個人情報とはどこまで?企業が知っておくべき基本と取り扱いルールを解説

個人情報の取り扱いは、企業にとって非常に重要で、適切な管理と保護が不可欠です。とくに中小企業では、法律への理解や管理体制が不十分なまま業務を進めてしまい、思わぬトラブルに発展するケースもあります。
この記事では、個人情報に該当する情報の範囲や取り扱いルール、漏洩時のリスクと対応策をわかりやすく解説します。適切な知識を身につけ、法令違反や信頼低下を未然に防ぎましょう。
どこまでが個人情報になる?個人情報とは
個人情報とは、個人情報保護法によって、氏名や生年月日など、特定の個人を識別できるものと定義されています。
また、個人識別符号が含まれる情報も個人情報として扱われます。個人識別符号とは、マイナンバーや運転免許証番号など、個人に割り当てられた記号や番号のことです。
個人情報の取り扱いには、法令に基づいた適切な管理が求められます。とくに、業務上知り得た情報を不注意に扱うと、重大なトラブルを招くおそれがあります。まずはその定義と範囲を正しく理解することが重要です。
参考)政府広報オンライン「「個人情報保護法」を分かりやすく解説。個人情報の取扱いルールとは?」
参考記事:個人情報保護法改正で中小企業も対象に!注意すべき点をわかりやすく解説
個人情報に該当する具体例
個人情報に該当する具体例は、以下のとおりです。
・氏名
・住所
・生年月日
・電話番号
・メールアドレス
・マイナンバー
・運転免許証番号
・顔写真や顔認証データ
・指紋や虹彩などの生体情報
これらは、単独でも本人を特定できる場合や、ほかの情報と組み合わせることで個人が識別できる場合があるため、法律上の「個人情報」として保護されます。
なお、個人情報保護法(正式名称:個人情報の保護に関する法律)は、3年ごとに検討を行い、必要に応じて改正されます。
個人情報保護法の改正によって、個人情報の取り扱いが変わるため、最新の情報を取得しましょう。
参考)個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しについて」
参考記事:個人情報保護法の改正で何が変わった?2022、2023、2025の変更点をわかりやすく解説
個人情報に該当しないもの
一方で、個人情報に該当しない情報も存在します。たとえば、単体では個人を識別できない以下のような情報です。
・性別や年代のみの情報
・地域別の統計データ
・商品の購入傾向を集計した匿名のマーケティングデータ
・集団の傾向を示すアンケートの集計結果
これらは、個人情報とは見なされません。ただし、匿名加工された情報であっても、複数の組み合わせで個人を特定できる可能性があります。
そのため、個人を特定できないと判断される情報であっても、慎重に扱うことが求められます。
参考記事:個人情報保護法のガイドラインを知っていますか?企業の守りに必要な情報を解説!
中小企業に求められる個人情報の取り扱いルール
中小企業においても、顧客や従業員などの個人情報を扱う以上、適切な管理体制を整える必要があります。
個人情報を取得・利用する際には目的を明確にし、本人の同意を得ることが原則です。また、情報の漏洩や不正利用を防ぐため、保管方法や管理体制の整備も欠かせません。さらに、第三者に提供する場合のルールや、本人から開示や訂正の請求を受けたときの対応も法律で定められています。
ここからは、それぞれの場面で中小企業が守るべき基本的な取り扱いルールについて解説します。
参考)政府広報オンライン「「個人情報保護法」を分かりやすく解説。個人情報の取扱いルールとは?」
取得・利用
個人情報を取得する際は、利用目的を特定し、本人に明示する必要があります。
また、情報を収集する前に本人の同意を得ることが原則です。たとえば、顧客アンケートや問い合わせフォームなどで個人情報を取得する場合には、利用目的と併せて、同意を取る仕組みを設ける必要があります。
取得した個人情報は、利用目的の範囲で利用しなければならず、特定した利用目的の範囲外のことに利用する場合、あらかじめ本人の同意が必要です。
保管・管理
取得した個人情報は、外部への漏洩や不正アクセスを防ぐために、適切に保管・管理する必要があります。紙媒体であれば施錠管理、電子データであればパスワードやアクセス制限の導入などが基本的な対策です。
万が一、紛失や漏洩が発生した場合には、速やかに対応できる体制を整えておくことも求められます。
提供
個人情報を第三者に提供する場合には、原則として本人の同意が必要です。たとえば、業務委託先に顧客情報を渡す際や、関連会社に情報を共有する場合も同様に、本人に対して提供先や目的を明示し、同意を得ることが求められます。
ただし、法令に基づく場合や人の生命・身体・財産を保護する必要がある場合など、例外的に同意が不要なケースもあります。
また、第三者に個人データを提供した場合は、原則として3年間「いつ・誰の・どんな情報を・誰に」提供したか記録し、保存しなければなりません。
