セルフケアとは?中小企業が知るべき従業員のメンタルケア|簡単な方法と具体例を解説

従業員の活力や生産性の向上は、企業の持続的な成長に不可欠です。その鍵を握るのが、従業員一人ひとりが実践する「セルフケア」と、それを支える企業の取り組みです。
この記事では、今なぜセルフケアが重要なのか、そして今日から始められる具体的なセルフケアの方法をわかりやすく解説します。
また、以下資料では、中小企業が従業員のセルフケアを後押しし、組織全体の活性化につなげるための具体的な支援策や、他社の成功事例もご紹介します。
従業員の健康と企業の成長を両立させたい方必見です。
目次
そもそもセルフケアとは?【簡単に解説】
「最近、なんだかやる気が出ない」「仕事のプレッシャーで疲れが取れない」 そのように感じていませんか?
「セルフケア」は、働く人々が心身の健康を自分自身で積極的に守り、維持するための取り組みを指します。
具体的には、以下のような生活習慣の管理が含まれます。
- ストレスをため込まないための気分転換
- 十分な睡眠
- バランスの取れた食事
- 適度な運動
近年、ビジネスシーンでも耳にする機会が増えた「セルフケア」の基本的な意味と、なぜ企業で働く従業員にとって重要なのかを解説します。
WHO(世界保健機関)が提唱するセルフケアの定義
世界保健機関(WHO)は、より包括的な概念としてセルフケアを定義しています。
セルフケアとは、個人、家族、コミュニティが、医療従事者の支援の有無にかかわらず、健康を増進し、疾病を予防し、健康を維持し、病気や障害に対処する能力を指します。この定義には、健康増進、疾病の予防と対策、薬の自己管理、介助を要する人へのケア、必要に応じた医療施設への受診、緩和ケアを含むリハビリテーションが含まれます。 |
出典)国立国際医療研究センター「WHOガイドライン健康とウェルビーイングのためのセルフケア介入, 2022年改訂版:要約」p.2
なぜ今、企業で働く従業員にとってセルフケアが重要なのか?
現代社会は、変化のスピードが速く、働き方も多様化しており、従業員は自覚している以上に、多くのストレスに晒されています。
従業員一人ひとりがセルフケアを実践し、心身の健康を維持することは、個人にとってはもちろん、企業にとっても極めて重要です。経済産業省が推進する「健康経営」の考え方においても、従業員の健康は「コスト」ではなく「投資」であると位置づけられています。
以下は、従業員のセルフケアが適切におこなわれた場合に得られる、主なメリットです。
- 生産性の向上:心身が健康な従業員は、集中力や創造性が高く、仕事のパフォーマンスが向上する
- 離職率の低下:従業員が心身ともに満たされた状態で働ける職場は、エンゲージメントが高まり、人材の定着につながる
- 組織の活性化:従業員同士のコミュニケーションが円滑になり、活気のある職場風土が醸成される
- 企業価値の向上:「従業員を大切にする企業」というイメージは、採用活動や取引先との関係構築においてもプラスに働く
従業員のセルフケアは、もはや個人の問題ではなく、企業の成長を左右する重要な経営課題の一つなのです。
【種類別】今日から実践できるセルフケアの具体的な方法と例
ここでは、厚生労働省の「こころの耳」で紹介されている内容などを参考に、3つの側面に分けて具体的なセルフケアの方法と例をご紹介します。
メンタルを整えるセルフケアの例
心の疲れを癒し、ストレスを軽減するためのセルフケアです。
- 好きな音楽を聴く
- アロマテラピー
- デジタルデトックス
- ジャーナリング(書く瞑想)
- マインドフルネス・瞑想
- 自然に触れる
- 小さな成功体験を味わう
身体を癒すセルフケアの例
身体的な疲労回復や健康増進を目的としたセルフケアです。
- 質の良い睡眠をとる
- バランスの取れた食事
- 軽い運動
- ゆっくり入浴する
- こまめな休憩
- セルフマッサージ
人間関係を豊かにするセルフケアの例
社会的なつながりを通じて心の安定を得るセルフケアです。
- 信頼できる人と話す
- 「ありがとう」を伝える
- 気の合う仲間と過ごす
- 一人の時間を大切にする
- 苦手な人とは距離を置く
参考記事:ストレスチェックで職場の健康を守る!中小企業で義務化になった点など
中小企業が従業員のセルフケアを支援するためにできること
従業員のセルフケアは個人の努力だけに任せるべきではありません。企業が積極的に関与し、セルフケアの実践しやすい環境を整えることで、効果が飛躍的に高まります。ここでは、中小企業が労務管理の一環として取り組める支援策をご紹介します。
