特許法とは?特許取得の要件やメリット、出願の流れをわかりやすく解説

自社で開発した画期的な技術やアイデアを守るのが特許法の役割です。
この記事では、特許法の基本的な考え方や、特許を取得するための具体的な要件、そして特許を持つことで得られるメリットをわかりやすく解説します。
また、万が一、他社の特許権を侵害してしまった場合、あるいは自社の特許権が侵害された場合の対策についても解説するので、自社の貴重な技術やアイデアを守り、ビジネスを有利に進めるためにもぜひ最後までご覧ください。
特許法とは?
特許法とは、新しい技術的アイデア、すなわち「発明」を法的に保護するための法律です。
第一条 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。 |
出典)e-Gov 法令検索「特許法」
この法律の目的は、発明者に対して一定期間、その発明を独占的に利用できる権利(特許権)を与えることにあります。
特許権があることで、発明者は安心して多額の投資を伴う技術開発を進められ、その革新的な成果を社会に公開しやすくなるのです。
特許と著作権・商標との違い
特許権、著作権、そして商標権は、いずれも大切な知的財産を守るための権利ですが、保護する対象が異なります。
権利の種類 | 守る対象 |
特許権 | 技術的なアイデア(発明) 例:装置の仕組み、製造方法など |
著作権 | 文芸、学術、美術、音楽の範囲に属する「創作的な表現」 例:音楽、ソフトウェアなど |
商標権 | 商品やサービスに使用する「名称やマーク(ブランド)」 |
権利の取得方法にも違いがあります。特許権と商標権は、特許庁への出願と審査を経て登録されることで権利が発生しますが、著作権は、創作が完成した時点で特別な手続きなく発生します。
自社の守りたいものが何かを見極め、適切な権利で保護を図ることが重要です。
参考)INPIT知財総合支援窓口「【特許制度の概要】「発明」と「特許」」
参考)文化庁「著作権テキスト -令和6年度版」p.5
参考)政府広報オンライン「知っておかなきゃ、商標のこと!商標を分かりやすく解説!」
参考)文化庁「著作権登録制度」
特許法の対象になる技術
特許法によって保護される対象は「発明」です。
特許法第2条第1項によると、「発明」とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。
自然法則に基づき、具体的で再現可能な新しい技術的アイデアであり、かつ産業として利用できる可能性のあるものが、特許法の対象となる技術です。
参考)特許庁「特許法関連規定抜粋」
特許を取得するための7つの要件
発明として認められ、特許権を得るには、以下の特許要件をすべて満たす必要があります。
- 発明であること
- 産業上利用できる発明であること
- 新規性があること
- 進歩性があること
- 発明が明確に記載されていること
- 先願であること
- 公序良俗を害する発明でないこと
それぞれ見ていきましょう。
参考)特許庁「「発明」が特許されるための主要要件」
参考)特許庁「第2章 産業財産権の概要」p19-20
【要件1】発明であること
大前提として、特許出願の対象が特許法上の「発明」に該当する必要があります。
「発明」は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されており、単なる思いつきや抽象的なアイデア、ビジネスモデルそのものなどは、この定義を満たしません。
あくまで具体的な課題を解決するための、技術的なアイデアであることが求められるのです。
【要件2】産業上利用できる発明であること
発明が実際に製造業や農業、化学工業など何らかの産業分野で利用される可能性があることが求められます。
個人的な趣味の範囲でしか使えないものや、学術的・実験的な段階にとどまるもの、あるいは人間を手術・治療・診断する方法(医療行為そのもの)などは、原則として産業上の利用可能性がないと判断され、特許を受けられません。
ただし、医療機器や医薬品そのものは産業上利用できる発明に該当します。
参考)特許庁「医薬品特許」p.1
【要件3】新規性があること
特許を取得するためには、その発明が「新しい」ものである必要があります。
具体的には、特許を出願する前に、以下を満たす必要があります。
- その発明が日本国内または国外で公然と知られていないこと(公知)
- 公然と実施されていないこと(公用)
