甘く見ていた…それが命取りに。中小企業こそやるべき反社チェックのリアル・ノウハウ

闇バイトやトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ) ――最近、ニュースで耳にする機会が増えた言葉です。
一見すると個人の問題のようにも思えますが、実は企業活動とも無関係ではありません。たとえば、採用候補者が『闇バイトに加担していた恐れがある』『SNSで炎上していた可能性がある』などの風評リスクの疑いが――そんな事例が、今や中小企業の現場でも起こり得る時代です。
SNSによる情報拡散のスピードや、社会の目の厳しさを考えると、たとえ疑いの段階であっても、企業の信用や採用ブランドに深刻な影響を及ぼす可能性があります。
こうしたリスクを未然に防ぐために、欠かせないのが反社チェック*(コンプライアンスチェック)です。
*反社チェックとは、取引先や従業員などに反社会的勢力との関係が無いか、風評リスクを含んでいないかを、事前に確認することをいいます
今回は、コンプライアンスチェックを自動化できるツール「RoboRobo コンプライアンスチェック」を展開するオープン株式会社 RoboRobo事業部 営業本部 セールス部 兼 アライアンス部 部長の関根氏に、反社チェックの基本、実務上の留意点、対応時の考え方について詳しく伺いました。
関根 一真氏プロフィール
オープン株式会社
RoboRobo事業部 マーケティング部 兼 アライアンス部 部長
IPO準備企業の反社チェック体制構築支援に特化し、 年間40社以上のIPO企業に携わる。
現在は、セミナーや展示会を通じて、 上場準備における反社チェックの重要性を啓蒙し、 多くの企業の企業価値向上やIPO体制構築サポートに従事。
なぜ今、反社チェックが必要なのか?――炎上も訴訟も他人事ではない。企業を取り巻くリスクの現実
「業務委託契約の相手に反社との関係が判明し、訴訟トラブルに発展した」
「SNSに投稿された過去の噂が発端で、反社とのつながりを疑われた」
こうした話は、決して大企業や特別な業界に限ったことではありません。
いまや中小企業でも、こうしたリスクは日常的に起こりうるものとなり、反社チェックへの関心が高まっています。
対象は取引先・業務委託先・パートナー・採用候補者など多岐にわたり、「事前にチェックをしていなかったら巻き込まれていた」という声も少なくありません。
ではなぜ、反社チェックの重要性がここまで増しているのでしょうか?
関根氏にお話を伺いました。
「近年、SNSの普及などにより、誰もが企業に関する情報や評判を気軽に発信・閲覧できる時代になっています。このような環境では、企業が反社会的勢力と関係を持っていたことが一度でも明るみに出れば、たちまち深刻な風評被害につながりかねません。 暴力団や総会屋など、誰が見ても明らかな反社会的勢力との関係は、現在でも多くの企業が避けていると思います。 ピーク時には10万人もいた暴力団構成員・準構成員の数は1/5の2万人前後まで減少しましたが、見た目や活動内容だけでは判断がつきにくい、いわゆるグレーゾーンの人物や団体は増えてきています。たとえば、闇バイトやトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)という言葉は、ここ1年ほどで急に耳にするようになったのではないでしょうか。 闇バイトやトクリュウは匿名性が高く、組織の実態が見えにくいため、知らず知らずのうちに企業活動がそうした勢力と接点を持ってしまうリスクが高まっているのです。 その意味でも、取引先や従業員などが反社会的勢力との関係も含めた風評リスクが無いかを事前に確認する反社チェックの重要性は、これまで以上に増していると感じています。」 |
さらに、反社チェックを行わなかったことでトラブルに発展した実例や、実際にチェックがどの程度機能しているのか――その実情についても伺いました。
6割の企業が反社チェックで候補者を謝絶――知らぬ間に反社と接点を持ってしまうリスクが増大