開示請求等への対応
本人から個人情報の開示、訂正、利用停止などの請求を受けた場合は、誠実かつ迅速に対応する義務があります。企業は請求手続きの方法や問い合わせ窓口を明確にし、社内でもその対応フローを整備しておくことが重要です。
また、以下の内容について、本人が知り得る状態にしておかなければなりません。
・個人情報取扱事業者の氏名又は名称、住所
・すべての保有個人データの利用目的
・保有個人データの利用目的の通知の求め又は開示などの請求手続
・保有個人データの安全管理のために講じた措置
・保有個人データの取扱いに関する苦情の申出先
これらの情報は、ウェブサイトなどで公表することが求められます。
個人情報を漏洩した際のリスク
個人情報が漏洩した場合、企業はさまざまな責任や損害を負うことになります。たとえ故意でなくとも、情報の管理体制が不十分であれば、法的・経済的・社会的な影響を受ける可能性があるのです。
ここからは、刑事・民事・社会的責任の3つの側面から、企業が直面する可能性のあるリスクについて解説します。
刑事責任
個人情報保護法に違反した場合、重大なケースでは刑事罰の対象となります。
たとえば、個人情報データベースを不正な目的で第三者に提供したり、盗用した場合には、「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される可能性があるのです。
また、個人情報保護委員会からの報告徴収・立入検査に応じなかった場合や、報告徴収に対して虚偽の報告をした場合などは、「50万円以下の罰金」が科される可能性があります。
さらに、法人の代表者や従業員などが罰則の対象となる行為をした場合、両罰規定により、行為者に加え、その法人や人にも罰金刑が科される可能性があります。
個人情報の不適切な取り扱いは刑事罰に発展する可能性があるため、日頃からのルールの徹底が不可欠です。
参考)個人情報保護委員会「個人情報取扱事業者等が個人情報保護法に違反した場合、どのような措置が採られるのですか。」
民事責任
個人情報が漏洩した際には、被害を受けた本人から損害賠償を請求される可能性があります。
情報漏洩は被害者が多数に及ぶケースも多く、対応に多くの時間や費用がかかるおそれがあります。
社会責任
情報漏洩が発覚した場合、企業は法的な責任だけでなく、社会的な評価にも大きな影響を受けます。顧客からの信頼を失うことで、売上の減少や取引の打ち切りといった二次的被害が発生するおそれがあるのです。
対応が不十分であると見なされた場合には、「隠蔽体質」や「ずさんな管理」として批判を浴びることになりかねません。
一度失った信用を取り戻すには多大な労力と時間が必要です。日常的なリスク管理と、万が一の際の適切な広報対応が、企業のレピュテーション維持には不可欠です。
個人情報漏洩時の対応
個人情報の漏洩が発生した場合、企業は速やかかつ適切に対応しなければなりません。
初動の遅れや対応の不備は、被害の拡大だけでなく、企業の信頼失墜にもつながります。事前に具体的な対応フローを定め、関係者が冷静な対応ができる体制を整備しておくことが重要です。
ここからは、漏洩発生時に企業が取るべき対応手順を段階的に紹介します。
参考)独立行政法人情報処理推進機構セキュリティセンター「情報漏えい発生時の対応ポイント集」
発見・報告
個人情報の漏洩に気づいたら、すぐに社内の責任者や担当部署に報告しましょう。現場での「気付き」が遅れると、情報の拡散や不正利用を防ぐことが難しくなります。
報告を受けた管理者は、事実確認と同時に、経営層や情報セキュリティ部門への共有を行いましょう。また、重大な事故が疑われる場合は、個人情報保護委員会など外部機関への報告も視野に入れる必要があります。
漏洩の兆候をいち早く察知し、関係者間で迅速に共有する体制を整えておくことが、初動対応の成否を左右します。
初動対応
漏洩が確認された場合、まずは被害の拡大を防ぐための緊急措置を講じる必要があります。たとえば、社内システムへのアクセス制限、該当端末のネットワーク遮断、該当アカウントの停止などが挙げられます。
関係ファイルのバックアップやログの保全も、後の調査を円滑に進めるうえで重要です。漏洩が外部からの不正アクセスによるものであれば、セキュリティベンダーと連携して原因を特定することが求められます。
初動の判断を誤ると、情報の拡散や二次被害を招くおそれがあるため、事前に対応マニュアルを整備しておくことが、冷静な対応につながります。
調査
初動対応が完了した後は、漏洩の原因や影響範囲を明確にするための調査を実施します。社内のシステムログや操作履歴を分析し、誰が・いつ・どの情報にアクセスしたかを確認しましょう。
また、漏洩した情報の内容や、影響を受ける可能性のある人数を把握することも必要です。情報の拡散経路が不明確な場合には、第三者機関と連携しての解析も有効です。
