【2025年】厚生労働省が定めるハラスメントの定義を知って、企業の安定した経営を守ろう!

職場のハラスメントは、従業員の尊厳と心身を傷つけ、生産性の低下や離職にもつながる深刻な問題です。とくに中小企業では、限られたリソースの中で効果的な対策が求められます。
この記事では、厚生労働省が示すハラスメントの定義や種類、そして法律で義務付けられている事業主の対応方針をわかりやすく解説します。
また、厚労省の信頼性の高い資料に基づき、中小企業の担当者が実務にすぐに活かせる情報を整理しました。
目次
なぜ今、厚生労働省の見解に基づくハラスメント対策が必要なのか?
「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称:労働施策総合推進法、パワハラ防止法)が改正されました。
この改正により、2020年6月(中小企業は2022年4月)から、事業主に職場におけるパワーハラスメントを防止するために、雇用管理上の措置を講じることが法律上の義務となりました。
今、厚生労働省の見解に基づく対策が必要な理由は、法律で定められた事業主の義務を具体的に果たすためのよりどころとなるのが、厚生労働省が公表する指針や資料だからです。
また、社会全体でハラスメントに対する意識が高まる中、企業が適切な対策を講じているかどうかが厳しく問われるようになっています。厚生労働省の見解に基づいた対策は、社会的なスタンダードとなりつつあり、企業が果たす責任を示す上でも重要です。
参考)厚生労働省「労働施策総合推進法の改正(パワハラ防止対策義務化)について」
厚労省が定める代表的なハラスメントの種類と定義
ここでは、厚生労働省が示す代表的なハラスメントの種類と、それぞれの定義について詳しく確認していきます。
パワーハラスメント(パワハラ)の定義
パワーハラスメント(パワハラ)は、労働施策総合推進法に基づき、厚生労働省の指針によって以下のように定義されています。
職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。 |
出典)厚生労働省「ハラスメントの定義」
上司から部下への言動だけでなく、同僚間や部下から上司への言動でも、関係性の優位性があれば該当し得ます。
業務上明らかに必要性のない言動や、業務の目的を達成するための手段として不相当な言動がパワハラにあたりますが、適正な業務指示や指導は含まれません。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)の定義
セクシュアルハラスメントは、男女雇用機会均等法に基づき、厚生労働省の指針によって以下のように定義されています。
「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいいます。 |
出典)厚生労働省「ハラスメントの定義」
セクシュアルハラスメントには、主に以下の2つの類型があります。
- 対価型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動に対し、拒否や抵抗をしたことで、解雇や降格、減給といった雇用上の不利益を受けるもの
- 環境型セクシュアルハラスメント
労働者の意に反する性的な言動により、職場の環境が不快なものとなり、能力の発揮に悪影響が出るなど、就業する上で見過ごせない程度の支障が生じるもの
「職場」には、勤務場所だけでなく、業務遂行の場となる出張先や取引先の場所、懇親会等も含まれます。
妊娠・出産・育児休業に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)の定義
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは、男女雇用機会均等法および育児・介護休業法に基づき、厚生労働省の指針によって以下のように定義されています。
「職場」において行われる上司・同僚からの言動(妊娠・出産したこと、育児休業、介護休業等の利用に関する言動)により、妊娠・出産した「女性労働者」や育児休業・介護休業等を申出・取得した「男女労働者」の就業環境が害されることをいいます。 |
出典)厚生労働省「ハラスメントの定義」
具体的には、以下の2つの類型があります。
- 制度等の利用に関するハラスメント
育児休業や時短勤務制度などの利用に関する言動により、就業環境が害されるもの
- 状態に関するハラスメント
妊娠や出産といった女性の身体の状態に関する言動により、就業環境が害されるもの
労働者の意に反する言動によって就業環境が害される場合に該当します。
カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義
カスタマーハラスメントは、顧客や取引先といった事業所の外の人物からの不当な要求や迷惑行為によって、従業員の就業環境が害されるものです。
現時点では、パワーハラスメントのように法律で明確に定義されたものではありません。
企業は、顧客等からのクレームや要望に対し誠実な対応が求められますが、その範囲を超えた、以下のような行為はカスハラに該当し得ます。
- 暴行や傷害
- 脅迫や恐喝
- 土下座の要求などの威圧的な言動
- 性的、人種的な差別発言
- 執拗なつきまとい
- 合理的理由のない長時間拘束
カスハラは、対応する従業員の精神的・身体的な負担が大きく、離職の原因にもなり得ます。
参考)厚生労働省「ハラスメントの定義」
就活生に対するハラスメント(オワハラなど)の定義
就活生に対するハラスメントも、カスタマーハラスメントと同様、現時点では法律で明確に定義されているものではありません。
「オワハラ」は「就職活動終われハラスメント」の略で、企業が就職活動中の学生に対し、内定承諾を強要したり、他社の選考を辞退させたりする行為を指す俗称です。
このほかに、採用面接時に性的質問をする、容姿について言及するといったハラスメントも問題視されています。
このようなハラスメントは、企業の採用活動の公平性を損なうだけでなく、企業イメージの低下にもつながります。
参考)厚生労働省「ハラスメントの定義」
【法的義務】厚生労働省が求める事業主のハラスメント対応
職場におけるハラスメント対策は、今や企業の社会的責任というだけでなく、法律に基づいた事業主の法的義務です。
厚生労働省が事業主に講じるよう求めている主なハラスメント防止措置は、以下の通りです。
- 事業主の方針の明確化と周知・啓発
- 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するための体制の整備
- 職場におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
- あわせて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取扱いの禁止)
厚生労働省が求めるこれらの法的義務を果たすことは、単に法律を遵守するというだけでなく、従業員が安心して働き、それぞれの能力を十分に発揮できる職場環境を作り出すために不可欠です。
中小企業が注意すべきハラスメントの事例
ここでは、中小企業がとくに注意すべきハラスメントの一般的な事例と、そこから得られる学びを提示します。
種類 | 一般的な事例 | 得られる学び |
セクハラ | ・性的な冗談を言ったり、不必要に身体に触ったりする ・性的な内容の情報を意図的に社内外に流布 | ・定義と具体的な言動例を全従業員に周知徹底する ・防止措置を確実に講じる ・被害にあった際に安心して相談できる体制を整備する |
パワハラ | ・殴る、蹴るといった暴力行為 ・脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃 ・隔離、仲間外し、無視などの人間関係からの切り離し ・遂行不可能なノルマを課す、業務と無関係なことを強要する ・業務を与えない、能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じる ・プライベートに過度に立ち入る | ・経営者や管理職が定義や類型を正しく理解 ・部下への指導方法について学ぶ機会を設ける ・従業員がパワハラについて相談できる窓口を設ける ・問題発生時には迅速かつ公正な対応をおこなう体制の整備 |
カスハラ | ・従業員に一人で対応させている ・カスハラを受けた従業員に対して、企業の対応方針や相談窓口が示されていない ・従業員が相談しても真摯に話を聞かず、適切な措置を講じない ・カスハラ行為者に対する毅然とした対応をおこなわず、被害が拡大している | ・対応マニュアルの作成 ・複数での対応 ・状況に応じた警察への連絡基準などを定める ・被害者へのメンタルヘルスケアを含めたサポート体制を整備する |
よくあるハラスメントの事例を知ることで、防止策を用意することが可能となります。被害を認識することが、最初の一歩です。
中小企業は厚生労働省の参考資料を有効に活用しよう
限られたリソースの中でハラスメント対策を進める中小企業にとって、厚生労働省が提供する参考資料や支援制度は非常に強力な味方となります。
厚生労働省が提供するハラスメント関係資料
厚生労働省は、職場での意識啓発に役立つポスターやリーフレットを各種提供しています。
