品質マネジメントシステム(QMS)とは?ISO9001との関係、導入手順などを解説

「製品の不良品が多い」「顧客からのクレームが減らない」といった、品質に関する課題を抱えていませんか?それを解決するための体系的な仕組みが、品質マネジメントシステム(QMS)です。特にISO 9001をはじめとする国際規格を指針として整備します。

しかし「品質マネジメントシステムをどのように導入すべきか」「どう運用すれば効果的に品質を向上させることができるのか」といった悩みを抱える企業も多いと思います。

そこで、この記事では、品質マネジメントシステムの基本的な考え方や導入のメリット、成功に導くためのステップについて詳しく解説します。

品質マネジメントシステム(QMS)とは

品質マネジメントシステムは、組織の業務プロセスを見直す体系的な仕組みを指す言葉です。英語では「Quality Management System」と書き「QMS」と略されます。

「品質マネジメントシステムが運用できているか」は、ISO 9001を代表とする国際規格が基準となり、判断されます。

品質マネジメントシステムを導入する目的

品質マネジメントシステムを導入する基本的な目的は、「組織の製品やサービスの品質を安定的に保ち、顧客の期待に応えること」です。ただし、顧客満足度の向上以外に、次のような目的があります。

項目詳細
業務の効率化品質向上のためのプロセスを標準化することで、無駄を減らし、業務の効率化を図ります。
リスク管理品質に関するリスクを識別し、予防措置を講じることで、問題の発生を未然に防ぐことができます。
競争優位性の獲得品質管理が徹底されている企業は、競争相手と差別化され、市場での信頼性が向上します。

ただし基本的には「顧客満足度向上」につながるように構築・改善を繰り返す必要があります。品質マネジメントシステムの導入を行う際には、最初に明確な目的を定義するようにしましょう。

品質マネジメント7原則とは

品質マネジメントシステムを効果的に導入し、運用するための指針として、ISO 9000などの品質管理規格では、以下の「品質マネジメント7原則」が定められています。品質管理を推進するための基本的な考え方です。

項目詳細
顧客重視顧客のニーズと期待に応えることを最優先とし、顧客満足の向上を目指します。
リーダーシップ組織の方向性を示し、全員が同じ目標に向かって取り組むためのリーダーシップを発揮します。
人々の積極的参加組織内のすべての人が品質管理に関与し、責任を持つことで成果を上げます。
プロセスアプローチ効率的な成果を得るために、業務をプロセスとして捉え、管理します。
改善組織全体での継続的な改善を目指し、品質の向上を図ります。
証拠に基づく意思決定客観的なデータや情報に基づいて意思決定を行い、効果的な対策を講じます。
関係性管理サプライヤーやパートナーなど、外部の関係者との良好な関係を築くことで、共に価値を創造します。

まずは、品質マネジメント7原則を満たすように、システムを適切に設計・運用する必要があります。

【ここが大切】ISO9001はQMSを成功させるための『羅針盤』

品質マネジメントシステムを進めるにあたって、基準となるのが「ISO 9001」などの国際的な規格です。規格の承認基準に満たすように、システムを設計・運用することが品質マネジメントシステム導入のゴールといえます。

ISO 9001は、単に品質管理の基準を定めるだけでなく、組織全体での製品・サービスの品質に対する意識を高めることにも寄与することが特徴です。

ISO9001における10の要求事項

ISO9001を取得するためには、ISO9001に明記されている「10の要求事項」を満たしていないといけません。先述した7原則とかぶる部分もありますが、簡単に紹介します。

項目詳細
1.適用範囲序章の内容で「規格を適用する範囲」に関する記述
2.引用規格序章の内容で「引用している他規格がある場合」についての記述
3.用語及び定義序章の内容で「規格に登場する用語の意味」の解説
4.組織の状況の理解組織がどのような環境で運営されているかを理解し、外部および内部の要因を考慮して品質管理システムを構築すること。
5.リーダーシップ組織のリーダーシップが品質管理システムの導入と運用において積極的に関与し、組織全体の品質意識を高めること。
6.計画品質目標を明確に設定し、それを達成するための具体的な計画を立てること。リスクや機会を評価し、適切な対策を講じること。
7.支援必要なリソースを提供し、社員の能力開発や訓練を通じて、品質管理システムを効果的に運用するための支援を行うこと。
8.運用組織の業務運営において、品質に関連する活動が適切に管理され、必要な手順やプロセスが確立されていること。
9.パフォーマンス評価品質目標や成果を評価し、実際のパフォーマンスを測定するための監視、測定、分析を行うこと。
10.改善品質管理システムを継続的に改善するために、フィードバックや監査結果を活用し、問題を特定して改善策を講じること。

