支払う必要があります。
社会保険料は労使折半とはいえ、負担率が高いことから、130万円の壁を超えないようにシフトを調整する学生アルバイトが数多く存在します。
参考)厚生労働省「年収の壁について知ろう」
学生の税金に関する主な控除
学生関連の税金には、「勤労学生控除」「特定扶養控除」という控除が用意されています。
それぞれの控除について、以下の項目で解説していきます。
勤労学生控除
納税者自身が勤労学生であるときは、一定の金額の所得控除を受けることができます。これを勤労学生控除といいます。 |
出典)国税庁「No.1175 勤労学生控除」
勤労学生控除とは、学生がアルバイトなどで得た所得に対して一定の所得控除を受けることができる制度です。
具体的には、以下の条件を満たす場合に適用されます。
- アルバイトやパートなどで得た所得があること
- 合計所得金額が75万円以下であること(給与所得以外の所得が10万円以下)
- 学校教育法に規定される学校などに在籍していること
勤労学生控除によって、所得金額から27万円が控除されるため、所得税や住民税の負担が減ります。
その結果「手取りが増える」という点が、勤労学生控除を受ける最大のメリットです。
特定扶養控除
特定扶養控除は、学生ではなく、学生を扶養する親が受けられる恩恵です。
まず扶養控除とは、以下の条件に該当する親族がいる場合に受けられる控除です。
(1)配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族をいいます。)または都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)や市町村長から養護を委託された老人であること。 (2)納税者と生計を一にしていること。 (3)年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)であること。 (給与のみの場合は給与収入が103万円以下) (4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないことまたは白色申告者の事業専従者でないこと。 |
出典)国税庁「No.1180 扶養控除」
扶養控除に該当する親族がいる場合、世帯主は所得税38万円・住民税33万円の控除を受けることができるため、支払う所得税や住民税を減らすことができます。
さらに、以下の「特定扶養親族」に該当する場合は、特定扶養控除として所得税63万円・住民税45万円の控除を受けることが可能です。
控除対象扶養親族のうち、平成13年1月2日から平成17年1月1日までの間に生まれた方(年齢が19歳以上23歳未満の方) |
出典)国税庁「◆特定扶養親族」
しかし、子供の年収が103万円を超えると扶養控除・特定扶養控除を受けられなくなってしまいます。
学生本人に関わるものではないものの、世帯の収入に大きく影響を及ぼすことから、扶養控除や特定扶養控除を受けられるラインについて意識している学生も多いはずです。
103万円の壁廃止に伴い「特定親族特別控除の新設」が実施される
従来までは、子供が「103万円の壁」を超える年収を得ることで、親が特定扶養控除を受けられなくなっていました。
そのため、アルバイトをしている学生は働き控えをする傾向にあったことから、学生アルバイトを多く雇用していた中小企業にとっては悩ましい問題だったのではないでしょうか。
そうした悩みを抱えていた中小企業にとって朗報となるのが、「特定親族特別控除(仮称)の新設」です。
103万円の壁廃止に伴い、扶養に関する壁が大きく変わる予定なのです。
「特定親族特別控除(仮称)」の新設により、今まで子供の年収が103万円を超えると適用外になっていた特定扶養控除が、150万円までならば適用されることになりました。
さらに、子供の年収が150万円を超えても、年収188万円までは段階的に控除されることで、親の負担が軽減されます。
親への影響を気にして労働時間を調整している学生も多いため、103万円の壁廃止に伴うこうした変更は、学生アルバイトの働き控え解消に繋がります。
「103万円の壁撤廃」と「特定親族特別控除の創設」に際して中小企業が留意すべきこと
大企業に比べ、学生をアルバイトとして雇用していることが多い中小企業にとって、103万円の壁撤廃に伴うこの度の改正については敏感になるべきです。
この項目では、年収の壁に関する今回の変更について、中小企業が留意すべき点を詳しく解説していきます。
学生アルバイトに周知する
最も大事なのは、アルバイトとして雇用している学生に対し、103万円の壁撤廃に付随する税制上の変更点を徹底的に周知することです。
103万円の壁が引き上げられたというニュースを知っている学生は多くとも、その詳細を把握している人は少ないでしょう。
具体的に、「どれくらいまで働いても親に迷惑がかからないのか」「自分の年収がいくらになると手取りが減るのか」という点について知りたい学生は多いはずです。
そういった要望に応えるためにも、何らかの形で学生を中心とした従業員に対して徹底周知を実行するようにしてください。
人件費の増加に備える
