【事業主向け】離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)とは?書き方、添付書類などを知っておこう

従業員が退職する際に必要な「離職証明書」は、退職者が雇用保険の基本手当を受給するために大変重要な書類です。
会社側には正確な作成と手続きが求められ、書き方や関連書類との違いなど、戸惑うことも少なくありません。
この記事では、離職証明書の基礎知識から入手方法や記入例、よくあるトラブルとその対処法まで網羅的に解説します。
目次
離職証明書とは?中小企業経営者・担当者が知るべき基礎知識
従業員が退職する際には、さまざまな書類の作成や提出が必要となり、中でも重要度の高いのが「離職証明書」です。
離職証明書の定義と重要性
離職証明書とは、正式には「雇用保険被保険者離職証明書」といいます。これは、雇用保険に加入していた従業員が退職する際に、事業主が作成し、ハローワークに提出する公的な書類です。
退職した従業員が雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)を受給できるかどうか、またいくら受給できるかをハローワークが判断するための基礎資料となります。
会社にとっては、雇用保険法第7条に基づいて作成・提出が義務付けられている重要な手続きの一つです。従業員が離職証明書の発行を希望した場合、会社は原則としてこれを拒否することはできません。
正確な情報に基づいて迅速に作成・提出することは、会社のコンプライアンス遵守という点からも非常に重要です。
参考)e-Gov 法令検索「雇用保険法」
離職票・退職証明書との違いを整理しよう
離職に関連する書類には、似た名称のものがいくつかあり、混同しやすいかもしれません。「離職証明書」と「離職票」、「退職証明書」は、それぞれ目的や発行者が異なります。
項目 | 離職証明書 | 離職票 | 退職証明書 |
正式名称 | 雇用保険被保険者離職証明書 | 雇用保険受給資格者証 | 退職証明書 |
主な目的 | 離職を公的に証明し、離職票発行の元となる | 離職者が雇用保険基本手当を受給するためにハローワークへ提出する主要書類 | 会社への在籍・退職の事実を証明 |
作成者/発行者 | 会社 | ハローワーク | 会社 |
法定様式の有無 | あり | あり | なし |
雇用保険基本手当との関連 | 離職票発行のために不可欠 | 受給手続きに必須 | 直接の関連なし |
とくに離職証明書と離職票は、会社とハローワーク、そして離職者の間でリレーされる重要な書類であることを押さえておく必要があります。
参考記事:離職とは?中小企業が押さえるべき基礎知識・手続き・防止策を徹底解説
離職証明書はどこでもらえる?
離職証明書の「様式」(フォーマット)はいくつかの方法で入手できます。ここでは、離職証明書の様式をどこで入手できるのか、主な方法をご紹介します。
ハローワークでの入手
離職証明書の最も基本的な入手先は、会社の所在地を管轄するハローワークの窓口です。
ハローワークで配布されている離職証明書は、専用の複写式用紙です。3枚つづりになっており、カーボン等で複写されるようになっています。
窓口で入手するメリットは、必要な枚数をその場で受け取れることと、用紙が複写式になっているため、手書きで作成する場合に便利である点です。
インターネットでの入手方法
ハローワークの窓口に行く時間がない場合や、事前に様式を確認したい場合は、インターネットから離職証明書の様式をダウンロードすることも可能です。
以下のサイトから様式をダウンロードできます。
参考)厚生労働省「事業主向け 雇用保険各種様式のダウンロード」
ただし、ダウンロードできる様式は、プリンターで印刷して使用することになり、複数枚を提出する必要があるため注意が必要です。
離職証明書の書き方と記入例
ここでは、中小企業の経営者・バックオフィス担当者が、離職証明書を適切に作成できるよう、書き方のポイントと記入例を分かりやすく解説します。
事業主が記載する基本項目
離職証明書は、主に事業主が記載する項目と、離職者が内容を確認・署名する項目に分かれており、事業主が記載する主な項目と注意点は以下の通りです。
項目 | 内容と注意点 |
事業所情報 | 事業所番号、事業所名、所在地など |
離職者情報 | 被保険者番号、氏名、生年月日、離職日現在の住所など |
離職年月日と理由 | 離職年月日と離職理由を詳細かつ正確に記載 ※基本手当の受給開始時期や給付日数に影響を与える可能性 |
離職日以前の賃金支払状況等 | 離職日以前2年間について、賃金の計算期間、日数、賃金支払対象期間、賃金の種類ごとの金額(基本給、通勤手当など)を記載 ※基本手当の額を算定するために重要 |