- 頒布された刊行物に記載されていないこと、または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となっていないこと(刊行物公知・インターネット公知)
たとえ自社で発明した技術であっても、出願前に学会で発表したり、製品として販売したりすると、原則として新規性が失われ、特許を取得できなくなってしまうので注意が必要です。
参考)特許庁「第2章 産業財産権の概要」p15-17
【要件4】進歩性があること
たとえ新規性がある発明であっても、その発明が属する技術分野の専門家(当業者)が、出願前の公知技術に基づいて容易に思いつく程度のものならば、特許は受けられません。
既存の技術を単に組み合わせただけ、あるいは設計を少し変更しただけ、といった程度の改良では、進歩性がないと判断される可能性があります。
既存技術からは予測できないような顕著な効果があるなど、技術的な水準がある程度高く、新しい工夫や独自性が認められる必要があります。
【要件5】発明が明確に記載されていること
特許を出願する際には、その発明の内容を詳細に説明した書類(明細書、特許請求の範囲、必要な場合は図面)を提出しなければなりません。
この要件では、提出された書類に発明の内容が明確に記載されており、その発明が属する技術分野の専門家が読んで理解し、実際に再現できるよう、技術内容が具体的かつ明確に記述されている必要があります。
【要件6】先願であること
日本では、同じ発明について複数の異なる出願があった場合、最も早く特許庁に出願した者に特許権を与える「先願主義」を採用しています。
したがって、他の誰かが同じ内容の発明をすでに出願していた場合、後から出願した者は、たとえ独自に発明したものであっても特許を取得できません。
一日でも早く出願することが、権利取得のためには重要です。もし同日に同じ発明について複数の出願があった場合は、出願人間の協議によって定められた一人の出願人のみが特許を受けられます。協議が成立しない場合は、いずれの出願人も特許を受けられません。
【要件7】公序良俗を害する発明でないこと
その発明が公の秩序、善良な風俗、または公衆の衛生を害する恐れがないことも要件となります。
たとえ技術的に新規性や進歩性があったとしても、社会の基本的なルールや倫理観に反するような発明、たとえば、犯罪行為に直接使用されることを目的とした器具や、人を欺くための装置、非人道的な技術などは、特許として保護するに値しないと判断され、特許を受けられません。
特許法の目的である“技術の健全な発展”という趣旨に照らして、社会的に許容される範囲の発明であることが求められます。
特許権のメリットと中小企業への効果
特許の取得は、時間と費用がかかりますが、それに見合うだけの大きなメリットがあります。具体的には、以下のとおりです。
- 自社技術を守り、模倣を防げる
- 取引先・金融機関からの信頼が上がる
- ライセンスや売却による収益化もできる
とくに、経営資源が限られがちな中小企業にとって、特許権は事業を守り、成長させるための強力な武器となり得ます。
各メリットを詳しく見ていきましょう。
自社技術を守り、模倣を防げる
特許権は「独占排他権」であり、権利者は特許発明を独占的に実施(製造・使用・販売など)できます。そして、他社がその特許発明を実施することを禁止できます。
もし、他社が許可なく特許発明を利用している場合、権利者はその行為の差し止め請求が可能です。さらに、模倣によって被った損害について賠償を求められます。
これにより、安易な模倣品や類似サービスを市場から排除し、自社の技術的優位性を維持できます。とくに中小企業にとっては、大企業による模倣から自社の事業基盤を守るうえで、特許権は有効な手段となるのです。
取引先・金融機関からの信頼が上がる
特許権を取得している事実は、その企業が高い技術力を持っていることの客観的な証明となります。
この「技術力の証明」は、取引先や顧客からの信頼獲得に大きく貢献します。自社製品やサービスの品質・独自性をアピールする強力な材料となり、新規取引の開拓や既存取引の強化に繋がるのです。
また、金融機関から融資を受ける際にも、特許権は有望な無形資産として評価されることもあり、資金調達が有利に進む可能性が高まります。さらに、特許取得は企業のイノベーションへの取り組みを示すものであり、企業全体のブランドイメージ向上にも寄与します。