大企業ほどの労働環境を用意しづらい中小企業は、人手不足に苦しむことも多いです。
しかし、103万円の壁撤廃や特定親族特別控除の創設により、これまでに比べて多く働けることを理解した既存の学生アルバイトたちは、より多く働いて収入を増やそうと考えるはずです。
その結果、人手不足の問題は大きく改善することでしょう。
ただ、中小企業は大企業ほど潤沢な資金があるわけではありません。
そのため、早い段階から資金計画を立て、増加する人件費に対応できるようにしておく必要があります。
業務効率化を図って生産性を向上させたり、無駄なコストをカットしたり、といった施策を実行し、人件費の増加に備えておくべきです。
給与の計算システムを見直す
従業員の給与計算について、ITシステムを導入している場合は、103万円の壁廃止によって変更となる部分の対応を忘れないようにしてください。
所得税の課税ラインが変わることで手取りも変更となりますし、扶養に関する計算を行っているシステムならば、その点についての改修も必要になります。
したがって、システムを管理しているベンダーに、年収の壁変更に際して万全の対応をしているのか確認しておくべきです。
そのうえで、源泉徴収や年末調整といった処理が正確に行われるかのテストを、自社でも入念に実施しておくようにしましょう。
まとめ
103万円の壁が廃止されることで、アルバイトをしている学生の労働力上昇が期待できます。
とはいえ、変更された制度の内容を深く理解していない学生も多いので、企業側が主導して学生アルバイトのリテラシーを高めていく必要があります。
手間はかかるものの、結果として労働力の向上に繋がりますので、人手不足に悩んでいる中小企業は積極的に周知していきましょう。
関連記事
-
中小企業が知っておきたい労働組合法をわかりやすく解説!気になる条文も紹介
労働組合法は、労働者の権利を守り、使用者との健全な労使関係を築くために重要な法律です。しかし、中小企業においては、労働組合法に関する知識不足や誤解から、意図せず違反してしまうケースも少なくありません。
労働組合法違反は、法的リスクだけでなく、企業の社会的信用や従業員との関係にも悪影響を及ぼす可能性があります。
この記事では労働組合法の基本から、とくに注意すべき条文、不当労働行為の具体例、違反した場合のリスク、そして違反を防ぐための対策について、わかりやすく解説します。
-
【企業向け】退職届の書き方は?受理していいか正しく判断しよう
従業員の退職は、企業にとって避けて通れない人事労務の一つです。「退職届の書き方はこれで良いのか?」「この退職届は受理して問題ないのか?」といった疑問は、企業にとって悩ましい問題です。不適切な対応は、後のトラブルに発展しかねません。
この記事では、企業側が知っておくべき退職届の基本的な知識から、正しい書き方の指導ポイント、そして提出された退職届を受理する際の適切な判断基準までを網羅的に解説します。
また、従業員の退職をさけるためにはさまざまな対策が必要ですが、対策のひとつに残業対策があります。無理な残業のさせ過ぎは退職につながります。企業としてはできるだけ残業を避けたいところですが、そうはいっても極端な残業の削減は業務が立ち行かなくなることもあるでしょう。
-
労働条件とは?労働条件明示の義務と記載すべき内容を解説
中小企業の経営者や人事担当者にとって、「労働条件」の理解は避けて通れない重要なテーマです。従業員とのトラブルを防ぐためにも適切な対応が求められます。
この記事では、中小企業が知っておくべき労働条件の基本と、最新の法改正に対応するための実務ポイントをわかりやすく解説します。従業員との信頼関係を築くためにも、正しい情報を押さえておきましょう。
-
退職代行サービスを使われたら企業は拒否できる?対処法も解説
近年、働き方の多様化とともに、退職代行サービスの利用が一般化しつつあります。しかし、その実態や企業側の適切な対応について、十分に理解している経営者はまだ少ないのが現状です。
この記事では、まず「退職代行とは何か」という基本的な疑問から掘り下げ、企業側が退職代行を拒否できるのかという法的な側面を解説します。
さらに、従業員が退職代行を利用する背景にある理由を探り、実際に退職代行を使われた際の具体的な対処法、退職代行を使われないための予防策までを網羅的にご紹介します。
-
就業規則変更届とは?書き方、フォーマットなどを知って報告漏れを回避しよう!
就業規則は、会社と従業員間の労働条件を定める重要なルールブックです。
労働基準法に基づき、常時10人以上の労働者を使用する事業場は作成・届出が義務付けられており、内容を変更した場合も変更届を所轄の労働基準監督署に提出する必要があります。
とくに中小企業においては、法改正への対応や多様化する働き方への適応のため、就業規則の見直しが必要となる場面が増えているのが現状です。
しかし、変更手続きにはいくつかのステップや必要書類があり、正しくおこなわないと法的な問題が生じる可能性もあります。
この記事では、就業規則変更届の基本から、提出先や提出方法(電子申請含む)、そして手続き全体のステップまでをわかりやすく解説し、報告漏れを防ぐための情報を紹介します。