このうち1から3は規格を説明する上での、前提的な内容が記されています。

大事なのは4から10までの内容です。PDCAに重点を置きつつ、各要求事項を満たすことでISOの取得に近づきます。

品質マネジメントシステムに関する規格の種類

品質マネジメントシステムの構築にあたって、ISO9001以外にもさまざまな規格が存在します。業界や地域に応じて適用されることが特徴です。

代表的な品質マネジメントシステムに関する規格を紹介します。

ISO9001(品質マネジメントの国際規格)

ISO 9001は、品質マネジメントシステムの国際規格として最も広く採用されています。先述した通り「製品・サービスの品質維持」「顧客満足度向上」の要件を定めているものです。

ISO 9001の主な目的は「組織が一貫した品質の提供を実現し、継続的な改善を進めること」です。特に、品質管理の仕組みを標準化することにより、業務効率の向上やリスク管理、品質の安定化を実現できます。

ISO 9001を取得することで、企業は品質向上への取り組みを国際的に証明でき、

顧客への製品・サービスの品質証明となります。

出典)日本産業標準調査会「ISO 9001について

JIS Q 9001(日本国内の品質マネジメント規格)

JIS Q 9001は、日本国内で適用される品質マネジメントシステムの規格です。ISO 9001とほぼ同じ内容ですが、日本の法規制やビジネス環境に適した表現や要件が盛り込まれています。

JIS Q 9001を取得することで、企業は国内市場においても高い品質管理能力を証明できます。

SQF(食品業界向けの品質・安全規格)

SQF(Safe Quality Food)は、食品業界向けの品質・安全規格です。食品の製造から販売までの各プロセスでの安全性と品質の確保を目的としています。

グローバルな食品企業が協働して食品安全管理の承認等を行う民間団体「The Global Food Safety Initiative(GFSI)」にも承認されている規格です。

出典)農林水産省「民間の食品安全管理規格・認証スキームについて

SQFは、食品業界で特に重要視される食品安全と品質基準を定めており、食品製造業者が食品安全を確保しつつ、品質管理の向上を図るために導入されています。

SQF認証を取得することで、食品業界の企業は製品の安全性と品質を保証し、消費者や取引先に対して信頼性を示すことが可能です。

品質マネジメントシステムを導入するメリット

品質マネジメントシステムの導入に関するメリットを紹介します。

  1. 品質管理を見える化できる
  2. 顧客満足度の向上
  3. 業務効率化とコスト削減
  4. 法令遵守とリスク軽減
  5. ブランド価値の向上

【メリット1】品質管理を見える化できる

品質マネジメントシステムを導入することで、組織内の品質管理に関する情報が一元化され、見える化が進みます。その結果、各部署や担当者が共通の基準に基づいて行動できることが魅力です。

さらに、品質に関するデータの収集・分析ができることで、論理的に「課題の発見と改善策の実施」ができます。

【メリット2】顧客満足度の向上

品質マネジメントシステムの導入は顧客満足度の向上に直結することも魅力です。

顧客のニーズを収集し、対応する仕組みが整うことで、製品やサービスの品質が安定します。これにより、クレームや不良品の発生が減少し、顧客からの評価が高まります。

また、問題発生時に迅速に対応できることもメリットです。「信頼関係の維持・強化」が期待できます。その結果、新規顧客の獲得、リピーターの増加が見込まれることが大きなメリットです。

【メリット3】業務効率化とコスト削減

品質マネジメントシステムは業務プロセスの効率化とコスト削減にも寄与します。

業務手順の標準化により、業務の無駄やヒューマンエラーが削減され、作業効率が大幅に向上します。すると製造コストやリコール費用の削減につながることが利点です。

また、品質管理の自動化を進めることで、人件費の削減も見込めます。全体的な運用コストの低減により、企業の収益性を向上させることが可能です。

【メリット4】法令遵守とリスク軽減

品質マネジメントシステムの導入は、法令遵守とリスク軽減ができます。

ISO 9001のような国際的な品質基準に従うことで、安心して各種法令や規制を遵守できます。これによりリスクを最小限に抑えられることが利点です。

【メリット5】ブランド価値の向上

品質マネジメントシステムを導入し、国際的な規格を満たすと、企業のブランド価値が向上します。その結果、顧客、取引先、株主などのステークホルダーに対して魅力を訴求できることが利点です。