調査結果は、被害者や監督官庁への報告資料としても活用されるため、正確性と網羅性が求められます。記録は細かく残し、説明責任を果たせる状態にしておきましょう。
通知・報告・公表
被害状況が把握できたら、影響を受けた本人や関係機関への通知・報告を行います。通知には、漏洩の事実、影響の可能性、企業としての対応内容、再発防止策などを含めることが望ましいです。
また、一定規模以上の漏洩(民間事業者:1,000人以上)や要配慮個人情報の漏洩など、法律上報告義務があるケースでは、速やかに個人情報保護委員会への報告を行いましょう。
報道発表やホームページ上での公表が必要になる場合もあるため、広報部門との連携も欠かせません。曖昧な情報を発信すると、かえって不信感を招くおそれがあるため、誠実かつ正確な伝達を心がけましょう。
参考)個人情報保護委員会「漏えい等の対応とお役立ち資料」
抑制措置と復旧
漏洩を受けて、同様の事故を防ぐための再発防止策を講じることが重要です。セキュリティ体制の見直しやシステムのアップデート、業務フローの改善など、原因に応じた対策を検討しましょう。
また、業務に支障が出ている場合は、早急に復旧作業に着手し、通常業務への早期回復を目指すことが求められます。業務停止が長期化すれば、それだけ信頼や売上に悪影響を及ぼします。
これらの対策は、一時的な処置にとどめず、継続的に改善していく姿勢が大切です。
事後対応
復旧後も、被害者や関係者へのフォローは継続して行う必要があります。謝罪や補償の実施、定期的な情報提供など、相手に安心してもらえる対応が企業の信頼回復につながります。
また、社内に対しては、再発防止に向けた研修やマニュアルの見直しを行い、同様のトラブルを未然に防ぐための教育を徹底しましょう。
漏洩事故は、単に一度の対応で終わる問題ではありません。企業がどのように向き合い、信頼を取り戻すかが今後の事業継続に大きく関わってきます。
個人情報を適切に管理する方法
個人情報を安全に取り扱うためには、明確な管理体制と技術的対策の両面からのアプローチが必要です。
中小企業においては、大規模なシステム投資が難しい場合でも、社内のルールづくりや教育、アクセス制御といった基本対策を徹底することで、十分な効果が期待できます。
ここからは、具体的な管理手法を3つの視点から解説します。
組織体制を整備する
個人情報を適切に管理する第一歩は、社内の組織体制を明確に整えることです。情報管理の責任者を任命し、管理範囲と権限を明文化しておくことで、トラブル発生時の迅速な対応が可能になります。
また、社内全体でルールを共有するための運用規程やマニュアルの整備も重要です。従業員が迷わず行動できるよう、日常業務に即した形でルールを文書化しましょう。
役割分担を明確にし、責任の所在をはっきりさせることで、管理体制の形骸化を防ぎます。特定の担当者に負担が偏らないよう、体制の見直しも定期的に行うことが望ましいです。
持ち出しやアクセスのルールを決める
情報の不正流出を防ぐためには、データの持ち出しや社内アクセスの制限に関するルールを整備する必要があります。たとえば、USBメモリなどの外部記録媒体の使用を禁止したり、持ち出す際には上長の許可を得るといった運用が考えられます。
また、誰がどの情報にアクセスできるのかを明確にし、役職や業務内容に応じてアクセス権限を細かく設定することが重要です。業務に不要な情報へは原則としてアクセスできない仕組みにしておくことで、内部からの情報漏洩リスクを大幅に軽減できます。
こうしたルールは形式的なものではなく、従業員一人ひとりに守られることが前提です。定期的な研修や周知徹底の場を設け、ルールが実際に機能する体制を目指しましょう。
システムを導入する
人的ミスや外部からの攻撃によるリスクを抑えるためには、技術的な対策としてのシステム導入も不可欠です。代表的な手段としては、ウイルス対策ソフトやファイアウォールの導入、パスワードの強化などが挙げられます。
さらに、アクセスログの記録・監視や、自動的に画面をロックする仕組みなども効果的です。これにより、不審な操作や不正アクセスを早期に察知できるようになります。
中小企業でも導入しやすいクラウド型のセキュリティサービスも増えてきており、コストを抑えつつ高度な管理が可能です。必要に応じて専門業者と連携し、自社に合った最適な対策を講じましょう。
まとめ
個人情報の取り扱いには、法令に基づいた明確なルールと、日常業務に根づいた管理体制が必要です。情報の取得時には利用目的の明示と同意取得を徹底し、保管や提供の際にも適切な制限を設けましょう。
万が一漏洩が発生した場合には、迅速な初動対応と関係者への誠実な報告が信頼回復の鍵を握ります。また、再発防止のためのルール整備や教育も欠かせません。
中小企業でも、今日からできる対策を講じることで、大きなリスクを回避できます。この記事を参考に、ぜひ一度自社の情報管理体制を見直してみてください。
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