ライセンスや売却による収益化もできる
特許権は、自社で独占的に実施するだけでなく、他社に利用を許諾したり、権利そのものを売却したりすることで、新たな収益源を生み出す「資産」としても活用できます。
たとえば、自社では製造能力がない、あるいは市場が異なるなどの理由で直接実施しない特許技術について、他社にライセンス(実施許諾)を与え、その対価としてライセンス料(実施料)を受け取ることが可能です。
また、事業戦略の見直しなどにより、保有している特許権が不要になった場合には、その権利を他社に売却(譲渡)して、まとまった資金を得ることもできます。
このように、特許権は守りの側面だけでなく、攻めの経営資源としても活用でき、企業の収益構造を多角化させる可能性を秘めています。
特許出願の流れ
特許権を取得するためには、定められた手続きを段階的に進める必要があります。具体的には以下のとおりです。
手続き | 内容 |
先行技術調査 | 類似技術・特許の有無を確認。新規性・進歩性の判断材料となる。 |
出願書類作成 | 明細書・特許請求の範囲が権利範囲を決定。正確な記載が必須。 |
特許出願 | 特許庁へ書類提出。この日が「出願日」(先願主義の基準)となる。 |
出願審査請求 | 出願以外に別途「出願審査請求」が必要。審査開始の依頼。出願日から3年以内が期限。 |
審査 | 特許庁審査官が特許要件(新規性、進歩性など)を判断する。 |
意見書・補正書の提出※拒絶通知が来た場合 | 拒絶理由通知に対し、反論や書類修正で対応可能。 |
査定 | 審査結果(特許査定 or 拒絶査定)が通知される。 |
特許料納付 | 特許査定後、期間内(通常30日)に登録料を納付。 |
設定登録・権利発生 | 特許料納付により権利が正式に発生。特許原簿に登録、特許証が交付される。 |
各ステップにおいて専門的な判断が必要な場面もあります。計画的に手続きを進め、必要に応じて専門家のサポートを活用しましょう。
参考)特許庁「初めてだったらここを読む~特許出願のいろは~」
特許権侵害への対策と対処法とは?
自社が意図せず他社の特許権を侵害してしまうリスクもあれば、逆に自社の貴重な特許権が他社に侵害される可能性もあります。
ここからは、他社の特許を侵害しないための対策と、万が一自社の特許権が侵害された場合の対処法について解説します。
他社の特許をうっかり侵害するとどうなる?
新製品や新サービスが、意図せず(過失で)他社の特許を侵害してしまった場合、刑事罰は科されませんが、民事において法的な責任を問われます。
権利者からは、侵害行為の差し止め請求(製品の製造・販売停止など)や高額な損害賠償を請求されるリスクもあります。加えて、企業の信用が大きく損なわれることも避けられません。
このような事態を防ぐためにも、事業開始前には必ず、関連する他社特許の有無や抵触の可能性を調査・確認するクリアランス調査(侵害予防調査)を行いましょう。
なお、悪意を持って侵害した場合、侵害罪や詐欺行為の罪として刑事罰の対象となります。
参考)特許庁「著作権侵害への救済手続」
参考)特許庁「刑事責任の追及を捜査機関に求める」
参考)特許庁「知的財産権と刑事罰」p.2-3
特許権を侵害されたときの企業側の対処法
自社の特許権が侵害された疑いがある場合は、放置せずに迅速な対応が必要です。損害拡大を防ぐため、以下のステップで対処を進めましょう。
- 事実確認と証拠確保:自社の特許権を侵害しているか確認する
- 専門家への相談:早期に弁理士や弁護士に相談する
- 警告書の送付:侵害を確認後、相手に侵害行為の中止を求める警告書を送付する
- 交渉:相手とライセンス契約や損害賠償について話し合い、円満解決を目指す
- 法的措置:交渉がまとまらない場合は、裁判所へ差止請求や損害賠償請求の訴訟を提起することを検討する
いずれの段階でも、専門家と連携しながら、速やかに行動することが重要です。
まとめ
特許権は、模倣を防ぐだけでなく、企業の技術力を証明し、信頼性を高める効果があります。さらに、ライセンス供与や売却によって収益源とすることも可能です。
しかしながら、意図せず他社の特許を侵害してしまったり、自社の特許を侵害されてしまったりする恐れがあるため、慎重に扱う必要があります。
特許制度を正しく理解・活用し、企業の競争力を高め、持続的な成長を実現させましょう。
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