これにより市場での競争力が強化され、最終的には利益向上につながります。

QMS導入は7つのステップで進めよう

品質マネジメントシステム導入の基本的なステップをわかりやすく解説します。

  1. 現状分析とギャップ評価
  2. 品質マネジメントシステム構築計画の策定
  3. 文書化と規程の作成
  4. 必要に応じてデジタルシステムを導入する
  5. 教育とトレーニングの実施
  6. 運用と内部監査の実施
  7. マネジメントレビューの実施

【ステップ1】現状分析とギャップ評価

品質マネジメントシステム導入の第一歩は、組織の現状を把握し、目標とのギャップを評価することです。

現行の業務フロー、品質管理体制、法令遵守状況などを調査し、品質マネジメントシステムの導入が必要な分野を明確にします。

改善が必要な領域、リスク要因を洗い出すことがゴールです。

【ステップ2】品質マネジメントシステム構築計画の策定

次に、品質マネジメントシステムの導入計画を策定します。品質目標を設定し、達成に向けた戦略とアクションプランを具体化しましょう。

具体的に定める事項は以下のとおりです。

  • 業務プロセスの設計
  • 責任者の割り当て
  • リソースの確保
  • スケジュールの設定

組織規模や業務特性に応じて、柔軟に計画を作成します。

【ステップ3】文書化と規程の作成

計画に基づき、品質管理に関連する手順書やマニュアル、規程類を文書化します。

主に文書化すべき内容は以下のとおりです。

  • 品質方針
  • 業務手順
  • リスク管理プロセス
  • 業務フロー図

文書化により、品質管理の一貫性が確保され、従業員全員が統一された基準に基づいて業務を遂行できます。

【ステップ4】必要に応じてデジタルシステムを導入する

品質管理の精度を高め、運用効率を向上させるためには、デジタルシステムの導入も重要です。たとえば、以下のようなツールを活用することで、品質マネジメントシステムの運用がスムーズになります。

項目詳細
データ収集・分析ツール品質データの管理・分析を行うことで改善点を明確にする。
文書管理システム手順書や規程の更新・共有を効率化する
プロジェクト管理ツール業務プロジェクトの進捗管理を効率化する
オンライン研修プラットフォーム従業員教育の実施などを効率化する

この他、必要であれば物流や製造などの業界独自のシステム、プロダクトの見直しも行いましょう。

【ステップ5】教育・研修の実施

システムやレギュレーションを定めただけでは、新しい業務フローは定着しません。従業員への教育を行いましょう。

品質管理に関する基本的な知識や業務手順、ISO 9001などの規格要件を従業員に理解させることで、運用体制の強化が図れます。また、品質目標の重要性を共有し、従業員の品質意識を高めることも重要です。

【ステップ6】運用と内部監査の実施

品質マネジメントシステムを運用し、内部監査を実施します。日常業務の中で計画された手順に従って業務が行われているかを確認し、問題が発見された場合は是正措置を講じましょう。

また改善は継続的に実施する必要があります。一度の改善だけでは、不十分です。定期的に見直すことで「品質管理体制の向上」と「組織の成長」が促進されます。

【ステップ7】マネジメントレビューの実施

最後に、今まで行ってきた活動をトップマネジメントに報告、アウトプットをもらい、現状の課題の整理や問題点を考察し、体制やシステムの見直しを行います。

マネジメントレビューを行わないと次のアクションにつながらない為、重要なフェーズといえます。

改善は継続的に実施する必要があります。一度の改善だけでは、不十分です。定期的に見直すことで「品質管理体制の向上」と「組織の成長」が促進されます。

品質マネジメントシステムの運用PDCAの重要性

品質マネジメントシステムの効果的な運用において、PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルは不可欠なフレームワークです。

PDCAは、品質管理を継続的に改善するための基本的なプロセスであり、ISO 9001の基本原則にも組み込まれています。以下で、それぞれのステップを詳しく説明します。