また、ハラスメントの防止措置として、事業主が対策を進める上で参考となる、企業向けのマニュアルや研修資料も提供しています。
資料を活用することで、専門家の知見に基づいた、より効果的かつ法的な対策が可能になるのです。
参考)厚生労働省「ハラスメント関係資料ダウンロードコーナー」
相談窓口や支援制度の活用
ハラスメント対策を進める中で疑問が生じた場合や、実際にハラスメントが発生した場合の対応に迷うこともあるかもしれません。そのような時には、厚生労働省や関連機関が設けている相談窓口や支援制度を活用できます。
相談窓口や支援制度を積極的に活用することで、中小企業でも孤立することなく、適切なハラスメント対策を進められます。
参考)厚生労働省「都道府県労働局・労働基準監督署及び総合労働相談コーナー」
まとめ
この記事では、厚生労働省が定めるハラスメントの定義や種類、そして中小企業を含む全事業主に課せられた法的義務について解説しました。
パワハラ、セクハラ、マタハラ等の防止措置は、リスク回避だけでなく、従業員のエンゲージメント向上や企業イメージ向上にもつながります。
厚生労働省は、対策に役立つ多くの資料や相談窓口を提供しています。積極的に活用し、自社の状況に合わせた効果的なハラスメント対策を進めましょう。
関連記事
-
企業の社会貢献にはどのようなメリットがある? 事例を知って社会的評価を高めよう
現代において、「社会貢献」は企業の規模を問わず、持続的な成長に不可欠な要素となりました。単なる慈善活動ではなく、事業と社会の関わり方を再定義する動きが世界中で加速しています。
とくに地域とのつながりが深い中小企業にとって、社会貢献は企業イメージ向上、人材確保、そして新たなビジネス機会創出の鍵となるのです。
この記事では、社会貢献の定義から中小企業が取り組むメリット、事例、成功のための実践的なポイントまでを網羅的に解説します。
-
コンプライアンスの教育はどうすればいい?目的・実施方法を学んで経営を安定化!
近年、企業を取り巻く社会環境は複雑化し、コンプライアンス違反による企業イメージの失墜や経営リスクが増大しています。
そのため、企業が持続的な成長を遂げるためには、従業員一人ひとりが高い倫理観を持ち、法令や企業倫理を遵守する意識を持つことが不可欠です。
しかし、コンプライアンス教育は、単に法令や規則を教えるだけでは不十分です。従業員が自発的にコンプライアンスを意識し、行動に移せるよう、教育の目的を明確にし、効果的な実施方法を検討する必要があります。
この記事では、コンプライアンス教育の目的や具体的な実施方法について詳しく解説します。
-
環境基本法とは?内容と中小企業の取り組み事例をわかりやすく紹介
近年、地球温暖化や資源の枯渇、生物多様性の損失など、私たちの暮らしや経済活動に深刻な影響を及ぼす環境問題への関心が世界的に高まっています。こうした状況に対し、日本の環境政策の根幹をなしているのが「環境基本法」です。
環境基本法では、事業者に対して環境に配慮した企業活動が求められています。
この記事では、環境基本法の制定背景や企業が環境保全に取り組むべき理由、中小企業の具体的な取り組み事例まで、幅広く解説します。環境基本法への理解を深め、持続可能な社会に向けた取り組みを考えていきましょう。
-
法定内残業とは何か?法定外残業との違いや割増賃金の計算方法も解説
同じ残業でも、「法定内残業」と「法定外残業」があるということを知り、それぞれの違いを正確に把握したいと考えている方も多いのではないでしょうか。
実際、法定内残業と法定外残業では扱いが異なります。
企業の労務担当者が認識を間違えていると、不適切な残業代の支払いをしてしまう可能性も出てきますので、特に注意が必要です。
本記事では、法定内残業と法定外残業の違いや、それぞれの割増賃金などについて詳しく解説しています。
労働基準法に沿った適切な残業代を支払うために、ぜひ参考にしてください。
-
残業代の未払いに潜む4つのリスクとは?中小企業が取るべき対処法
近年、働き方改革の推進により、労働者の権利意識が高まり、残業代の未払い問題は社会的に注目を集めています。
とくに中小企業においては、人材不足やコスト削減の観点から、残業時間の管理が曖昧になりがちで、未払い残業代が発生しやすいです。
しかし、未払いの残業代は、企業にとって訴訟リスク、金銭的リスク、信用失墜リスク、人材流出リスクという4つの大きなリスクを抱えることになります。
これらのリスクは、企業の存続を揺るがす可能性も秘めており、中小企業にとって決して看過できるものではありません。
そこでこの記事では、残業代未払いが引き起こす4つのリスクと、中小企業が取るべき具体的な対処法について解説します。