被保険者期間算定対象期間 | 雇用保険の被保険者期間を算定するための期間を記載離職日以前2年間で、賃金支払日数が11日以上ある月、または賃金支払額が賃金日額の80時間分以上である月 ※基本手当を受給するためには、原則としてこの期間が離職日以前2年間に12か月以上必要 |
備考 | 特記事項がある場合 |
離職証明書の記入例
ここでは、とくに間違いやすい「離職日以前の賃金支払状況等」と「離職理由」の記入例について解説します。
離職日以前の賃金支払状況等
この欄には、離職日を含む月からさかのぼって2年間の賃金支払状況を記載します。基本手当の額を算定するために、離職日以前の6か月間の賃金がとくに重要になります。
時給者の場合も、基本的には月給者と同様ですが、日数のカウントや賃金計算の期間に注意が必要です。
また、「被保険者期間算定対象期間」の判定においては、賃金支払日数が11日未満であっても、賃金支払額が賃金日額の80時間分以上であれば1か月としてカウントできる場合があります。
賃金支払状況の欄には、実際に労働した時間ではなく、賃金計算期間、日数、支払われた賃金総額を記載します。
離職理由の書き方
離職証明書の離職理由は、書類の中でもとくに慎重な記載が求められる項目です。離職理由によって、基本手当の支給開始時期が、離職後7日間の待期期間満了後すぐに始まるか、それともさらに2か月または3か月の給付制限がかかるかが変わってくるためです。
様式には、離職理由の区分を選択するチェックボックスと、具体的な理由を詳細に記載する欄があります。
チェックを入れた理由について「一身上の都合」だけではなく、「家族の介護のため〇月〇日に退職」、「事業縮小に伴う人員整理のため」のように、客観的な事実を明確に書く必要があります。
記載に迷う場合は、管轄のハローワークに相談しながら作成することをおすすめします。不正確な記載は、後々トラブルの原因となる可能性があるからです。
参考)厚生労働省「離職証明書記載例」
離職証明書の添付書類
離職証明書は、単体で提出するだけでなく、いくつかの関連書類と一緒にハローワークへ提出するのが一般的です。
添付書類名 | 主な内容 | 添付が必要となる主なケース |
賃金台帳 | 従業員ごとの給与計算期間、日数、賃金支払額などが記載された書類 | 離職証明書の「離職日以前の賃金支払状況等」の記載内容を裏付けるため原則として必須 ※離職日以前1年間または2年間の賃金が確認できるよう準備 |
出勤簿(タイムカード等) | 従業員の出勤日数や労働時間などが記録された書類 | 離職証明書の「離職日以前の賃金支払状況等」における出勤日数や労働時間減少などの離職理由を裏付けるため、原則として必須 |
労働者名簿 | 従業員の氏名、生年月日、入社日、部署などが記載された書類 | 離職者の情報(とくに氏名や生年月日、入社日)を確認するため ※多くのハローワークで添付を求められる |
雇用保険被保険者証 | 従業員に交付される雇用保険加入を証明する書類 | 離職者の被保険者番号を確認するため※多くのハローワークで添付を求められる |
離職理由を確認できる書類 | 退職願、解雇通知書、退職勧奨の記録、事業所移転等の通知、医師の診断書、母子手帳など | 自己都合退職、会社都合退職、契約期間満了、正当な理由のある自己都合など、離職理由の種類に応じて必要 |
労働条件通知書または雇用契約書 | 労働条件や契約期間などが記載された書類 | 契約期間満了での離職の場合など、労働条件や契約期間を確認するため |
離職証明書の記載内容に関する確認書 | 離職証明書の内容について、離職者本人が確認・同意・異議等を記載する書類 | 拒否、所在不明など離職者が離職証明書の署名欄に署名できない場合や記載内容に異議がある場合など離職証明書の代わり、または添付として |
これ以外にも個別の事情に応じて、ハローワークが追加で書類の提出を求めることがあります。
離職証明書の発行でよくある3つのトラブルと対処法
ここでは、離職証明書の発行に関してよくある3つのトラブルと、その対処法を解説します。
トラブル1:離職理由について離職者と会社の見解が異なる
会社が客観的な事実に基づき離職理由を記載しても、離職者本人が自己都合ではない、会社都合としてほしいなどと主張し、記載内容に同意が得られないケースです。
【対処法】
離職者と意見が異なる場合は、記載内容の根拠(退職願、面談記録など)を丁寧に説明します。
それでも離職者が同意しない場合は、離職証明書の離職者本人の確認欄にある「事業主が記した離職理由に異議有り」にチェックを入れてもらい、署名または記名押印をした上で、ハローワークに提出します。
トラブル2:離職証明書の作成やハローワークへの提出が遅れてしまう
日常業務に追われる中で、離職証明書の作成や、賃金台帳・出勤簿などの添付書類の準備が遅れてしまい、離職日の翌日から原則10日以内という提出期限に間に合わなくなるケースです。