項目内容
Plan(計画)組織の品質目標を設定し、これを達成するための具体的な計画を立てます。
Do(実行)計画に基づいて、業務プロセスや改善活動を実行します。
Check(確認)業務が計画通りに進んでいるかどうかを確認し、課題・改善点を定義します。
Act(改善)課題に対して、是正措置や改善策を講じます。必要に応じて計画を見直し、新しい目標を設定することで、次のサイクルが開始されます。

PDCAサイクルは企業の安定した成長のために重要です。改善によって、顧客を含めた市場環境の変化に対応できます。

品質マネジメントシステムを導入した際の課題

品質マネジメントシステムの導入にあたって、よくある課題を解説します。

  1. 導入コストや運用負担の課題
  2. 経営層の関与不足によるリスク
  3. 規格の形式的運用による効果減少

1.導入コストや運用負担の課題

品質マネジメントシステムの導入の際には、システム構築、内部監査の実施、文書作成、社員教育など、幅広い分野でリソースが必要です。初期・運用にあたって人件費やシステム導入・運用費がかかります。

中小企業では、人的・資金的リソースの制約から、導入・運用が困難なケースもあるのが実情です。企業規模に応じて事前に必要予算を整理したうえで、適切な計画を練りましょう。

2.経営層の関与不足によるリスク

品質マネジメントシステムの成功には、経営層の積極的な関与が不可欠です。しかし、経営層が品質管理を「現場任せ」にするケースも少なくありません。

経営層のサポートが不十分だと、品質管理の重要性が浸透せず、形骸化してしまう可能性もあります。施策実施の際には、品質方針の策定や目標設定、定期的な進捗確認など、経営層が主導するように働きかけましょう。

3.規格の形式的運用による効果減少

ISO 9001などの国際規格では、運用の手順や文書化の要求事項が定型的です。そのため、形式的な運用に終始してしまうリスクがあります。

たとえば、監査をパスするためだけに必要な書類を作成し、実際の運用改善には結びつかないケースです。これでは、品質マネジメントシステムの導入目的である品質向上が達成されず、逆に管理業務の負担が増える結果になります。

本質的な効果を見据えたうえで、品質マネジメントシステムの導入を成功させましょう。

品質マネジメントシステムの運用を成功させるためのポイント

品質マネジメントシステムの運用を成功させるために重要なポイントを解説します。

  1. 経営層のリーダーシップを強化する
  2. 社内教育と周知徹底の実施
  3. 外部コンサルタントの活用

1.経営層のリーダーシップを強化する

品質マネジメントシステムの運用を成功させるためには、経営層の積極的なリーダーシップが不可欠です。

経営層が品質方針や目標を明確にし、それを組織全体に伝えることで、従業員の意識と行動が統一されます。品質向上への取り組みは、トップダウン型のリーダーシップによって推進されるべきです。

たとえば、定期的な経営レビューや品質会議の開催、品質に関する成果の評価と表彰制度の導入などが有効です。経営層の関与が深いほど、品質文化が根付く組織が構築されます。

2.社内教育と周知徹底の実施

品質マネジメントシステムを運用するためには、従業員一人ひとりが品質管理の重要性を理解することが重要です。そのため、社内教育と周知は欠かせません。

新入社員研修や定期的な品質研修、業務マニュアルの配布などを通じて、組織内の知識レベルを均一化しましょう。

教育内容は、現場で実践できる具体的な手順や事例を盛り込むことで、従業員が日常業務に落とし込みやすくなります。

3.外部コンサルタントの活用

組織内のリソースだけで品質マネジメントシステムの導入・運用を進めるのが難しい場合、専門の外部コンサルタントを活用するのも有効です。

経験豊富な専門家のアドバイスを受けることで、導入期間を短縮できることがメリットです。外部の視点を取り入れることで、組織内では見落とされがちな課題を発見できます。

まとめ

品質マネジメントシステムは、組織の品質管理体制を強化し、競争力を向上させるための重要な取り組みです。品質管理の見える化、顧客満足度の向上、業務効率化、コスト削減、法令遵守、リスク軽減など、さまざまなメリットがあります。

品質マネジメントシステムの運用ではPDCAサイクルを継続的に回し、継続的に改善しましょう。これにより、社内外からの信頼を獲得し、企業の成長につながります。

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