「有給使って海外旅行」に資金援助9万円
実施企業の狙いとは!?
新連載スタート 第一回のテーマは「海外旅行が仕事の成長につながる?」
マモリノジダイ編集部が、企業の「守備力」の要である人事労務の施策を取材する「直撃!守る人事・動かす人事」。
第一回のテーマは「海外旅行が仕事の成長につながる?」。
マモリノジダイ読者の皆さんならご存じの通り、日本での法定年次有給日数(=働いていなくても、給与が支払われる日数)は、最大【20日】+祝日。
ちなみに……世界を見れば、アメリカ・イギリスのように有給が「ない」国も存在します。有給は義務でなく、あくまで企業が任意に設定する「福利厚生のひとつ」と位置づけられているわけです。
—— では、有給はどのくらい消化されているのでしょうか? 日本の有給取得率は、2023年時点で65.3%(厚生労働省調査)。政府目標は70%です。しかし日数で見ると、一部調査では「5日未満」が12.61%、「0日」が7%という結果も……。(1633名回答・アイティメディア/ねとらぼ調査 2025年10月)
その消化率を高めるだけでなく、事業推進力に変える驚きの取り組みがあります。有給を取得して海外旅行に行くと3万円を支給するという、株式会社アレックスソリューションズの「弾丸バックパッカー助成金」。
その仕組み・狙い・運用の効果とは——? 同社・大野雅宏社長を直撃しました。

| 株式会社アレックスソリューションズ 代表取締役 大野雅宏 大学在学中、エジプト・アレクサンドリアへ語学留学。帰国後、学習塾講師、SI会社を経て、2007年にアレックスソリューションズを設立。日本企業の海外部門向けに、英語力を備えたITエンジニアを常駐型で派遣する事業で成長。法人向け外国語研修事業なども展開する。現在、東京/シンガポール/スリランカ/メルボルン/バンクーバーに支社を置く。 |
有給をとって、海外へ行け!? 異例の福利厚生を取材

——「弾丸バックパッカー助成金」の概要について教えてください。
アレックスソリューションズ 大野社長:
簡単に言えば、週末を利用して海外旅行へ行く社員に対して、さらに有給休暇を組み合わせて取得した場合「有給消化1日につき3万円」を会社が補助する仕組みです。
一回で申請できる上限は「有給3日分」まで。例えば週末2日に有給3日を足して、4泊5日の旅行へ行くとしますよね。その場合、有給3日分×3万円で、合計9万円が支給されます。
—— かなり手厚いですね。9万円あれば、行き先によっては5日間の旅費の相当な部分をカバーできそうです。
大野社長 そうですね。遠くへは行けませんが、時期を選んでアジア諸国へ旅をするならフライト代くらいは充分まかなえるでしょう。
—— 国内旅行は対象にならない?
大野社長 はい。「弾丸バックパッカー助成金」の対象はあくまで「海外旅行」のみ。実はそこが、この制度のポイントでもあるんですよ。
「弾丸旅行」という究極のPDCA研修

—— なぜこのような制度を導入されたのでしょうか?
大野社長 もちろん企業として、有給消化の促進を目指すため。しかし、その条件を「海外旅行」に限定した理由は、当社の経営理念とビジネスモデルにあります。
アレックスソリューションズは、日本企業の海外部署を主な取引先として、外国語が堪能なエンジニアを常駐派遣するSIerです。だから、社員はほぼ全員、留学経験があります。私自身もエジプト・アレクサンドリアへ語学留学し、バックパッカーとして過ごした時期もあった。つまり当社は旅好きの集まりなんですよ。
—— 海外旅行支援は、社員のモチベーションを上げる施策だと。
大野社長 それに加えて、弾丸旅行は「PDCAを回すトレーニング」にもなるのです。エンジニアとして客先に常駐するという職場環境では、週末に有給をくっつけて5日間も休むとなると、正直なところ周囲には迷惑がかかりますよね(笑)。
だからこそ「弾丸バックパッカー助成金」の利用者は、事前に仕事を割り振り、根回しをして完璧な報連相を行う必要があります。さらに、限られた日数で効率よく旅先を回るために情報収集し、プランを立て、現地で想定外のことが起きれば自力で修正して帰ってこなければなりません。
—— なるほど。一連のプロセス自体が、業務に必要なスキルに直結しているわけですね。
大野社長 その通りです。この制度自体は当社社員は誰でも使えますが、実際には「休んでも大丈夫だ」と周囲に認められるポジションをとらなくてはならない。自分のせいで仕事の進行を止めてまで「旅行に行ってきます」とは言えませんから。
逆に言えば「弾丸バックパッカー助成金」を使えるということは、その人が現場で高く評価されており、自己管理ができていることの証明になります。利用を目指して頑張る動機付けにもなっています。
クライアントがいるなかで、働きながら旅するというPDCAを回す経験は、必ず帰国後の仕事に活きます。そうした経験を積めるのであれば、会社からお金を出しても「研修費」と考えれば安いものだというのが、この制度を作った背景です。
「留学生を活かす」経営メッセージとしての福利厚生
—— 制度導入後、社員の方々に変化は見られましたか?
大野社長 渡航前には「周囲に安心してもらって旅に出られるよう、仕事の質を上げる」という姿勢が見られます。そして一番変わるのは、帰国後ですね。自分で宿や航空券を手配し、見知らぬ土地を攻略して無事に帰ってくる。その経験が「自分はこれだけのことができるんだ」という大きな自信になるんです。特に女性社員などは「私、一人でベトナム行って帰ってこれた!」と、顔つきが変わりますよ。
—— 自信がつき、業務にも還元されていると。
大野社長 そう。仕事のスピード感が上がり、「とりあえず動いてみる」という行動力が身につきます。また、先々を想定した段取りも上手くなりますね。座学の研修を受けさせることも大切ですが、旅は人を成長させる。良い研修になっていると実感しています。