【対処法】
従業員から退職の申し出があり次第、離職日が確定したら速やかに離職証明書の作成準備に取りかかります。
作成方法に不安がある場合や、提出が遅れそうな場合は、すぐに管轄のハローワーク担当窓口に相談し、指示を仰ぐことが重要です。
トラブル3:離職証明書に記入ミスがあった
離職証明書に記載する情報(被保険者番号、離職日、賃金額など)に誤りが見つかるケースです。
【対処法】
記入ミスに気づいた場合は、速やかに管轄のハローワークに連絡し、訂正方法を確認します。多くの場合、二重線で訂正し訂正印を押印する、または新しい用紙で再作成するなどの指示があります。
ハローワーク提出後にミスが発覚した場合は、ハローワークの指示に従い、訂正した離職証明書を再提出します。必要に応じて、離職者にも訂正内容を伝え、改めて署名または記名押印を依頼することもあります。
トラブル4:離職者から「離職票が届かない」と連絡がくる
離職者が雇用保険の手続きで使うのは、離職証明書を元にハローワークが発行する「離職票」です。離職者がこの仕組みを理解しておらず、「会社から離職証明書をもらえない」と会社に問い合わせてくるケースです。
【対処法】
会社が離職票を直接発行するわけではないため、ハローワークでの手続きを経て離職票が郵送され、通常1週間~2週間程度かかることを案内します。
提出から時間がかかっているようであれば、会社からハローワークに提出状況や発送状況を確認し、もし会社がまだ提出していなかったのであれば、速やかに離職証明書を作成・提出し、離職者へその旨を連絡します。
まとめ
この記事では、離職証明書の基礎知識から入手方法や書き方、離職票等の関連書類との違い、さらには実務で起こりやすいトラブルとその対処法について解説しました。
離職証明書は、離職者が雇用保険の基本手当を受給するために必須となる公的な書類であり、事業主による正確かつ迅速な手続きが求められます。
手続きに関して不明な点が生じた場合は、管轄のハローワークへの相談が適切です。
関連記事
-
心理的安全性のつくり方!ぬるま湯職場を防止する4つの因子と取り組み事例
心理的安全性は、職場における効果的なコミュニケーションや生産性向上に欠かせない要素です。一方で心理的安全性は、甘えや「ぬるま湯」と言われる環境に変わるリスクもはらんでいます。そこで今回は、「ぬるま湯職場」を防止するための方法も紹介します。
-
クレームを生まない組織作りとは?クレーム対応のコツや例文も紹介
お客様からのクレームは企業にとって避けたいものですが、適切に対応することで顧客満足度向上や企業成長の機会となります。クレームを未然に防ぐ組織作りは重要であり、社内体制の構築、マニュアル整備、従業員教育などが挙げられます。しかし、顧客の期待は多様で「お門違いなクレーム」も存在するため、完全に防止することは難しいでしょう。この記事では、これらの情報を通して、中小企業がクレームを「成長の機会」へと転換するヒントを提供することを目指しています。
-
退職代行サービスを使われたら企業は拒否できる?対処法も解説
近年、働き方の多様化とともに、退職代行サービスの利用が一般化しつつあります。しかし、その実態や企業側の適切な対応について、十分に理解している経営者はまだ少ないのが現状です。
この記事では、まず「退職代行とは何か」という基本的な疑問から掘り下げ、企業側が退職代行を拒否できるのかという法的な側面を解説します。
さらに、従業員が退職代行を利用する背景にある理由を探り、実際に退職代行を使われた際の具体的な対処法、退職代行を使われないための予防策までを網羅的にご紹介します。
-
モデル就業規則とは?全14章を徹底解説!中小企業向けカスタマイズ方法も紹介
就業規則は、会社と従業員との間のルールを明確にし、お互いが安心して働くために欠かせないものです。
とくに中小企業にとっては、予期せぬ労使トラブルを防ぎ、健全な事業運営をおこなう上で非常に重要な役割を果たします。しかし、就業規則をゼロから作成するのは大変な労力が必要となる場合も少なくありません。
そこで参考になるのが、厚生労働省が公開している「モデル就業規則」です。この記事では、「モデル就業規則」がどのようなものか、14章からなる主要な項目内容、注意点も含めて徹底的に解説します。
-
36協定なしの残業は違法!残業時間の上限や違反時の罰則も把握しよう
36協定は、労働基準法で定められた残業(時間外労働・休日労働)時間に関する労使協定であり、従業員に法定労働時間を超える残業をさせる場合に必ず締結・届出が必要です。
36協定を締結せずに残業をさせた場合、法律違反となり罰則が科せられるだけでなく、企業イメージの悪化にもつながりかねません。
この記事では、36協定の概要から残業時間の上限、違反時の罰則まで、中小企業の経営者が知っておくべき情報をわかりやすく解説します。