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「実は、反社チェックを行っていなかったことが原因で、訴訟に発展したケースもあります。これはある上場準備中の企業で起きた事例です。 事業が急成長していた同社では、人員の採用や業務委託先の拡大が急ピッチで進んでいました。そのなかで、どうしても反社チェックが後回しになり、確認が甘くなっていたようです。その後、上場準備の一環として反社チェックを実施したところ、業務委託者のうち数名に前科があることが判明。契約を解除したものの、『契約解除は不当だ』と訴えられてしまいました。 日本では特定の職種等以外では前科の告知が法律で義務付けられていません。そのため、契約書に告知義務に関する記載がなく、『契約解除は一方的で不当だ』という主張がなされたのです。結果として企業側は、個人に対し数百万円の和解金を支払うことになりました。」 |
また、関根氏は次のようにも語ります。
「最近、弊社ツールのユーザー企業を対象にアンケートを実施したのですが、『反社チェックの結果、取引を謝絶した個人・法人はいましたか?』という問いに対し、約6割の企業が『ある』と回答しました。」 |
反社チェックを行った件数に対する検知率としては数%程度とのことですが、実際に事前チェックを行っていたからこそ、取引すべきでない相手と関わらずに済んだという声が多く寄せられています。
つまり、企業の規模にかかわらず、反社チェックの基本を理解し、備えておくことが、リスク回避に直結するということです。
では、反社チェックとは具体的にどのようなものなのか?誰を対象に、どのように行えばよいのか?
その基本について関根氏に伺います。
反社チェックの基本――「誰を、どこまで調べればいいのか?」の正しい考え方
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反社会的勢力との関わりが明らかになった場合、行政からの勧告や処分の対象となる可能性があります。また、銀行からの融資停止や取引先からの契約解除といった深刻な影響が及ぶこともあります。
こうしたリスクを回避するために実施するのが、反社チェックです。取引先や従業員など、自社と関係を持つ人物や組織が、反社会的勢力とつながっていないかを事前に確認することを指します。
関根氏は、チェックの対象について次のように語ります。
「関係者すべてを網羅的にチェックする必要はありません。 自社のフェーズ――たとえば、上場準備中かどうか、企業規模、業種――などを踏まえたうえで、対象範囲を適切に設定するのがよいと思います。 たとえば上場準備中の企業では、株主上位50名や役員の二親等内の親族までを調査対象とする厳格なチェックが求められます。 一方、一般的な中小企業の場合でも、販売先・仕入先などの主要取引先はもちろん、フリーランスや業務委託先、採用予定の従業員など、契約を結ぶ相手については反社チェックを実施しておくことが推奨されています。 特に個人との業務委託契約においては、本人確認が曖昧になりがちであり、契約締結時点で簡易な経歴・評判を確認しておく企業が増えています。」 |
また、調査手法としては、インターネット記事や新聞記事の確認は、比較的手軽でコストもかからず、取り組みやすい方法です。
ただし、調査対象が自社の従業員や採用候補者である場合には、特に注意が必要です。
「本人の同意なく、履歴書に記載された氏名や生年月日をもとにSNSやネット情報を検索する、いわゆるクロスマッチングを行うと、個人情報保護法に抵触する可能性があります。 採用選考などでの反社チェックには、あらかじめ同意を得たうえで実施することが大前提です。 一方、法人や取引先企業に対しての調査では、会社名や代表者名など公表情報をもとに検索するため、こうしたリスクは問題になりません。」 |
どこまで反社チェックを行うかは、最終的には各企業の判断に委ねられますが、調査対象者の役割や関与度合いを踏まえて、「誰に、どこまで、どうやって行うか」を事前にルール化しておくことが、企業のリスク管理において非常に重要です。
グレーゾーンの判断と限界――リスク情報は事件だけではない
しかし、反社チェックの現場では、グレーゾーンの人物・企業への対応が、最も判断に迷うポイントのひとつです。
関根氏はこう語ります。