—— 採用面での効果もありそうに思います。
大野社長 非常に大きいです。「この制度を見て応募しました」という人が増えています。当社は元々、留学経験がありながら、就職して日々の業務に追われ、海外への情熱がくすぶっている元留学生を採用のターゲットにしています。
そうした人たちに「仕事をしながら海外へ行こう、あの頃のチャレンジャーな気持ちを思い出そう」と呼びかけている。この制度は、当社の経営理念のシンボルでもあるんです。
—— どのような媒体で募集を?
大野社長 主に自社サイトとInstagramです。特にInstagramは、現在ワーキングホリデー中で「帰国後どうしよう」と考えている人がよく見ているようで、そこへのアプローチが効果を上げています。コストをかけずに、月2〜3名の採用がコンスタントにできています。
そして、弾丸バックパッカー助成金はあくまで入り口。当社にはほかにも「旅」をテーマにした福利厚生があります。
続々生まれる「旅人」サポート型の人事制度

—— 「弾丸旅行」のほかにも独自の人事制度が?
大野社長 はい。その次には「フリーバカンス制度」というものがあります。これはプロジェクトの合間に「1ヶ月間の特別有給休暇」を付与する制度で、その間に給与も出ます。
—— 3日間の助成だけでなく、1ヶ月も。どのような背景でしょうか。
大野社長 実は、旅行好きの社員が「旅に行きたいから辞めます」という離職を防ぐために作った制度なんです。ウユニ塩湖やオーロラなど、弾丸旅行で行けない遠方への旅に使われています。1ヶ月あると自分のキャリアを見つめ直す時間にもなり、復帰後の仕事への向き合い方が一段階深まりますね。
さらにその先には、スリランカやシンガポールといった、アレックスソリューションズの現地法人に3ヶ月滞在する「海外研修制度」もあります。
—— 3日、1ヶ月、3ヶ月と、段階的に海外経験を伸ばしていける仕組みを整えている。
大野社長 ただ、会社として投資もしているので、「フリーバカンス」や「海外研修」といった大きな制度を使った場合は「帰国後1年間は在籍して成果を出すこと」を条件にしています。旅行に行くだけ行って「辞めます」では、会社も持ちませんから。そこはしっかりと成果で返していただいています。
—— 従業員エンゲージメントが高いからこそ成り立つ制度ですね。
大野社長 ええ、その視点は重要だと思います。もちろん、他社に転職していくこともある。英語とITができ、海外経験もある人材は5年もすれば市場価値が上がり、外資系や大手企業のヘッドハンティングの対象になる人も多いですよ。
しかし、彼らが転職した先のお客様から「人が足りないから誰かいませんか?」と発注をいただくことも多く、良い循環が生まれているんです。
退職者が新たな顧客になる場合もあるなら、いい意味で「卒業」ではないでしょうか。
—— まさに、旅とともにある制度設計です。今後の展望についてお聞かせください。
大野社長 私たちが目指しているのは、「留学生を育て、活かし、伸ばす」というサイクルの構築です。学生時代に世界を旅する魅力に目覚めた若者が、留学を経て成長し、やがて当社に入社して活躍する。そんなグローバル人材のエコシステムを一気通貫で作っていきたいと考えています。現在は「活かす」部分がメインですが、今後は「育てる」「集める」領域をさらに強化していきたいですね。
アレックスソリューションズの「弾丸バックパッカー助成金」は、建付けとしては「有給消化」をテーマにした「守り」の施策。
しかし、その裏には「旅」を起点に、ITエンジニア派遣というインドアのビジネスにアクティブな人材を呼び込み、モチベーションを持続させながら自己成長も促すという大胆な経営戦略がありました。中小企業だからこその強い個性を放つ経営理念と、一点突破の実行力を学べる事例です。
次回も、ユニークな人事施策を紹介します。
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