参考)厚生労働省「中小企業の事業主の方へ~メンタルヘルスケアに役立つコンテンツ~」
セルフケアの重要性を周知する研修や情報提供
従業員自身にセルフケアの重要性や具体的な方法を知ってもらうことが第一歩です。
- セルフケア研修の実施
- 外部講師を招いたり、オンライン研修ツールを活用
- ストレスの仕組みや対処法(ストレスコーピング)、セルフケアの知識を学ぶ
- ライフイベント(妊娠・出産・育児など)を控えた女性従業員向けの研修も有効
- 情報提供
- 社内ポータルサイトや掲示板、社内報などを活用
- セルフケアに関するコラムやヒントを定期的に発信
- 具体的な方法や相談窓口の情報をわかりやすく伝える
1on1ミーティングで従業員の小さな変化に気づく
定期的な1on1ミーティングは、業務の進捗管理だけでなく、従業員のコンディションを把握する絶好の機会です。
- 傾聴の姿勢
- 上司は部下の業務の悩みだけでなく、最近の体調やプライベートでの変化などにも気を配る
- 小さな変化に気づき、不調の早期発見につなげる
- 安心感の醸成
- 「いつでも相談できる」というメッセージを伝え、部下が安心して本音を話せるようにする
相談しやすい環境づくりと外部相談窓口(EAP)の案内
従業員が悩みを一人で抱え込まないよう、相談しやすい環境を整えることが不可欠です。
- 社内相談窓口の設置
人事労務担当者などが相談窓口となり、プライバシーに配慮した形で相談に応じる - 外部相談窓口(EAP)の活用
企業と契約した外部の専門機関が、従業員のメンタルヘルスに関する相談に応じる、EAP(Employee Assistance Program/従業員支援プログラム)の活用 - 地域産業保健センター(さんぽセンター)の活用
労働者数50人未満の事業場が、無料でメンタルヘルス対策などの支援を受けられる地域産業保健センターの活用
他社の事例から学ぶセルフケアと健康経営のヒント
ここでは、実際にセルフケアや健康経営に取り組み、成果を上げている企業の事例をご紹介します。
「健康経営」を軸にした戦略的なメンタルヘルス対策
愛知県の企業(建設業)では、「健康経営」を事業戦略の柱に据え、従業員のメンタルヘルス対策を積極的に推進しています。
- 働きやすい環境づくり
- 週休2日制の導入
- 従業員同士が交流できる機会の設定
- 家族の記念日を大切にできるような休暇制度
- ストレスチェックの活用
- ストレスチェックを単なる義務ではなく、職場環境改善の起点として活用
- 結果を踏まえたメンタルヘルス研修の開催などを通じて、従業員一人ひとりのストレス軽減を図る
- 病気の予防から両立支援まで
- 健康診断後の地域産業保健センターの活用
- 治療と仕事の両立支援マニュアルの整備
- 病気の予防・早期発見から、万が一の際の就労支援まで、従業員の健康を多角的にサポート
小規模事業場の強みを活かした柔軟なメンタルヘルス対策
山口県の住宅設備機器メーカーでは、小規模事業場の強みを活かし、柔軟なメンタルヘルス対策を実施しています。
- 話し合いの場の設定
委員を集めて定期的にメンタルヘルス対策について話し合う場を設け、全社で課題を共有 - 外部資源の活用
産業医やカウンセラーなどを積極的に活用 - ラインケア研修の実施
管理監督者を対象としたラインケア研修を実施 - 定期的なストレス調査
年に2回ストレスに関する調査を実施
経営者の思いを伝えるメンタルヘルス対策
福岡県の印刷会社では、経営者の強い思いを軸に、社員の心の健康づくりに取り組んでいます。
- 「心の健康づくり計画」の策定
以前から取り組んでいた活動を改めて整理し、「心の健康づくり計画」として明文化 - セルフチェックの定期実施
ストレス関連のセルフチェックを定期的に実施 - 経営者による声かけ
経営者自らが出勤時に社員一人ひとりに声をかける
参考)厚生労働省「西日本ビジネス印刷株式会社(福岡県福岡市)」
まとめ
この記事では、セルフケアとは何か、重要性から具体的な方法、そして中小企業が従業員のセルフケアを支援するための取り組みまでを解説しました。
従業員のメンタルヘルスは、個人の問題であると同時に、企業の生産性や成長を左右する重要な経営課題です。
従業員一人ひとりが自らの心身の健康を守る「セルフケア」を実践し、企業がそれを力強く後押しすることで、従業員は安心して能力を発揮でき、組織全体が活性化するのです。
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