「明らかに暴力団や犯罪歴のある人物であれば、新聞やニュースサイトに情報があり、判断は比較的容易です。 判断に迷うのは、SNSや掲示板サイトなどで風評や噂が立っている場合です。たとえば、取引先の代表者がSNS上でグレーな人物とされる人物と一緒に写っている写真が見つかった、というようなケースですね。 このようなケースでは、情報の真偽や関係性の深さを確認するのが難しく、最終的な判断は企業に委ねられることになります。 判断に迷う場合は、警察や専門機関へ相談してみてはいかがでしょうか。 たとえば、全国暴力追放運動推進センターや、各都道府県の暴力追放センターに一度相談したうえで、警察に行くというケースがあります。 実際、企業が反社チェックで不審な情報を検知し、警察に個別相談してアドバイスを得たという事例は少なくありません。」 |
グレーな情報があるからといって、すべてを排除することは現実的ではありません。
だからこそ重要なのは、いざというときに備えておくことです。
万が一、反社会的勢力やその関係者との関係が明らかになった場合に、慌てず適切に対処できるよう、事後対応の方針や相談体制を整えておくことが、企業を守る大きな備えになります。
では、実際に関係が判明した場合、企業はどのように対応すべきなのでしょうか。
関根氏に、事後対応の考え方についても伺いました。
もし反社と関わってしまったら――「知らなかった」では済まされない、その後の対応フロー
万が一、反社会的勢力やその関係者と知らずに取引を結んでしまったり、採用してしまった場合には、できるだけ早く弁護士に相談することが第一歩です。
顧問弁護士がいればそちらに、いなければ外部の専門弁護士に連絡をとりましょう。
関根氏も、次のようにアドバイスします。
「まずは法的な視点から、契約の解除や取引の謝絶が可能かを確認します。特に相手が暴力団関係者であった場合などは、弁護士だけでなく、警察との連携も不可欠になります。弁護士に相談すれば、警察とどう連携すべきかについても具体的な対応策を提示してもらえるはずです。とにかく、最初の判断を誤らないことが重要です。」 |
反社と知らずに関わってしまった事実を正直に伝え、適切なプロセスで対処を進めることが、後々のトラブルを回避する最大のカギになります。
「知らなかった」「書類上は問題なかった」といった言い訳は、今や通用しません。契約の解除や取引の停止を進める際には、法的根拠に基づいた正当な手順を踏むことが不可欠です。
中小企業でも求められる反社チェック――「うちは関係ない」は、もう通用しない
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「今まで問題が起きなかったから、大丈夫」
「もしもの時には、誰かが何とかしてくれるだろう」
そうした受け身の姿勢のままでは、もはや企業を守ることは難しい時代になりました。
反社やグレーゾーンの個人・法人との関わりによるリスクは、いつどこで降りかかるか分かりません。中小企業であっても、常にその可能性と向き合う必要があります。
関根氏は語ります。
「上場準備をきっかけに反社チェックを導入する企業が多いのは確かですが、本来は、数名規模の中小企業であっても取り組むべきだと考えています。 人事や管理部門が主体となるケースが多いですが、営業部門にも意識を持ってほしいです。 たとえば訪問時に少し様子がおかしいと感じることがあれば、その違和感を早めに社内で共有することが大切です。 企業にとって、人材は最も大切な資産です。自社の従業員を守るためにも、取引先や関係先の選定において、適切なリスクヘッジを講じる企業が増えてほしいと思います。」 |
今回のインタビューを通じて、関根氏が繰り返し伝えていたのは、反社チェックは一部の企業だけが行う特別な対策ではなく、すべての企業に求められる“当たり前の備え”であるということでした。
トラブルを未然に防ぐためには、反社の実態や社会的なリスクの在り方を知り、自社の状況に即した対策を考えることが第一歩になります。
経営者の方、新規取引先の選定に関わる方、営業・採用などの現場に携わる方にとって、「今、どこまで備えるべきか?」を考えるきっかけになれば幸いです。